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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
終章 偽りの巨龍 編(下)
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「キャッハー‼ジャノバさんからの救援要請とかマジヤバい系じゃん‼遂に私の命もここまでってね‼待ってて下さい‼創世神様‼今から世界を救って貴方のお側に向かいます‼アーメン‼」


「ギャハハ‼マジで面白え‼腹いてぇ‼というか、ジャノバのおっさんのメッセージやばくねぇ‼恋愛に現を抜かしてる暇有ったら迎え出せって‼完全に逆恨みじゃん‼」


「......どうでも良いですよ。というか、敵の本拠地、目の前なんで静かにしてもらって良いですかね?エキドナも十字切ってないで化物の相手をだなーー」


 祈りを捧げるようにして胸の前で手を組み、キラキラと輝く瞳を空に向けるエキドナ。


 そんなエキドナを見て爆笑し、思い出したかのように携帯端末を開いて爆笑して床を転げ回っているエドガー。


 そんな二人を守るかの如く、銃剣を巧みに操って異形を撃ち落とし、斬り捨てるコーディは疲れ果てた様子で苦言を呈する。


「キャッハー‼コーディは心配し過ぎだって‼別にこんな雑魚とか目を瞑っても倒せるし‼なんたって片腕義手のエドガーさんでも余裕何だから‼」


「そうだ‼コーディ‼何なら休んどけって‼心配されなくても自分の身は自分で守ってやらぁ‼ーーあ、タンマ‼あーちゃんからメッセージきた‼」


「......最近、俺の中でSランクのイメージ変わってきましたよ。とりあえず、エキドナは煙草仕舞え。こんな木造のボロ船の上でボヤでも起こされたら溜まったもんじゃねぇ」


 眼前まで迫っていた異形を叩き落とし、コーディは溜息を吐いた。


「Sランクのイメージ変わったって、親しみやすくなったってこったろ‼てか、俺もうSランクじゃねぇし‼」


「良いじゃん!煙草くらい!それに小火で船全焼して死んだら、自殺じゃないから私的にはオールOKーーん?待てよ?私が原因で巻き込まれて死んだ人が出たら、私、天国に行けないんじゃーー」


 もう勝手にしてくれと異形を捌いていたコーディは、突如、視界の端に映った光の柱に顔を上げた。


「あれはメルトニアさんのーー」


 そうだ。一緒にルシフェルの影と相対した時に使っていたから間違いない。彼女が持つ魔法の中で最大の威力を持つ魔法だと聞いている。


「マジか。つうか、あの時よりも魔力が濃い気がすんな。どうやら、お巫山戯はここ迄のようだな」


 エドガーが携帯端末を仕舞い、刀を取り出す。義手の様子を確かめながら、光の柱を見詰め表情を引き締める。


「たっはー‼って事は強敵現るって事じゃん‼もしかしてルシフェル本体‼こりゃあ命日不可避?滾ってきたぁ‼」


 何時もと何ら変わらないエキドナに苦笑しながら、皆は立ち昇る光を見詰めるのだった。













○●○●













 障壁越しに魔法を受けたエルフレッドは、その余りに強力な魔力に強い圧迫感と圧倒的なエネルギーを感じ、歯を食いしばった。


 逃げ場が一切無い状況の中、まるで重力が何倍にも膨れ上がったかのような感覚に体中の毛細血管が耐えきれずに内出血を引き起こし始めた。


 その内、激しい負荷に肉体が耐えられなくなってきたのか、所々から血が吹き出し始めた。障壁越しでもこれなのだ。直接、身に受けた時にはどうなるかーー。


 そんな状況に有りながら、エルフレッドの意識は魔法に込められた想いへと向けられていた。


 時に強い想いはテレパシーの如く伝わって来ることがある。この天への柱と名付けられた魔法に込められた沢山の想いは、エルフレッドの心さえも激しく揺さぶるものだった。


 自身の人生はメルトニアの人生に比べれば、幸せなものだ。両親は変わり者だが愛情を持って育ててくれ、常人ならば理解し難い夢にも一定の理解を示してくれた。


 多くの人が進むであろう道とは違えど、地の底を這うような道では無かった。手探りではあれど、自分が決めた道を進むことを許されたのだ。


 どんな道を進もうとも先は解らない。だが、目標というゴールが設定されている分だけ、その足取りは軽い。何も無い地を探るような人生の中で、明確に掴みたいものが有り、遂に手に入れたのだ。


 自身が抱いていた頂点とは少し違ったが、価値としては同等の物を手に入れた。そして、それは彼女が掴みたい物と一緒だったようだ。


 だから、彼女は自身を幸せにしてくれた光ならば、エルフレッドの掴んだ天へと届くーーそして、彼の手から奪い取れると思ったのだろう。


 メルトニアがエルフレッドに勝っているのは魔力と魔法の多様性。その何方を使ってでも、頂きに立ちたいのは、幼少期の地獄の様な日々にも大きな意味があったのだと、そう信じたいからだ。


「中々しぶといね。エルフレッド君。早く楽になっちゃいなよ。苦しいと思う前に消滅させてあげるから!」


 膝を着き、血反吐を吐きながら、しかし、それでもエルフレッドは耐える。障壁越しに睨む眼光に未だ諦めの色は無い。


 メルトニアの額にも大粒の汗が浮んでいる。これ程の魔法を行使しているのだ。負荷が無い筈がない。そういう意味では完全な持久戦となったが、実際はもっと奥の奥での戦い。謂わば精神の勝負だ。


 エルフレッドは思うのだ。確かに自身の人生はメルトニアのような苦痛に溢れたものではなく、手にしている物も輝かしい物ばかりである。


 だが、けして楽な道ではない。自身の目標の為に多くを捨てて来た。もし学園に入らなかったならば、未だ孤独に巨龍と戦う日々を送っていたことだろう。


 そうして掴んだ物を簡単に手放す訳にはいかない。彼女の想いは解るが、不幸の理由付け程度で譲れる物じゃない。


 湧き上がる傲慢な風の魔力にメルトニアは顔を顰める。傲慢な状況であればある程に力を発揮する彼の本質魔法は、誰よりも魔法に詳しい彼女にとって、最も理解し難い魔法であった。


 ギリギリと音を立て拮抗する風と魔力。優勢は未だメルトニア。彼女とて、このチャンスを簡単に逃す訳にはいかない。限界を越えた魔法の行使に、魔力を放出する掌が破け、腕の血管が切れ始めていた。


 地の底を這う彼女の上で地を探り、天へと向かって手を伸ばす彼女の上で天を掴む。それは彼女にとって不条理なものかもしれない。だが、それも人生の形だ。全く同じ物を二人の人間が争えば、一人は必ず敗者となる。その結果を変えることは出来ないのだ。


 エルフレッドは大剣を杖に立ち上がる。傲慢な風の魔力が全身に行き渡り、メルトニアの行使する魔法を徐々に押し退けていく。


 彼女が作り出した究極の魔法よりも、自身が得た本質魔法の方が勝る。と言わんばかりの状況にメルトニアは強く奥歯を噛み締めた。


 エルフレッドには何としても勝たなくてはならない理由がある。それは世界を救う為で有り、最愛の人を助ける為でもあるが、今は何より目の前の彼女を救う為でもあるのだ。


 もし、自分に勝ったとして彼女は幸せな人生を歩むつもりは無いのだろう。アルベルトの元に帰る気も無いならば、残された未来は殆ど無い。


 どの結末も、せめて最強になれて良かったと過去の自分を慰めるだけで、未来になんて繋がっていやしないのだ。


 エルフレッドは許さない。そんな未来などあってはならない。不幸を一身に受けたと言うのならば、それ以上に幸せになって貰わなくてはならない。


 全てを救えないならば、せめて自身に関わった人達を救い、幸せにする。それが傲慢な優しさを持つエルフレッドの願いであり、想いなのだ。


「うおおおお‼」


 雄叫びを上げ、大剣を振り抜いたエルフレッド。その風はメルトニアを守る無敵の盾をも砕き、魔法を行使する彼女をも吹き飛ばした。


 爆風と呼ぶに相応しき暴風ーーされど、メルトニアを引き裂くような事はなかった。障壁を張りながらであったが、彼女はゴロゴロと地面を転がった。


 限界を越えた魔力行使の結果もあっただろうが、究極を自負する魔法を打ち砕かれた事がショックだったのだろう。立ち上がろうとはしなかった。


 全身を赤に染め、フラつきながらも立ち上がったのはエルフレッドーー二人の戦いはこうして幕を下ろしたのである。

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