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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
番外編
450/457

3

 驚きに言葉が出ない2人を前にして、シラユキが語った内容はこうだった。







 5年前、意識不明の重体だったリュシカが病室のベットで横たわっていた頃、突如シラユキの枕元に金色の光を纏う、ユーネ=マリアが現れたのだ。


「ミミーーじゃなくて、久しぶりです♪アマテラス先輩。御力を貸して欲しいんですけど〜♪」


 随分軽い調子で現れた彼女に溜め息を吐いたシラユキ。呆れた様子でー。


「まさか、貴女はユーネ=マリア様かえ?異国の神が遠路はるばる・・・申し訳ないが、妾はシラユキ。偉大なる先祖であられるアマテラス様では御座いませぬ」


 神が相手ということもあり、多少言葉を選びながら告げる彼女にユーネ=マリアはポンッと手を打ちーー。


「ありゃま。先輩、もしかして、神器に記憶を預けたままな感じですか?でも、そろそろ下界の偵察を終えて神界に戻ってきて貰わないとだしなぁ・・・」


 困った様子で腕を組み、暫く考え込んでいたユーネ=マリアは思い出したように「あっ!」と声を上げーー。


「そだそだ。何かの邪魔が入って神界に戻って来なかった時は渡してくれって言われてた物があったっけ?え〜と、確かーー」


 何やらの空間に手を突っ込み、古い巻物を取り出した彼女はそれをシラユキに手渡すと両手を合わせて、拝む様にしながらーー。


「とりあえず、記憶取り戻したらで良いんで、家のユーネリウスとリュシカちゃんの件だけはお願いします♪次の視察に関わるので」


 寝てる所、すいませんでした。それでは!っと元気よく消えていったユーネ=マリアに呆然としていたシラユキ。とりあえず、巻物を手に取った彼女はそれを一読すると珍しく驚いた様子で目を見開いた。












「ーー妾が、その巻物の書いてあった方法通りに神器を手に取った所、全ての記憶が蘇ったのじゃ。ユーネ=マリアの救世の種となる2人に虹の啓示を降ろし、後継を育てた後に天へと還る。それがアマテラスの記憶を取り戻した妾の勤めーールーミャが育った今、後は天に還るのみとなった訳じゃな」


 余りにも唐突に告げられ、混乱する頭ーー。しかし、コガラシにはどうしても確認しなくてはならないことがあった。


「シラユキ様のーーいえ、アマテラス様のご事情は理解しましたミャ。しかし、天に還るとは具体的にどういった状態になるのでしょうかミャ?」


 恐らく聞かずとも解っていたことだったが、しかし、想像した通りならば、それは死と変わらない別れとなる。


「そちは既に解ってるおるだろうに妾の口から聞きたいと申すか?まあ、よかろうて。妾もシラユキに引き摺られ、別れを惜しむ気持ちはある。一分一秒を急がなくてはならん訳でもないからのぅ。・・・そうさなぁ、3人の救世主がそれぞれの時代の機微を見ながら再臨する故、妾が次に降りるのは早くとも千年後。一度、別れれば再度会うことはなかろうて」


 虚空を眺め、惜しむ気持ちはあると言いながらも、あっさりと告げられた永遠の別れに思考が止まる。引き摺られているとも言ったが、記憶や意識は既にアマテラスとしてのものなのだろう。


 シラユキは手を打ち、何処からともなく取り出したキセルを蒸すと2人に視線を戻すーー。


「さて、アマテラスとしての真言じゃ。次代ルーミャはこれより女王となり、ライジングサンを更に豊かな国に出来るよう努め、励むよう心掛けよ。妾は妾の民に真を明かし、各国に触れを出した後、神界へと戻る故。時にアーニャを頼り、仲間達と相談しながら、ライジングサンひいては世界平和の礎になれるよう務めるのじゃ」


「・・・かしこまりました。アマテラス様。謹んでお受け致します」


 ルーミャとて思うことがなかった訳ではない。膝をつき、頭を垂れ、地に着いた手は微かに揺れている。溢れる涙が手の甲を濡らすのは、母という存在が既に薄れてしまっていることに気づいたからだ。


 だが、シラユキを以てして真の王足る者と言われた彼女は、私の部分で涙しながらも公の部分で頭を下げるのだ。


「そちの治世に期待しておるぞ。ーーさて、コガラシよ。妾は天に還る故に子供達やその子孫を見守る役割を代わりにしてもらわなくてはならん。妾亡き後、皆を見守り、生を終えるまで支える役目・・・押しつけることを許せ」


 横で涙しながらも確りと受け止めているルーミャに対して、コガラシは動くことが出来なかった。それは予想だにしないあまりにも唐突な別れだ。


 死が二人を分かつまで共にあると思っていた。何れは子供達も自らの家庭を持ち、関わりは薄くなっていく。しかし、彼女とは多くの時を過ごし、穏やかな最期を迎えたいと心から願っていたというのにーー。


 そんな感情が頭を支配して体が動かない。横で立派に勤めを果たし、受け入れている娘に対して、自身は何と情けないことかーー。













「・・・と言いたいところじゃがコガラシ。そちにはもう一つの選択肢があってのぅ」

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