表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
終章 偽りの巨龍 編(下)
411/457

3

 しかし、だ。それを聴いたルーミャの表情は微妙だ。悩んだ挙げ句、周りを見渡すと声を顰め耳元に口を寄せた。


「それもあるかもだけどぉ......此処からは御先祖様の血族しか聞けない話だからぁ、あまり大きな声は出さないでねぇ?リュシカはほら伯母様の血族だしぃ、聴く権利あると思うから......」


「解った。その伯母様の話は私も最近聞かされて驚いた話だがーー」


 ルーミャが語った話はアマテラス神の後悔の話であった。神であり、完璧である事を求められるアマテラス神に後悔などあってはならない。しかし、未熟であった時、そして、人として生きた時に後悔の念を抱いた事がないとは言えないのだ。


 それは戒めの如くイングリッド家に伝えられ、自身の血族が同じ過ちを繰り返さぬよう語られるという。


「一つは人を見る目を養うことぉ。これは天岩戸の時に親友だと思っていた神が駄神だって解った時の後悔。二つ目は時に自身を貫くことぉ。これは支えてくれた男性の願いを受け入れ死なせた事を悔いた後悔。んで、獅子猫族に関係するのは三つ目の後悔なんだけどぉーー」


 ルーミャは戦いに集中するアオバの様子をチラリと見て大丈夫と判断するとギリギリ聞こえるか聞こえないかの声で言うのだ。




「如何に正しく有っても自身の判断を疑うことぉ。これは獅子猫族の始祖を失ってしまった事の後悔なんだぁ」




「失った?どういうことだ?」


 驚いた様子で訊ねるリュシカにルーミャは「ちょっと声が大きいかもぉ」と注意した後により顰めたままの声でーー。


「実は御先祖様は獅子猫族の始祖を大切に思っていたのぉ。そりゃあ、巫女を始めた当初から信者だった訳だから、特別に思っても仕方無いよねぇ?だからこそ、一つに執着を持つ彼女が力を持って危険に飛び込まないように正しくも合理的に判断したんだけどぉ......御先祖様も人の身に降りたとはいえ神だったから、人の想いの強さが時に合理性を超えることに気付かなかったんだぁ」


 正しく、完璧であるが故に人の持つ不合理且つ不完全な気持ちを理解し得なかった。それが、ある時の戦いで悲劇を巻き起こしたのだ。


「獅子猫族の始祖は聖女じゃなくても聖女に近しい存在で有りたいと努力した結果、"獣化"っていうより獣の力を高める力を手に入れたのぉ。そして、獣化した彼女は誰よりも速かったぁ。だから、ある戦いで御先祖様が敵の罠に嵌められて孤立した時に一番初めに到着したーーううん、()()()()()()()()()


 元来ならば虎か鷲が来るまで耐えれば良い。そう考えていた時に現れたのは予想外にも獅子だった。数多の銃弾が飛び交う中、獅子はアマテラスを護り抜きーー。


「聖女が来た時にはもう......こんなことならば聖女としての戦闘力を与えていればって、催事を行う度に彼女が立っていた空席を見詰めては胸が引き裂かれん思いだったって話があるんだぁ」


「......そんな話があったとはな。しかし、それでも聖女にしないのは?」


 純粋に疑問を感じたリュシカに「流石に全ては書かれて無いから確実とは言えないけどぉ......」と前置いてーー。


「その出来事って、結局は一つの執着が命を落とす証明にもなっちゃった訳なんだよねぇ。功績は絶大でも、それが理由で聖女足り得ないとした裏付けが取れてしまえば、御先祖様にはどうしようもなかったんじゃないかなぁ。それに獅子猫族には悪いけど、その出来事を公にも出来ない。時に王は個人の恩情より体裁を取らなくてはならないからねぇ。無論、見えない所で莫大な栄誉が与えられたみたいだけどぉーー」


 そして、ルーミャはアオバを見る。戦闘経験の差からか少しイムジャンヌに押され始めた彼女に目を細めながらーー。


「ただ、公には出来ないけど御先祖様を助けた功績を代々伝える事は許されたのぉ。だからだと思う。獅子猫族ってヒーロー好きが多いんだよねぇ。きっと未だにその話を語り継いでいるんじゃないかなぁ」


 元来ならば神を救った英雄として最大限の栄華を貰える立場に有りながら、数多の事情にそれを得られない悲劇の一族ーー。しかし、彼らはそう思わない。自身の大切な者を守る為に命を投げ売った。そこに栄誉や報酬は必要ないのである。


 自身の欲の為ではない、その誇り高き行為は正しくヒーローである、と彼等は高潔に生きる道を選んだのだ。


「フフフッ‼やはり、イムジャンヌ殿は強いのだ‼新気鋭のヴァルキリーに入隊が決まるだけはあるのだ‼」


 その誇り高き一族の末裔であるアオバは回し蹴りで牽制をかけると、その一瞬の隙を見て後ろへと飛び退いた。そして、両手をバッと広げ、ゆっくりと回して徐に重心を下げると、彼女は両手で牙の様な形を作りーー。


「とっておきなのだ‼変身ッ‼」


 左手を腰に当て、右手を天に掲げた。


「おおっと‼ジュウライガーイエロー‼......アオバ選手の体が輝き、肥大ーー獅子の姿に近づいていくぞ‼これはーー」


「獣化も使えるんだぁ......これは本当に厄介かもぉ」


 鋭い視線を闘技場内に送るルーミャ。獅子の姿に変貌したアオバは獅子らしく一吠えした後に器用に笑ってみせた。



「戦いはこれからなのだ‼獅子猫族の誇り見せてやるのだ‼」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ