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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
終章 偽りの巨龍 編(下)
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29

 ジャラジャラと鎖が這うような音を立て中央会議場の床を削っていく。グワングワンと宙を切り裂き、数多の異形を殲滅していく。


「うへー。お前が創世神様に仇をなす馬鹿野郎って訳?そんなのマジ許されないから!マジで‼」


 量産されていた異形がとてつもない勢いで殲滅されていく。まるで意志を持っているかの如く蠢く蛇腹剣が、敵という敵を切り裂き、場を制圧していった。


「さて、ミレイユさん達の避難は完了っと。次はジャノバさんとエキドナの手伝いかな?」


 扉がしまったのを確認して、斬撃、刺突にて道を切り開いていたコーディが振り返りざまに異形を撃ち落とした。そして、大凡の異形を殲滅したのを確認し、狙撃ーージャノバの銃撃に対する回避行動を取っていたブラントンは避ける事が叶わず、被弾。右腕を押さえて蹌踉めいた。


「凄い......こんな圧倒するなんて......」


 仲間達と共に異形と戦っていたエルニシアが驚きを隠せずに呟けば、ジャノバは「向き不向きもある。エキドナは元々殲滅戦向きだからな」と笑いーー。


「というか、考え方に難がなければSランク確実って言われている人材だ。更にフォロー役にコーディも揃ってる。ってなりゃあ、そう簡単には崩れねぇだろうさーーさて、と」


 ジャノバは空間から二本のダガーを取り出し、飛び出した。異形はほぼ片付いた。残りはエキドナとヴァルキリーに任せて全く問題ないだろう。ジャノバの役はコーディが引き継げる。


 エルニシアに予知を頼み、疲弊の見えるコガラシの隣に並ぶと、相対すべき敵へとダガーを突き付けた。


「な、何なんだ。何なんだこいつ等は⁉私は、私は世界の王になるべき男だぞ⁉こんな終わりがあって良い筈がない‼」


 新たな異形を呼び出そうにもコーディに阻止され、上手くいってもエキドナやヴァルキリーに倒される。攻撃はエルニシアの先見によって当たらず、コガラシとの近接戦闘にて負傷箇所が増えるばかりだ。


 それだけでも隙が無く、回復もままならない状況であるのに新たにダガーを構えたジャノバが加わった。逃げ場は無い。


「派手に動き過ぎたな。しかし、まあ、創世神様は全ての魂に寛容だ。罪を犯そうとも償えば天国の門を開いてくれるだろう」


 器用に両手のダガーをクルクルと回しながら、走り出したジャノバにブラントンは負傷した側とは反対側の手を伸ばしーー。


「ジャノバ様‼左、そして、下です‼」


 フック気味に飛んできた左手を躱し、下から伸びてきた膝を後方に回転しながら躱す。


「ーー⁉ガハッ‼」


 そのまま右袈裟、左袈裟とX型に切り裂いて蹴り飛ばす。


「こりゃあ、EASYモードだな。コガラシ、一気に決めるぞ‼」


「承知したミャ‼」


 フラリと立ち上がったブラントンへ向けてジャノバがダガーを振り下ろす。硬化した腕で受け止めて、鍔迫り合う二人を飛び越え、裏側へと回り込んだコガラシが理力を高ぶらせながら地を蹴った。


「虎猫流爪術奥義‼」


「しまっーー」


 振り返ろうとしているブラントンを踏み台にするようにして、ジャノバはムーンサルト。相手の体勢を崩し距離を取る。それだけで良い。




「ーー新月‼」




 虚空に伸ばされた両爪が月を描くように円を描き、ブラントンの背に向けて伸ばされる。


 ヒュオオと静かに凪いだ風の音ーー不可視の理力がブラントンの背中を円形に切り裂き、爆ぜた。


 ドスンッと激しい音を立てながら、胸の辺りまで突き抜けた衝撃にブラントンは白目を剥いて、血を吐き出す。グラリと前に倒れかけたその首目掛けて、シャララと音を鳴らしながら蛇腹剣が飛んできた。


「本当はおこだし、アタシがトドメ刺したいけど......ちゃんと決めてよ!ジャノバさん!ーーエンジェル‼」


 魔力の込められた蛇腹剣が首元を切り裂きながら、引き抜かれた。血を撒き散らしながらも切断を間逃れたブラントンはグルグルと独楽の様に回った。


「ジャノバさんなら討ち漏らしは無いと思いますが、一応、弾仕込ませて頂きますよ?ーーつうか、前から思ってたんだけど、首狩る技に天使って名付けるのはセンス的にどうなんだ?」


 ダンッ‼ダンッ‼ダンッ‼と続けざまに三発発砲しながらコーディが苦笑すれば「断罪する時は天使だって残酷なことするじゃん‼コーディ、マジ勉強不足‼」とエキドナは頬を膨らませた。


「さて、準備完了だ。悪魔にゃ銀って決まってんだ。鉱物を司る地属性を相手にしたのが運の尽きだったな?」


 魔法の力で銀を纏ったダガーを下方に構え、距離を詰めたジャノバはニヤリとした笑みを浮かべてーー。




「銀の力で浄化されちまえ‼ーーセイントクロス‼」




 何故、銀なのか?何故、十字なのか?全ての事象には意味があるのだ。嘗ての科学の発達していない時代、細菌等の目に見えぬ生物による身体の異常は悪魔の仕業とされた。銀の放つ銀イオンはそれらを滅し、健康を齎した。故に銀なのだ。


 十字が神聖な理由は、より神秘的なものだ。嘗て、創世神の一人が救世主だった頃、神託を受けた際に光り輝く巨大な十字を見たという。その十字を救世主は神そのものとした。故に十字は神聖なのだ。


 そして、神の力は信仰に宿る。人々が銀を浄化するものとし、十字を神と崇めるならば、その力は正しく悪魔を滅する力となるのだ。


 胸を中心に大きく十字の斬撃を刻まれたブラントンは黒の装甲を失い、崩れ落ちる様にして倒れた。横たわるは只の人ーー世界の王を自称した凡庸な男の亡骸である。


 ブラントンが作り出した異形も消え去り、皆が安堵の息を吐く中で、細身の煙草を取り出したジャノバはそれを吹かすと咥え煙草のまま、十字を切った。




「罪を贖い、天に赦されるその日まで、自身の犯した過ちを然るべき場所で悔い改めるんだな?ーーアーメン」




 真にそうありますように、と少しの皮肉を込めて彼は天に祈りを捧げるのだった。













○●○●













 胸に傷跡、血染めの上半身。大剣を構え、地に降り立ったエルフレッドは遂に堪えきれず、膝を着いた。


「もうお終いか?口程にもない!漸く、俺の願いが叶う時を迎えるぞ‼」


 喜びの声を上げ、翼をはためかせるルシフェルを前にして、エルフレッドは睨みつけることしか出来ない。それ程までに体は疲弊していた。


 避ける事に専念しながらも、攻撃を狙っていた彼だったが、所構わず生み出すことが出来る亀裂へと逃げ込みながら、黒魔法を連発するルシフェルに徐々に追い詰められる形となった。


 そして、黒魔法で疲弊がピークに達していた所を異形に喰い付かれ、負傷。どうにか振り払う事は出来たものの、頭を割られ、胸元を食い破られた。その傷は回復魔法で止血したが、体を動かす事もままならなくなってしまったのだ。


(漸く戦いの糸口が掴めたというのに、これではーー)


 これ迄の戦いは完全にルシフェル優勢で進んでいたものの、全く対処が出来ていなかった訳ではない。亀裂を作る移動方法とて、入口と出口を作っているに過ぎない。チャンスは少なく、刹那の時間しかないが、ルシフェルが入っていった方向から攻撃を放てば、攻撃を当てることも可能であった。


 故に完全にダメージが通らないと言うわけではない。近距離転移などで追っかけて、傲慢な風や大気操作の一撃を与えれば、大きなダメージを与えることだって可能だ。


 しかし、それをするには多くの魔力が必要で、忍耐強くチャンスを待つ体力が必要なのは言うまでもない。魔力の方は回復役を使えば、どうにかなるだろうが体力はーールシフェルがそんな隙を見せてくれるとは思えなかった。


 襲い来る異形を受け止め、斬り飛ばす。そして、再度、膝を着き、荒い息を吐く。正にギリギリの状態と言わざるを得ない。

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