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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
終章 偽りの巨龍 編(下)
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幸せの彼方に

 終わってしまえば、多くが救われた。


 神はハッピーエンドが好きで、それを邪魔する者は滅されたからだ。


 確かに犠牲者はいた。幸せになれない者もいた。ー全てを救うことなど神にも出来はしないのだ。


 生き残った者は死を悲しみ、時と共に僅かな記憶として残しながらも日常へと戻っていくー人の世というのは、そうして時を重ねていくのである。









「ーー助からないのか?」


 幾分か歳を重ね、しかし、美しいままのリュシカが悲しげに呟いた。


 魔力の高い人間は人でも200歳は生きる。この世において、40という歳はまだ若い。


「・・・理由は解らないミャ。でも、もう何も打つ手はないのミャ。恐らく本人が言う通りなんだろうニャア」


 かつて、鋼の様に鍛えられた肉体は枯れ木の様に細くなってしまった。数多の伝説を共に作った大剣はベットの横に添えられている。


「妾は皆に伝えてくるミャ。・・・子供達も呼んでこないとニャア」


 名残り惜しそうな視線を残し、アーニャは部屋を出ていった。皆が回復を願った。しかし、それは届かない。


 多くの仲間達が尽力した。それをベットの上で小さく微笑んだ彼は、小さな呟きと共に止めたのだった。


 ーやはり、俺に才能はなかった。その結果がこれだったというだけのことだ。


 まだ、話せた頃の彼が最後に放った言葉だった。


 そして、2年の間、眠り続け、今、その時を迎えようとしている。


「ー父さん!!」


 先ずは線の細い長男が飛び込んで来た。結婚が早く、産まれるのも早かったので今年で20になる。


 彼は母親似だと笑い、将来、女性問題を抱えそうで心配だと冗談めかして笑った。


「・・・駄目だ。世界の果てまで行っても何も見つかりやしないークソがっ!!」


 苛立たしげに入って来た大柄の次男が床に手を打ち付ける。若い頃の彼に似ている次男は、中々手の掛かる放浪息子だった。


 しかし、というか、やはりというか情に熱く、いち早く妻帯者になったにも関わらず、父親を助ける為に世界を駆け回っていた。


 ーその努力が報われることはなかったが。


「御兄様!駄目よ!そんなことしたってお父様はーお父様は・・・ああ」


 血塗れになるまで拳を叩きつける次男の肩を掴み、泣き崩れた長女は何故受け継がれたか、真っ白な髪と赤の目をしている。


 所々、父親似で感情が読み辛いと周りから言われているが、今は赤子の様に泣きじゃくっている。


「私は幸せ者だ。でも、それと同時に不幸者でもある。何故だろうな?」


 両の手で手を包むように取り、苦笑を浮かべるリュシカの瞳に涙が浮かび、零れ落ちた。





「エルフレッド」




 最愛の人の呼び掛けにも、もう答えることはない。後は微かに続く呼吸が薄れていくのを待つだけだ。


 英雄エルフレッドの変調は30を過ぎた頃だった。世界最大と言われた魔力は回復することなく、微量ずつ減り続け戻る事はなかった。


 尽きるのに6年掛かったのは流石とも言えるが、その後は生命力に異常が出て、いずれ立てなくなり、寝たきりとなって意識を手放した。


 それはある種、白血病の様で血液の中にあるべき魔力が消えていくという謎の病であった。


 人の幸せが長さではないというならば、確かに彼の人生は幸せであっただろう。


 目標を叶え、一生の友、そして、最愛の相手と家族を得た。


 それは何にも代え難い幸福だ。しかし、彼は先立ち、皆を置いていかねばならない。


 果たして、それが本当に幸せなのか?それは本人にしか解らないのである。


 部屋の外。仲間達は誰かの悲痛な叫びを聞いた。声が増え、慟哭となる頃には皆も目頭を押さえ、唇を震わせるしかなかった。





 ー救世主は先に逝く。変えられぬは人の愚かさ故か?





 その日、英雄は静かに息を引き取った。












 こうして、英雄となったエルフレッドの物語は終わりを告げた。しかし、彼が存命の頃や、その後にも彼の仲間達や子供達の物語があった。


 ここを一幕として、後の話として書いてければと思っている。

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