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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
終章 偽りの巨龍 編(下)
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 ニカッと笑いながら親指で二人を示すエドガーの下で、ウイスキーの瓶を自身の空間の中に放り込んだエキドナは楽しげな表情で手を振りながらーー。


「メルトニアさん、この前ぶり〜‼世界平和に貢献してあわよくば自己犠牲を狙いに来た系で到着って感じ‼」


「......自分はギルマスに頼まれました。エドガーさんとエキドナの二人を纏められるのはお前しかいない、とか言われまして」


「はは、コーディ君は相変わらずね〜。エキドナちゃんもある意味何時も通りだけど〜」


 苦笑しながら手をひらひらとしていた彼女は、改めてエドガーの方へと視線を向けると溜息を吐いてーー。


「んで、エドガー君は何してるのさ〜。義手じゃあ全盛期程は戦えないんでしょう〜?大人しくしとけば良いのに〜」


「ま、そりゃあそうだろうけど、元部下がお世話になってるってなれば行かない訳にはいかねぇ。それに俺は、あくまでも迎え兼護衛だから、危険な奴等と戦う気はねぇよ」


 やれやれ、といった様子で言うエドガーに「万が一もあるでしょうが〜......言ってる側から始まったみたいだし」と呆れ顔を引き締めて、空を見た。


 風の緑と虚無の黒。ぶつかり合う二つの魔力が大気を震わせ、破裂を引き起こす。局所的な雨、降りてくる爆風、そして、竜巻ーー大気を操る魔法さえも駆使して、エルフレッドはルシフェルと渡り合っている。


「うわぁ、あれに巻き込まれたら、ひとたまりもねぇなーーって事でメルトニアさん。この通りだ。俺達を中央会議場?まで連れて行ってくれねぇか?」


 顔の前で掌を合わせて拝むようにしているのを見て、メルトニアは考える。リュシカの件は早急にどうにかした方が良いだろうが、スパイを名乗るとするならば、彼等にも協力した方が良いかもしれない。


 何より、エドガーの護衛兼迎えという立場も気になる。もし、何らかの形で迎えに行かないといけない人物が居るとするならば、彼等が戻ってきた時に抜け穴を通る事が出来ず、緊急事態を招く可能性もーー。


 この時点でのメルトニアは如何に強化されたレディキラーであったとして、Sランクのリュシカが何の抵抗も出来ずに拐われてしまう可能性は皆無だと思っていた。


 世界大会の疲労の具合によっては寧ろ、倒してしまっているのではないか?くらいに考えていたのである。要はそれを確かめる為に帰還し、最悪、監禁予定の場所まで確認すれば大丈夫だろう、と心の底から思っていたのだ。


「まあ良いけどさ〜。どうせ、そんなこと言いながらアードヤードまで送って〜とか言うつもりなんでしょ〜?」


「あ、バレた?まあ、どうせ、メルトニアさんも今の状況を見ると帰らないといけねぇんだろ?人助けだと思ってさ!」


 そう言いながらも申し訳無さの欠片も見えないエドガーに「本当、エドガー君って調子良いよね〜」と苦笑する。


「まあ、いいよ〜。皆を送った後に護衛役が必要な人が居たらエドガー君引き連れて転移すれば良いって訳でしょ〜?そのくらいなら影響無いと思うし〜?とりま、チャチャッと転移しちゃうから、上がってきなよ〜」


「やったぜ!これでさっさか、あーちゃんの元へ帰れる!メルトニアさん、マジありがとな〜‼」


 小躍りするくらいに喜んでいる彼を見ていると、悩んでいる自分が何だか阿呆らしくなってくる。生き甲斐を感じていた仕事を失い、利き腕まで失ったというのに何とまあ単純な男なんだろうと、少々羨ましくさえあった。













○●○●













 エルフレッドは大剣を振り被る。翼と風の魔力で一気に加速して斬りかかった。


「おお‼素早い一撃だ‼しかし、俺には届かんようだ‼」


 仮初めの翼をはためかせ、後方に飛ぶようにしながら攻撃を避けるルシフェルに舌を打ちながら、エルフレッドはもう一度、大剣を振り被った。


 元々が翼を持っていた種族という事もあってか、その動きは非常に巧みだ。当然、影とは比べ物にもならない。数多の強者を斬り捨ててきた大剣の十字が空を切り、勢いのままに振り払った切り払いが空を薙ぐ。


 対して、ルシフェルの魔力で構成された棘はエルフレッドの頬を掠め、容赦無く体力や魔力を"奪っていく"。


 黒の魔力の真髄である"奪う"を活かした小技の数々は、地味ながらも大きな意味を持ってエルフレッドを苦しめる。隙を見て、魔力回復役を煽り、誤魔化す。当たらぬ攻撃ではこちらが消耗するばかりで無意味だ。


 これでは埒が明かないとエルフレッドは小手先の技を捨て、高威力を誇る魔法を繰り出した。属性性質魔法、大気操作による天候制御。巻き起こる竜巻、そして、吹き付ける暴風がルシフェルの巨体を取り囲んだ。


 この規模の大気操作を行えば、当然、魔力の消費は著しい。そう軽々しく使えるものではない。だが、今まで、まるで攻撃を寄せ付けなかったルシフェルにも流石に効果はあったようだ。


「人間風情が。神の真似事か?何かを司るは神、もしくは天使の領分ーー調子に乗るのも大概にするがいい‼」


 禍々しい翼を振るい、風の力を奪い、弱めながらルシフェルが叫ぶ。Aランクの魔物でも木っ端微塵に出来る程の竜巻でさえ、ルシフェルに取っては掠り傷程度だ。だが、全くの無傷という訳でないならば、倒せないという事はない。


 常々、エルフレッドの戦いは絶望的な戦況から始まる。故にこの程度では動じる事もないのだ。


「アルドゼイレンも似たような事を言っていたが......努力の果てに得た結果だ。領分など知ったことか。それで貴様を倒せるならば、神にでも何でもなってやると言うものだ!」


 叫び返し、弱まったとはいえ風の檻に閉じ込められているルシフェルへと飛び込み、大剣に纏った傲慢な風を叩きつける。ガリガリと物々しい音を立てながら、包みこむようにして鱗を削っていく風の一撃にルシフェルは苛立たしげに舌を打つ。


「忌々しき風の力よ。しかし、その程度で俺を倒せると思うな‼」


 猛るルシフェルの翼が禍々しい黒の魔力を打ち出し、エルフレッドの風を掻き消した。そして、その勢いは収まることなく、再度、大剣を振り下ろさんとしていた彼に襲い掛かる。


「ーー⁉チィ!厄介な魔法だ」


 名もなき黒の魔法の数々ーー、防ぐために張った風の障壁さえも奪うという特性によって破壊しながら突き進み、腕をクロスさせて急所を守るエルフレッドに切り傷を与えた。


 より強固な障壁ならば、防ぐことも出来るかもしれないが、より大量の魔力を消費するのは言うまでもない。何方にせよ、不利な戦いを強いられる状況にエルフレッドは険しい表情を浮かべる。


 尋常じゃない体力と強靭な精神力を有している彼だからこそ、未だ戦いが成立しているものの、それもこのままの状況が続けば何時まで保つかーー。


 エルフレッドは効果が高いと判断した気圧操作を連続的に使いながら、ルシフェルの隙を伺う。傲慢な風を纏う事も忘れない。黒魔法に最大限の注意を払いながら、大きな一撃を放つタイミングを見計らっている。


 対してルシフェルは鬱陶しげに目を細めながらも、その心情に焦りはない。確かに効果が無いわけでは無いが、このまま何も無ければ勝利はルシフェルの側に転がってくるからである。


 時に風の魔力を奪い、黒魔法による反撃を行う。現段階ではそれ以上の対策は必要ないのだ。

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