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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
番外編
452/457

5

 それから1年の間に全ての報告、引き継ぎ、別れを終え、アマテラスに戻ったシラユキ、その神徒として選ばれたコガラシは、消える様にして天へと還っていった。稀に啓示が下りることはあれど、今までの様に関わり、姿を見ることは無いだろう。


「・・・タイミングも含めて運命なのでしょう。父が身体を壊したのは御二方が地上を去って5年以上経ってのことですから、責めることなど出来ません」


「そうだね。何だか、ごめんね。もし、お母様が居たら、きっとエルフレッドが回復出来るように全力を尽くしただろうから、つい・・・そのくらい恩を感じてるんだ。皆」


「その言葉だけでも父は救われると思います」


 救世の英雄、エルフレッドの名は未だに多く語られている。世界の巨龍を倒し、堕天した神徒さえも倒し、世界を救ったのだ。多くの物語や歌が作られ、平和になった世を賑わせている。


 生まれた頃には平和になった後の世の中だ。しかし、戦いが終わってまだ10年と少しーー恩を感じる者の多くが未だ健在なのである。


「そういうことだから、全女王達に協力するように通達は出してる。勿論、全員が全員、心からの善意で協力してくれる訳じゃないけど・・・少なくとも話は聞いてくれると思うから」


「ありがとうございます。助かります」


 そう言って頭を下げるレイウッドに「そのくらい君の父は偉大ってことだから、レイウッド君も頑張るんだよ?」とルーミャは微笑んだ。


「精一杯精進致します。それでは私は各領地をアルドゼイレン様と回って来ます。御身に背を向けることをお許し下さい」


「許します。妾とてエルフレッドの回復を望んでいます故・・・このライジング・サンに何かの糸口があることを祈りましょう」


 その言葉に再度、礼を告げ、背を向けたレイウッド。謁見の間を出ようと手を伸ばした所でーー。


「親を助けたい気持ちは解るけど、あの二人にとって一番は君達が幸せになることだからね?それを忘れちゃ駄目だよ」


「・・・ありがとうございます」


 振り返らずに出て行ったレイウッド。締まる戸を眺めながらルーミャは溜め息を吐いた。


「ーーエルフレッド似だし、解ってても変えないんだろうなぁ」















 それから、レイウッドはアルドゼイレンと共に各女王の領地を回り、様々な方法を調べ、時に交渉の場に立った。しかし、有用な物は無く、徒労に終わる。


 その間にも、エルフレッドの容態は悪化し、車椅子での移動の振動すらも身体に触るようになって、ベッドの上から動かぬ日も増えていった。


 焦りは募るが魔力欠乏症で無い限り、必ず循環すると言われている魔力が突然無くなっていき、終いには生命力を奪うようになるなる病など、何処の文献を探しても見当たらない。


 遂には1つの直轄地を除き、回り終え、未知の希望に猛っていた心は既知の絶望へと変わりつつあった。


「・・・やはり、無理なのかな。最後の直轄地は母さんと折り合いが悪いと聞くし」


「気を落とすのはまだ早いぞ。レイウッド。最後の最後まで希望はあるかもしれん。我も協力する故に諦めるな」


「すいません。ありがとうございます」


 空は暗くなっていたが、1秒でも早く着いて可能性を探りたかった。本日は宿に泊まり、明日に謁見の予定だが、こうなれば民間療法でも何でも可能性があるものは全て当たっていきたいと思っていた。


 酒場や宿なら聞き込みも出来るハズだ。


 全速前進のアルドゼイレンが、無数の星の光を追い抜いていく。宿の近くの光り輝く平原を目指し、巨龍は稲妻となって突き進む。


 本来ならば聖国にしか咲かないユーネ・トレニアが無数に咲く"ホタル平原"ーー。それが直轄地の目玉でもあった。


「見えて来たぞ!レイウッド」


 アルドゼイレンが声を挙げた。幻想的な花の光が2人を歓迎するかのように光り輝いている。その広大な平原に無数の星の瞬きを思わせる花の仄か光が揺れていた。


 近づき大きくなるにつれ、その広大さに驚く。一面が明滅を繰り返し、その真ん中を一本の道が真っ直ぐに走っていた。


 その一筋に走った道沿いに飛び、花を傷付けぬように減速ーー、静かに降り立ったアルドゼイレン。レイウッドはその幻想的な光景に奪われていた心を現実に引き戻すと、気を引き締めて巨龍の上から飛び降りた。


「ここからは歩いていかないと・・・アルドゼイレン様はどうしまーー」






「・・・エル・・・兄様・・・?」


 信じられないものを見たような声に驚きが振り返ると、そこには光り輝く花束を抱えた美しき女性が、金色の瞳を丸くしながら、こちらを見つめている姿があった。

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