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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
終章 偽りの巨龍 編(下)
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「フフフ、アハハハーー‼新たな神の力を授かった新たな王による裁き‼正しく、神の裁きに相応しいとは思わんか‼」


 両腕を広げ、加勢しに来た二人を歓迎するようにしながら、ブラントンは叫んだ。


「愚かニャ......悪魔とされしルシフェルに謀られ、神の祝福を受けし騎士達を害し、罪無き人々の命を奪い、異形に変えていく行為ーー。これらを最後の審判と呼ぶならば、裁かれるは貴様の方ミャ‼」


 無茶な突撃を繰り返すエルニシアを止めるように、標的となっている異形を倒し、ブラントンと相対したコガラシが叫んだ。ディエス・イレの歌詞に則り、最後の審判を下していると言わんばかりの傲慢な男の言葉を否定する。


「ハッ!黙れ!異教の神の隣に立つ者よ!新たなる神を悪魔と愚弄するか!ルシフェル様は旧文明、神話にも描かれし偉大なる方ぞ!古来、我々の伝え聞く教えでは異教の神こそが悪魔であった!貴様の神こそ、裁かれるべき大悪ではないか‼」


「......古くは旧神話より我が国を守り、創世神が一人と奉じられるアマテラス神、延いては半神である我が妻、シラユキ様をも愚弄するその言動ーー決して許されるべきものではないミャ‼その身体、貴様の魂毎引き裂いてくれるミャア‼」


「落ち着け‼コガラシ‼怒りは汲むが奴のそれは挑発だ‼乗せられて連携を崩すんじゃねぇ‼」


 怒りに牙を剥き、爪を立てて地を蹴ったコガラシの足元の地面を、冷静さを取り戻させる為に撃ち抜きながらジャノバが叫んだ。


「ジャノバ......‼」


 苛立たし気に舌を打つも足を止め、連携の輪に戻っていった彼を一瞬つまらなそうな表情で眺めたブラントン。要はジャノバか、と言わんばかりに視線を向けると口角を上げーー。


「我が神の部下で有りながら、救世の功により成り上がっただけの磔の神に仕えし砂漠の民よ!偉大なる我等が歩みを止めるは傲慢ぞ!」


「浅いな。何なら弟とでも言うつもりか?ハハッ!笑わせるなよ?こちとら旧文明神話の読破は皇族の義務として終わらせてんだ。その知識に則るならば、お前が神と呼ぶルシフェルは異教の神ですら無いにも関わらず、大悪魔とされた正真正銘の悪魔だろう?堕ちた天使の底の底ーー正しく神の敵って訳だ」


 そんな事も知らねぇのか?と嘲笑い、牽制するかの如く魔法銃を撃ち込む彼に対して、ブラントンは苛立たしげに表情を歪めながらーー。


「ならば、我々がこの戦いを勝ち抜き、後世の聖戦とするだけのこと‼最後の審判を生き延びた民となり、王となって永劫語り継がれる歴史を築くだけだ!」


「勝てば官軍ってか?勇ましい限りだぜ。全くーー」


 皮肉げに呟きながらジャノバは場の整理を始める。近接戦を仕掛けてブラントンの足止めをするコガラシを援護しながら、時に異形を減らし、尚且つ魔法を展開する為に印を描く。


 上級地魔法"リザレクション・ジ・アース"。


 大地から生命エネルギーを貰い受け、広範囲を回復する全属性最強クラスの回復魔法だ。


「エルニシア嬢。冷酷と思うかも知れないが、亡骸は蘇りはしない。団長として守るべきは誰だ。死した者は何の為に戦った?」


「‼ーージャノバ様」


 鼻から流れていた血を拭い、エルニシアは振り返る。そして、傷つきながらも戦っている仲間達の姿を見つけ、冷静さを取り戻した彼女は異形を薙ぎ倒しながら、仲間達の方へと駆け出した。


「ヴァルキリーの皆‼ごめん‼私ーー」


「ううん。エルちゃん、私達も気持ちは一緒だよ。だから、仇を討とう?アイツを倒して皆を弔おう?」


 副団長ルーチェが皆を代表して告げた。団長としては褒められたものではないが、仲間を無惨にも殺され、亡骸さえも冒涜された自分達の気持ちはエルニシアと何ら変わらない。


 今は只の友人として怒りを共有するだけだ。そんなルーチェの言葉に強く頷く団員達を見て、エルニシアは溢れ出た涙を拭うと、闘志に満ちた表情を浮かべ、ブラントンへと向き直る。


「ミレイユ。地属性は補助、回復の魔法としては最高クラスだ。今はそれを信じろ。"ガード・オブ・アース"で指一本、触れさせないよう完璧に守ってみせる。とはいえ、ノノワール嬢はなるべく早い治療が必要だ。どうするべきか、解るな?」


「......周りは敵ばかり、しかも、敵の本拠地のど真ん中だ。こんな状況でノノワールちゃんを抱えて逃げ果せるとは思っていないさ。隙を見てと言いたい所だがねぇ。要はこの化物になった自称世界の王を打ちのめすしかないって訳だろう?」


 抱き抱えていたノノワールを割れ物でも扱う様に地に寝かせ、ミレイユはハルバードを構えた。ーー大きく頷くや否やジャノバがもう一つの上級地魔法ガード・オブ・アースを唱える。


 ノノワールがダイヤの輝きを放つ半透明の大地のドームに包まれたのを見送った彼女は、ブラントンを見据えながらジャノバの隣に並んだ。


「コガラシ。これ以上、戦力を分断されたままにする訳にはいかない。異形を掻き分けながらヴァルキリーをこちらに誘導してくれ。もう、一人も欠けさせるつもりはない」


「了解ミャ!ブラントンのことは二人に任せるからミャ!雑魚を蹴散らすニャア!」


 ジャノバの援護を受けながら戦っていたコガラシは、ミレイユと代わるようにして後方へ跳躍ーー宣言通り異形を蹴散らして、ヴァルキリーと合流する。


 戦闘技術、魔法、指揮、どれを取っても一級品。正にオールマイティは才能を持つジャノバの才を持ってすれば、戦いの場を整える事など造作もない事であった。


 無論、それで勝てるかどうかと問われれば話は別だが、少なくともイーブンに持っていくことは出来ただろう。


「とまあ、こんな感じだな。お前の浅知恵で崩れた戦況なんざ、俺にかかりゃあ大した問題じゃねぇ。せっかく悪魔の力借りて人間辞めたって言うのにーー残念だったな、世界の王様?」


 その言葉に苛立ち何かを言い返そうと口を開いたブラントンを魔法銃で牽制し、ミレイユとの連携で封殺する。似たような事を繰り返すことでフラストレーションを溜めさせて、ペースを掌握。そしてーー。


「ーー火龍爆砕‼」


「⁉ぐぬぅっ‼」


 攻撃が大振りになった隙をついた一撃にブラントンがよろめき、後退した。追撃を嫌がったのか、異形の群れを放つと大きく後ろへ跳躍ーー傷の修復の為に奪った魔力を纏い始めた。


 ミレイユは少し迷ったが、後を追わずにジャノバの元へと向かった。徐々に近付いてくるコガラシ達と合流する目的もあったが、その前にジャノバに聞いておきたいことがあった。


「ジャノバさん。この戦い、勝機はありそうかい?」


 襲い来る異形を払い飛ばしながら訊ねる彼女に、ジャノバは敵を見据えたままーー。


「正直言えば微妙だな。勝機が無い訳じゃねぇ。アイツの弱点だって解ってる。当たり前と言えば当たり前だが、幾ら強化されたとはいえ、アイツ自身が大した人間じゃねぇってことだ」


「......大した人間じゃない?」


 意識が疎かになっているのか、後方から襲い来る異形を見逃しているミレイユ。ジャノバはそれを魔法銃で撃ち抜きフォローしながらーー。


「ああ。大した知恵も戦闘技術もないだろう?その上、易い挑発にも乗る。元が大した人間じゃねぇから力を十分に引き出せてないって訳だ。だから、勝機が無い訳じゃない。だがーー」


 振り返り際にハルバードを振るい異形を斬り裂いたミレイユだったが、その呼吸は荒く、額には汗が浮かんでいた。


「単純に戦力が足りねぇな。責めてるわけじゃないが、ミレイユ。お前、本調子じゃねぇだろう?」


「......悔しいがジャノバさんの言う通り、本調子には程遠いだろうねぇ......数週間、牢屋に打ち込まれていたのは正直大きかった。筋力やら体力やらが軒並み落ちてるねぇ」

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