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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第ニ章 氷海の巨龍 編
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「いやぁ、良い表情をするではないか‼︎お祖母様が"早目に来ると良いものが見れますよ"と言うから来てみれば想像以上のものが見れたぞ‼︎ハハハッ‼︎」


 リュシカは鞄から取り出した新聞を片手に大爆笑している。一面にデカデカとニヒルな笑顔で「今代ユーネリウス様は最強を目指す!」と見出しが打ってあった。やや誇張されて書かれている内容にエルフレッドは苦笑を漏らした。


「この内容を見ているとTV番組の方も心配なのだが......どんな感じだったんだ?」


「て、TVの方は......プフ!CMに入る前や放送に戻る前にエルフレッドがウインクして......プフフッ‼︎敬虔なる信徒にウイ、ウインクのプレゼントをするユーネリウス様、と......」


「......俺は今羞恥心で死にそうなんだが」


 血の気が引いて青い顔色になっているエルフレッドの横でリュシカは「この新聞は永久保存版だな‼︎」と新聞を鞄に入れ直して草臥れた表情をしている彼へと笑いかけた。


「ハハハッ!私はお陰で朝から最高に楽しめたぞ?父上はコーヒー吹き出しておったし、母上は"こんな対応も出来ますのねぇ"とーー」


「......公爵夫妻にも見られていたというのか......知りたくなかった......」


 この様子だと謁見前にヤルギス公爵家の方々との顔合わせだろう。このサプライズといい、先の言葉といい、今代の神託の聖女様は()()()()()()性格をしていらっしゃるようだ。


 エルフレッドはきっと鏡を見たら十歳は老けたなと感想を漏らすであろうくらいには萎びれていた。そんな彼の横顔を眺めていたリュシカは悪戯好きな少女を思わせる表情でニコッと笑うとエルフレッドの意識をこちらに向けるためにコホンッと咳払いをしてーー。


「ファンサービスで疲れているエルフレッドに私からウインクのプレゼント!......ブフッ‼︎」


「......リュシカ」


 公爵令嬢がブフッてお前ーー、とエルフレッドはジトリとした視線を送る。


「だ、だって、だって!そなた!普段とキャラが違い過ぎるではないか!新聞だって"大人びた外見の合間に見せたあどけなさの残る表情"だぞ!あ、あどけなさ?あどけなさなんて見たことがないーー」


 近くにテーブルがあったらバンバン叩きながら爆笑しているのだろうなぁと視線を遠くしたエルフレッドは空を見上げた。


(......案内役でなかったら置いていってやったものを)


 珍しくそんな子供染みたことを考えながら深々とため息を吐くのだった。













○●○●













 そして、エルフレッドは灰になった。チーンである。


 何とか気を取り直してヤルギス公爵家の面々へと口上を述べ始めたエルフレッドは「家族団欒での休暇中の参加大変申し訳ありませんーー」を遮る「それではお昼のワイドショーの時間です!」の言葉に眉を顰めた。


「おお!ワイドショーの時間ではないか!丁度良い!エルフレッドも突っ立ってないで一緒に見るとしよう!」


 何故か真顔だったヤルギス夫妻の目線もTVへと戻る。少し首を傾げていた彼はリュシカに押されるがまま席に着いた。


「いやぁ、始まりました!お昼のワイドショー!只今、最もホットな話題といえば、そう!今代のユーネリウス様となられたこのお方!エルフレッド=ユーネリウス=バーンシュルツ伯爵子息様ですね!」


「はい!戦士然とした眼光の鋭い風貌の方なんですけども敬虔なる信徒の方々にはウインクを見せるというチャーミングな一面を見せてくれました!」


 画面上部のモニターにウインクをするエルフレッドが表示されると隣から忍び笑いをする声が聞こえた......確信犯だな。


「そして、本日はこの訪問に尽力されました神託の聖女であられます[カシュミーヌ=アリア=グランラシア]様と御長女で次代神託の聖女であられます[クラリス=リリア=セイントルーン]様に中継が繋がっております!宜しくお願い致します!」


「......どういうことだ?」


 独り言のように呟くエルフレッドを他所にTV上の二人は「宜しくお願いします」と頭を下げている。


 クラリスはメイリアの姉ということもあって非常に良く似ているが丸顔のメイリア様と比べると少し面長で雰囲気が鋭い。ふわふわとしたメイリアに対して非常に生真面目で実直そうな雰囲気を受ける。ーーのだが少し疲れた様子で母であるカシュミーヌ様を見ている。


 カシュミーヌ様はなんというか顔立ちなどは美人で整っている印象を受ける老夫人なのだが、そことなく薫る雰囲気は隣で忍び笑いを隠せないでいるリュシカのようである。目尻を指で擦る辺り、表情こそ整えているが中継が繋がる寸前まで爆笑していた感が否めない。


「それではお話を聞いてみましょう!まずはクラリス様!今回の訪問につきましてユーネ=マリア様から神託が告げられるようなことはあったのでしょうか?」


「はい。私と母に対しましてユーネ=マリア様より御子の御来国を喜んでおられる旨の神託がありました。しっかりとおもてなしをするようにと......」


 とても丁寧な口調で答えている娘に対してカシュミーヌ様は何故か横を向いて肩を揺らしている。前を向いた時には表情が整っているのだが既に番組を見ている人々には取繕えていなかった。


「おもてなしをするようにと!はぁ〜、ユーネ=マリア様自らそう言うとは‼︎カシュミーヌ様、やはり御子様は御神様から見ても特別な存在と言う訳ですね!」


 コソコソと笑い続ける彼女にクラリス様は疲れたような表情で「......お母様」と咎めている。


「え、ええ、ええ!それはそうでしょう!なんたって愛する御子なのですから!もうそれはそれは"あのドッキリのような対応には"孫もユーネ=マリア様も喜んでーー「お、お母様‼︎本音がーー取り繕って!取り繕って下さい‼︎」


 この辺りで神様ぐるみの蛮行だと気付いて俺は神様になにかしたのだろうか?とエルフレッドは白目を向き始めていた。


「もういいじゃない!どうせ何れはバレるのだし!」


 世間話でもするように笑って小声で言っているのをマイクがバッチリと拾っている。それに気づいているのかいないのか、カシュミーヌ様はコホンッと咳払いを打った。


「実は家の孫もユーネリウス様と同じ学園に通っているのですけどもねぇ。あまり欲の無い、凄く生真面目な方だと伺っておりますし、きっと普段とは違う一面を提供出来たのでは無いでしょうか?」


「お母様......」


 何故だろうか?草臥れた様子で告げるクラリス様はこの放送中の僅かな時間で随分と老け込んでしまったように見えた。


「なるほど!そういった一面もあったのですね‼︎カシュミーヌ様、クラリス様!今日はありがとうございました!いやぁ、やはり、ユーネリウス様は特別ということが解りますねぇ〜‼︎」


「ええ!そして、普段は大変生真面目の方なのに信徒サービスでウインクまでしてくれるなんて素晴らしい方ですね‼︎」


 そして、ダメ押しとばかりに映し出された自身のウインクに燃え尽きたエルフレッド。それと同時にユーネ=マリア神とカシュミーヌ様に拭えぬ不安感を抱いたのであった。放送が終わって普段より白くなっているエルフレッドにヤルギス夫妻が振り向いた。


 ニマーとするメイリア様はきっとカシュミーヌ様寄りだ。


 そして何処か訳知り顔で申し訳無さそうにしているゼルヴィウス様はクラリス様寄りなのだろう。


「これは傑作だ‼︎流石お祖母様‼︎アハハハーー」


 空気を読まず大爆笑しながら、やっぱりテーブルをバンバン叩いているリュシカは流石である。


「ま、まあ、アレだよ!カシュミーヌ様は相変わらずだけど、これは聖人の一種の通過儀礼のようなものだから......エルフレッド君!君もそう白くならずにだねーー」


「ふふふ、それにどの姿も様になっておりましたよ!流石レイナさんの教育の賜物ですね!」


「......ありがとうございます」


 そう答えたエルフレッドだったが胸中は暗い。何故なら原因であるカシュミーヌ様との謁見まで残り三十分を切ったところだったからだ。

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