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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
終章 偽りの巨龍 編(下)
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「おっと!ジュウライガーブルー!ここに来て遂にダウンか!」


「うう、プロポーションを気にして食事を抜いたのが仇になったわね.....」


 のっそりと立ち上がりフラフラとした足取りでベンチへと戻っていく様子を首を傾げながら眺めるイムジャンヌ。観客席では親と思われる狼犬族の女王が天を仰ぎながら頭を抱えていた。


 世界大会決勝は中堅戦を終えた所だった。オタク対決を所望しながらも速攻で倒されたカターシャ。その分を上級魔法を扱えるようになったノノワールが取り戻し、人魚姫とのアイドル対決にも勝利。しかし、戦闘力では上位と名高い狼犬族の後継者には敵わず、敗北した。


 その後、強い者と戦えるとウキウキ気分で現れたイムジャンヌの前で彼女は突然のギブアップ。空腹で倒れた上でベンチに戻り、今はクールにサンドイッチを頬張っている。


「ヒーローはピンチの時でも諦めない‼最後に勝つのは私達なのだ‼」


「そうなんだ。でも、私だって負ける気はない」


 腰に手を当てビシッと人差し指を向けてくるアオバを前にして、イムジャンヌはシュラリと愛刀を抜き、下段に構えた。


 手を交差し、試合開始を告げる審判を前にして二人は隙を探るかのように睨み合う。


「ーー大丈夫か?ノノワール?こっ酷くやられたみたいだったが......」


「......大丈夫〜。あの狼犬っ子がお馬鹿ちゃんだったお陰で見た目の割にはダメージ少ないから〜。とりあえず、準備してエルニシア先輩と合流するから後はよろしくね〜♪」


 一方、ベンチではズタボロにされたノノワールが回復魔法と浄化魔法を自身に掛けながら潜入作戦へと向かう準備を始めていた。


 方法は教えられないらしいが此方から連絡を取って、転移で迎えられる算段になっているらしい。単純に友人関係にあるメルトニアと連絡を取ってだとは思われるが人質を取られている以上、詮索は出来ない。


「気張っていきなよぉ‼こっちは必ず優勝するからぁ‼」


 そう檄を飛ばすルーミャに「愛のために頑張ってくるよ‼ルールー‼」と微笑んでノノワールは去っていった。


「心配だな。それに見送ることしか出来ないのも口惜しい」


 自身もSランクの実力を持ちながら、最も守られなくてはならない存在であるリュシカが歯がゆさを感じながら呟いた。


 足手まといになりたくない一心で頑張った結果がこれかと胸が苦しくなる。


「仕方ないよぉ。ここでリュシカが捕まっちゃったら勝てるものも勝てなくなっちゃうからねぇ。きっと妾が同じ立場だったとしても、同じような扱いになるだろうしぃ?だから、今は目の前の戦いに集中するようにしよぉ!」


 励ますような口調で背中をポンポンと叩くルーミャにリュシカは「ありがとう。ルーミャ。ルーミャの言う通りだ」と微笑んだ。


 隙があったのか動き出し刀と爪が交錯する中でリュシカはチラリとライジングサン側のベンチに視線をやった。活き活きとした表情で周りを気配り、時に戦闘に鋭い視線を向けて指示を出す、フェルミナの姿がそこにあった。


「アオバちゃん‼イムジャンヌさんは怪力が特徴の豪剣士です‼その腕力はエル兄様も押し負ける程ですよ‼迂闊に打ち合っちゃ駄目です‼」


「解ったのだ‼ならば、獅子猫族の俊敏さ見せてやるのだ‼」


「......指示が的確。やり辛い」


 打ち合えば持ち前の剛剣で疲弊させられる筈と近接戦闘に持ち込んでいたイムジャンヌが面倒だと言わんばかりに顔を顰めた。


 彼女とて一瞬の瞬発力に自信が無い訳ではないが、踏込みからの一撃は直線的な軌道を描く。同じ速さだったとして、猫のしなやかさを持つ曲線的な動きを捉えるのは難しい。


「むむむーーフェルミナちゃんがセコンド役としても優秀だから厄介です」


 フェルミナの戦略によって空中戦に持ち込まれ良い所無くボロ雑巾にされたカターシャが言えば、ルーミャは「本当、敵だとやりにくいよねぇ。ライジングサン的には有り難いことこの上無しだけどさぁ」と肩を竦めながら苦笑した。


「それにあのアオバって娘ぉ。本当に聖女の家系じゃないのってくらい優秀だしねぇ」


「実際問題、Aランク冒険者相当の実力があると試算されてるイムジャンヌが翻弄されている。戦闘面においては間違いなく優秀なのだろうな」


 一時期はエルフレッドを倒さなくてはならないと気を吐いて練習に励んでいたイムジャンヌ。その時程ではないが、ヴァルキリーとして活躍すべく、今でもアルドゼイレンに教えを請いながら実力の向上に努めている。


 そのイムジャンヌが、戦闘が得意な獣人とはいえ高等教育一学年の少女に翻弄されている事実は無視できるものでは無い。


「それにあの娘、とっても素直ぉ。獅子猫族って御先祖様を最も早くから応援し支えてきたって自負があるからプライドが凄く高いんだぁ。元来、力自慢でもあるし、ああいう戦い方は好まない筈だけどぉ。ライバルである筈の虎猫族の姫から指示を出されても何も気にしてないみたいだしぃ......将来が楽しみな娘だよ」


 将来の女王目線で語るルーミャは好ましく感じていた。そして、同時に今の状況では難敵だともーー。


「ふむ。聞く限り、目の前のアオバ嬢には当てはまらそうだ。それにしても、あるだけの実力があって、アマテラス様を最も早くから応援してたとあらば、多少なりとも失望があったのではないか?聖女になれなかったことに関してな」


 始祖が最も早く応援して報われなかったのならば、多少なりとも不満を抱くものだろうと一般論で語ればルーミャは首を振りーー。


「イングリッド家に対してって事なら一切無いよぉ。獅子猫族は虎猫族と一、ニ位を争う忠臣だからねぇ。それに聖女の家系以外で唯一、王配を輩出する栄誉も与えられてるからーー伝説では聖女に選ばれなかったことを不満に思うかと尋ねられた時に"アマテラス様の決定に文句を言うなど百代先でもありえません"って答えたみたいだしぃ」


「ーー益々聖女に相応しいではないか?ここだけの話だが、後継者である彼女達はおいといて、今の女王達は虎猫族を除けば、中々に曲者だと母上から聞いたぞ?」


 シラユキという絶対女王による長期政権は素晴らしい政策を多く打ち出してきた反面、権力に助長し始めた女王達には疎まれる一面があった。彼女の体調が思わしくない時などは何らかの行動を起こすのでは無いかと危惧された程である。


 今となってはシラユキが完全に復調したこともあって鳴りを潜めているが、代替わりするまでは牽制合戦が続くと思われている。


「......獅子猫族ってさ、家にとっては忠臣だけど他家には異常に厳しいのよぉ。公安任されてるっていうのもあるけど聖女達に対してはもうねぇ。それに資質に問題があるって言われててさぁ。これも伝説にあるエピソードなんだけど、御先祖様が全国を回る祭事を行った時、寝食を無視して全ての祭事に参加した事があったらしくてぇ......一つの事に対する異常な執着で命を失いかねないって、アマテラス様を大層呆れさせたって話が残ってるくらいだからぁ......」


 多くを助け、多くを慈しむ事を強いられる聖女という立場にアマテラスだけを愛し、アマテラスだけを慈しむ存在を推すことは出来ないとーーそう考えた時に獅子猫族の始祖は素質に難があったと判断されたそうだ。


「なるほどな。確かにアオバ嬢を見ていると、その始祖程ではないにしろ一つの物に強い執着を見せる素振りはあるというものだ」


 周りを巻き込んでの戦隊ネタや言葉の端々から感じられるヒーロー愛。それはある種の執着の形と言えるだろう。

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