次男のお相手は・・・1
エルフレッドは遂に歩くこともままならなくなり、床に伏した。リュシカは基本的にエルフレッドの側を離れず、長男は領地経営に追われ、長女は父を思いながらも学業に勤しむ日々ー。
そんな中、学生の身ながら既にAランクの冒険者である次男ーレイウッドは学園に休学の申請を申入れる。父の友であり、天の使いである巨龍アルドゼイレンの力を借り、彼はエルフレッドを助ける術がないかを探す為、世界を飛び回るのだった。
その日、リュシカはライジングサンを訪れていた。この時において助かる見込みの無いエルフレッドの側を彼女が離れることは早々無いことである。
それでも確認しないといけないことが出来た為の訪問ーーバーンシュルツ領当主の代理として動かなくてはならない。
「突然の申入れながら対応頂いてありがとうございます。バーンシュルツ公爵夫人のリュシカ=ヘレーナ=バーンシュルツです」
馬車から顔を出し、告げれば城門を守っていた獅子猫族の男が告げた。
「これはこれは遠路遥々ご苦労様で御座いましたミャ。謁見の間に通すように言われておりますニャア。ささ、中へ」
木造りの城門が左右に開いていくのを見ながら、リュシカは思いを強めるが如く、目を細めるのだった。
○●○●
最強と謳われた父が徐々に弱っていく中、俺は学園とギルドを行き来する日々を送っていた。
強い冒険者になれば、多くの依頼を受け、多くの場所に行くことが出来る。ーそれが、父を助けることに役立つと考えたからだ。
しかし、アードヤード王国内を網羅したにも関わらず、病を治す情報は一向に集まらない。更に追い打ちをかけるように父は歩けなくなり、殆どの時間をベットの上で過ごすようになっている。
そして、それでも尚、病の進行は止まらず、父は日に日に弱っていくばかりである。
「エルフレッドはそこまで弱っていたのか。・・・悲しいものだ」
青空の間を走る雲を貫くように飛行しながら、アルドゼイレンはポツリともらす。
「父さんを友人と慕う多くの人々が協力してくれたが駄目だった。これも無駄な足掻きかもしれない」
レイウッドは確かにAランクの冒険者であり、同世代では群を抜いた存在だ。恐らくSランク冒険者になる日もそう遠くはない。しかし、エルフレッドの友人達は今や世界の中核を担う存在ばかりだ。
そんな人々が打つ手がないと途方にくれ、頭を抱えるのが実情ー俺如きに何が出来るのか、とレイウッドは唇を噛み締める。
「まあ、そう言うな。だから、我も協力しているのだ。我とてエルフレッドを助けたい。それに若者は足掻くものーどこまでも足掻いてやるっ!と意気込んだ先には新たな戦いと勝利がー」
「イムエリスのお父さん」
「・・・なんだ?」
「それ何の勝利ポーズ?」
ジト目でレイウッドが尋ねるとアルドゼイレンは「グワッハッハッ!!」と大きな口を開けて笑った。
「いやはや、娘が嵌っててな!我に似てサブカルチャーに対する造詣が深いのだ!」
造詣が深いとはまた良い言葉を選んだなぁ・・・と呟きながら、黄色のモンスターの着ぐるみパジャマ姿でゲームをしているイムエリスの姿を思い浮かべる。
巨龍の半身を持ち、剣と努力の天才とされるイムジャンヌの娘でもあるイムエリス。
そのポテンシャルは随一の筈だが、成長してもあのぽけ〜とした性格は相変わらずでー、今ではすっかり引きゲーマーである。
というか、配信やらゲームの大会やらで稼いでいるそうなので、それはそれで成功しているといえる。
まあ、レイウッドとしては軽く尻尾を振るえば成人男性くらい吹っ飛ばせる力をもっていて、全く活かさないのは何だか勿体ないなと思うが、本人にその気がないなら仕方がない。
「今は我が娘の話は置いておくとしよう。目的地はライジングサンで良いな?」
確認するように視線をくれるアルドゼイレンに頷き返し、レイウッドは眼前に広がる青に目を細めた。
「・・・各女王の領地はまだまだ謎が多い。全ての女王が父さんに協力的だった訳じゃないからな。もう、そこしかないと思っている」
協力的な訳では無いが、敵対している訳でもない。何なら利用したいと思っているのは交流会等で話していれば解る。
そこに救世の英雄の息子ではあるが、嫡男という訳ではなく、更には婚約者も居ない自分が赴けば、良い交渉材料になれると思うのだ。
「そうだな。とはいえ、周りに話した訳でもないのだろう?エルフレッドの番が賛同するとも思えないしな」
行き先や言葉から察したであろうアルドゼイレンの言葉に「母さんはそういうの嫌いだからな」と苦笑する
「端からそういう話って訳でもない。ただ、本当に父さんを助けられる物があって、その交換条件と言われたらーその時は迷わず飛び込むだけさ」
全く誰に似たのやらー呆れたようで、何処か懐かしむような声色で呟く巨龍に答えず、目下に現れた特徴的な城下町に視線を落とす。
先ずは第一の目的地である狐神族の城へと向かうレイウッドだった。




