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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
終章 偽りの巨龍 編(下)
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1

 遂に潜入作戦が開始された。空から潜入を試みるエルフレッド一行。海から道を切り開くジャノバ一行、そして、ノノワールの作ったチャンスに乗じて転移で乗り込むエルニシア率いるヴァルキリー。世界の命運はこの三組に託された。一方、世界大会は決勝戦、戦力的には世界最高峰の面々が激突する中で遂にリュシカとフェルミナは何を思うのか?そして、不気味な沈黙を保つルシフェルは何を考えるのだろうかーー。

「ともあれ。それだけ様々な武器が扱えるのであれば私達としても共闘しやすいというものです。前衛はコガラシ殿、ジャノバ殿は一度後衛での援護に回って頂きたい」


 自身が双方をカバー出来る位置に立ちながらアハトマンが指示を出す。全体のバランスを考えて、というのもあるが主にコガラシの適正を考えての配置だろう。


 ジャノバについてはコガラシに何かあった際の温存も兼ねている配置である。


「あいよ。んじゃ、ヘッドショット決めまくらないとな」


 煙草の火を消して、噛み煙草に代えながらMK11型魔法銃を準備している彼の前で黒の異形を引き裂いたコガラシが笑う。


「撃ち漏らしがあっても全く問題ないけどミャ?空から飛んでくるのも、海から飛び出してくるのも全く相手にならないからミャア!」


 クルリと身を翻し、後ろ回し蹴りを放てば海から飛び出してきた三体の異形は風船でも割るかの如く消し飛んだ。


「ハッ!神様を娶る男は言う事が違うねぇ!まあ、楽出来るに越したことはねぇが俺の仕事も取っててくれよ?」


 噛み煙草を食みながら器用に口笛を吹く、ジャノバも笑う。スコープ越しに狙いを定め、一発の銃弾で三体の異形を撃ち抜けば「やるニャア!ーーライジングサン的には神に選ばれたと言って欲しいのミャ」と肩を竦めた。


「なるほどねぇ。あくまでも女性の方が選ぶ立場って訳か?ーーお国柄ってヤツか」


 噛み煙草を吐き出して新たな煙草を取り出しているジャノバに「それも無い事は無いけどニャア。シラユキ様はそもそも創世神の一柱の末裔だからミャ。娶るなんて言い方はとんでもないミャア」と苦笑した。


「大体、そっちだって立場はあんまり変わらないミャ。王女に選ばれた訳だからミャア。そう考えると娶るって言い方は変ミャ?」


 あくまでも例え話のような、そんな口振りで言っていたのだが、何故だかジャノバは顔を真っ青にしながらガタガタと震え始めーー。


「い、いや、違うんだよ!俺はただお国柄だからって言葉まんまの意味で言ったんだよ!誂うつもりはなかったんだ!だから、仕返しは止めてくれよ!」


 意味不明な言い訳を始めた彼を前に二人が顔を見合わせれば「そうなんだよ......選ばれちまったんだよ......俺はどうなっちまうんだ......」と周りの異形すら襲い掛かるのを躊躇う程の淀んだオーラを纏いながら頭を抱えるのだった。


「......こっちもそれを言うならって意味で言っただけだったんだけどミャア。ーーアハトマン。何だか凄く心配になってきたニャ。娘が嫁いだ所だしミャア」


「......奇遇ですなコガラシ殿。私も少し心配になってきた所です。私の記憶では王女殿下は少々お転婆ながら才知溢れる可憐な少女であった筈ですがーー」


 堪えが効かなくなったのか、襲い掛かってきた異形をコンバットナイフで切り裂きながらアハトマンは首を捻る。魔法銃を取り出して威嚇射撃ーー任務遂行の為に道を切り開いていた。


「少々お転婆で許されるかっての‼お前等、本当に何も知らねぇじゃねぇか‼大体よ‼コガラシ‼心配だの何だの言ってるが、お前の娘も元凶の一人だからな‼」


 包囲網を組み始めた異形をサブマシンガン型魔法銃で蹴散らしながらジャノバが叫ぶ。近距離の敵を文字通り蹴散らしながら「......アーニャが元凶?そんな筈ないミャ」と怪訝な表情を浮かべる。


「そんな筈が無いも何もーーリーチェが言ってたぞ‼十八まで我慢するつもりだったけど抱きしめられてから我慢できなくなった、どうしたら良いかって相談したら良い方法があるって教えてくれたってな‼それが暗部の俺でも解らないような無味無臭の睡眠薬を紅茶に盛って既成事実を作れ!だぞ‼お前どんな教育してきたんだよ‼」


 パラララ、パラララと軽快な射撃音が鳴り響く中で「う、家のアーニャがそんなこと言ったのミャ⁉」とコガラシは驚愕し、狼狽えている。


 アハトマンは異形を魔法で制圧しつつ「ふむ。武力を使わず、義妹の願望を叶えながらも他国との結び付きを強めるとはーーやはり、アーニャ殿下はアードヤードに必要な方だ」と感心した様子で頷くのだった。


「大体よ‼今まで意識がなかった王太子殿下との間に子供出来るのも早過ぎじゃねぇか⁉そういう所、疑問に思った方が良いぞ‼マジで‼」


 半ギレの状態でグレネードランチャー式魔法銃を取り出してぶっ放したジャノバは肩で息をしながらコガラシを見た。


「うう、アーニャ......やっぱり、学園に行って変わってしまったのミャア......お父様は悲しいミャア......」


 粗方の敵を倒し終えて「敵軍殲滅‼目視にて確認‼そのまま潜入作戦に移行する‼」と無線越しに告げるアハトマン。移動速度が上がったのを確認してコガラシへと振り返った。


「神化をすれば個人でも世界最強クラス。頭脳明晰で軍部にも理解がある。そして、最高の策略家でも有られる。こんなに素晴らしい人材は中々居ませんぞ?惜しむらくは他国の王族であるから軍人にはなれないことくらいーー「アハトマンの評価は当てにならないミャ‼そもそも何で王族で有ることを惜しまないといけないのニャア‼神で王族以上の栄誉はない筈ミャアアア‼」


 豪快に嘆き節を炸裂させるコガラシを見ながら「私は最高の軍人になる事にしか興味が無いですから、そういう評価を下すのも致し方無いでしょうな」と苦笑した。


「まっ、何でも良いが、とりあえず緊急任務は完了ってことだな。エルフレッド潜入を円滑に進める為にオジサン達も頑張ろうかね」


 自分で種を蒔いておきながら素知らぬ顔で煙草を蒸かしたジャノバ。青々とした空に目を細め、再度、煙草を咥えるのだった。

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