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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
終章 偽りの巨龍 編(下)
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17

 死の臭いが漂い、徐々に場を満たしていく。それがルシフェルにとっては心地良い。


 異形に喰われ、魂を奪われていった者達の叫び声も、軍人として戦い、無言のままに撃ち抜かれた無様な死に様も、悶え苦しみ、遂には力尽きた哀れな人の死も、等しくルシフェルを喜ばせた。


 そう、あくまでも等しくである。ルシフェルに加担した者、敵対した者、中立な者、無関係な者ーー全くもって関係無い。人が死ねば、ただ嬉しく、心地良く、満たされるのである。


 神の隣に立ち、共に歩む権利を、神に創られ慈しまれる者達に奪われ、奪い返そうとした結果、虚無に閉じ込められた恨みは永劫晴れない。


 晴れないが故に多くが死ぬ事を望み、叶えば叶った分だけ喜びに満たされる。尽きることのない飢えを永遠に食べることで満たすが如く、人族と死を結びつけるのだ。


 生命の持つ、小さな輝きを放つ魂を奪い続け、偉大なる力は蘇らんとしている。


 さあ、始めよう。復讐の時をーー。さすれば、神は我が前に姿を現すだろう。













○●○●













「......メルトニアさん。悪い冗談なら止めた方がいいですよ?流石に自分もリュシカに危害を加えたとなればーー「試してみなよ〜。エルフレッド君。もう島外に転移出来ないから〜。ルシフェル倒さないと、この島から出れない転移阻害の結界作ったんだ〜。最後にこの島から転移したのはレディキラー。意味わかるよね〜」


 エルフレッドは言われた通りに転移を発動するが、座標を島外に指定しようとした瞬間、魔法は霧散していった。どうやら、転移魔法で移動している次元空間さえも結界で囲むように蓋をして、移動出来ないようにしているようであった。


「何故、こんなことを......」


「だって〜。こうでもしないとエルフレッド君、戦ってくれないよね〜。私は最後の実験に付き合って欲しいのにさ〜。だから、確実に付き合って貰うために周りを巻き込むことにしたんだ〜。屑らしくね〜」


 最早、彼女は自身の価値を底から上げることが出来なくなっているようだ。小さなきっかけの積み重ねーー、そして、アルベルトと自身の間に垣間見た隔たりが、彼女自身の価値を著しく下げてしまったのだろう。


 その価値はゴミ屑と同等だとーーならば、それに相応しく周りを巻き込んでやろうと、今の彼女は自棄の果てに居る。


 エルフレッドは鞘に仕舞っていた大剣を抜いた。殺意は無いが、怒りの感情は明確にあった。メルトニアの気持ちは解らないでも無いが、それにしたってして良いことと悪い事がある。


 険しい視線を送るエルフレッドに対して、メルトニアはとても満足気な表情で宙に多数の印を描く。互いに後一手、何か行動を起こせば戦いが始まる中で、鈍く輝く黄金の瞳を愉快そうに歪ませたメルトニアは、朗々とした口調で言うのだった。


「さて、最終実験を始めよう。エルフレッド君。テーマは最強の証明。被験体、龍殺しの英雄に対して、全能殺戮兵器量産計画"マクスウェル"、被験体、メルトニアの魔法は何処まで通用するのか?ーー乞うご期待ってね」













○●○●













 闘技場内を包む黒の炎と白金色の壁ーー。短い拮抗の内に溶け始めた壁を前にして、フェルミナは悔しげな表情を浮かべた。


「ーー前から思ってたんですけどね‼火属性と風属性って相性悪くないですかっ‼リュシカお姉様が一方的に得する関係なんてエルお兄様が可哀想です‼」


「五月蝿い‼だったら風と土だって相性良くないだろう‼属性を持ち出したら似たようなものではないか‼」


「いいえ‼五行の金は土属性とは別物です‼エルお兄様の邪魔にはなりません‼火属性とはち・が・い・ま・すぅ‼」


「ああ言えばこう言うなぁ‼フェルミナは‼ならば‼魔力と理力の時点で相性も何もあったものか‼屁理屈も大概にしろ‼」


 怒りと同調するかの如く猛々しさを増した黒の炎に、白金の壁が融解し突き破られる。


「ーー相性が無かったら苦労しませんよ‼」


 五行での金は火に弱い。もし、魔法での土属性なら炎とは特に相克の関係には無いのだ。迫りくる黒の炎を躱しながら、フェルミナは印を切る。


 召喚されし式神は白金色の虎ーー白虎を模した式神だ。


「行きますよ‼虎鉄(こてつ)‼標的はリュシカお姉様です‼」


 虎鉄と呼ばれた式神に軽やかに飛び乗り、フェルミナが指示を出せば、白金色の虎は頷き、リュシカの元へと疾走する。


 更に宙空に印を描けば、その手に現れたのは白金の棒だ。片手でクルクルと器用に回し手に馴染ませる。


「ハアア‼」


「⁉ーー厄介な‼」


 避けた筈の棒に頬を裂かれ通過した先を見れば、先端が槍の穂先の様に尖っていた。どうやら、任意で形状を変化出来るようだ。


「これを避けますか!ならばーー」


 初見で上手く対処された事に驚きながら、フェルミナは棒を振り上げた。返す斬撃は薙刀の一撃だ。


 それさえもヒラリと舞うように躱しながらリュシカは、回転のままに曲刀を横薙ぎに振るう。


「虎鉄‼」


 棒を縦に構えてリュシカの一撃を受けながらフェルミナが叫ぶ。その声に反応した式神が、ギリギリと鍔迫り合う二人の間を裂くように爪を伸ばした。


「くっ‼」


 爪の一撃が脇腹を掠め、思わず呻いたリュシカーー更に追撃を放とうと飛び掛かった式神に利き手を伸ばした。


「燃え尽きるがいい‼」


 放出されるは黒の炎ーー。白金の虎を溶かしながら突き進むそれは、闘技場と観客席を隔てる結界へとぶち当たり、爆発を引き起こした。


「ーー凄まじい威力です。少し危ない所でした」


 言葉の割に全くの無傷であるフェルミナは再度、印を描き白金色の虎ーー虎鉄を召喚する。理力を媒体とした式神であるが故に、理力が尽きるまでは何度でも召喚が可能な様であった。


「はっ、無傷の癖によく言う‼」


 全身に黒の炎を纏わせながら吐き捨てるように告げる彼女に、鋭い視線を向けたフェルミナは再び虎鉄へと跨ってーー。


「当たればの話です。とはいえ、一撃で式神を焼き尽くす威力に驚かされたのは事実ですが......」


棒を構え直し、右、左と振り回し構え直したフェルミナはとても良い表情をしていた。どことなく、スッキリとした彼女の表情にリュシカは仕方ないと言わんばかりの苦笑を浮かべーー。


「言いたいことは言い終えたか?」


「いいえ!まだまだですよ!失恋の恨みと食べ物の恨みは早々尽きることは無いとよく言うではないですか!」


 そう言って不満げな表情を浮かべてみせた彼女は一変して、悪戯っ子の様な笑みを浮かべてーー。


「ーーですが、スッキリした部分があるのも事実です。不満は残っていても過ぎたことですから、消化出来なかった部分については解消出来たと思います」


「そうか......ならば、残りは戦いの中で決着ということで良いか?」


 喧嘩を吹っ掛けられて乗った部分はあるものの、この一件については、あくまでも自身が悪かったという認識はある。


 ならば、と問い掛ける形で告げた彼女にフェルミナは、とても良い笑顔で頷いた。


「はい!リュシカお姉様!」


「良し。では、ここからは遺恨は無しだ。Sランク冒険者の実力、存分に味わうと良い‼」


 黒の炎を纏わせ、突撃を敢行したリュシカにフェルミナも答えるようにして、虎鉄を走らせるのだった。


「こちらこそ、後継者筆頭の意地を見せて差し上げます!フェルミナは負けません!」

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