終章(上)エピローグ
人々が紡ぐ数々のドラマがある。様々な感情に翻弄されながらも紡ぎ出される答えがあり、何らかの事象を引き起こすのだ。
方やルシフェルとの最終決戦。
方や学生の世界大会。
その重要度は比べるまでもない。しかし、その胸に秘めた熱き想いは変わらない。
これは五人の少女達が繰り広げる熱き戦いの物語であるーー。
「おおっと‼ライジングサン、天岩戸高等学園!色違いの巫女服を着て登場だ‼......はい?あ、そういう感じですかーー」
世界大会の司会者を務める男が身を乗り出して盛り上げるように言った後に手渡された紙に目を通して呟いた。
「青の巫女服‼狼犬族代表‼狼と犬のハイブリッド種!近しい犬種はシベリアンハスキー!スカイブルーの瞳のクールな外見とは裏腹にテストの成績は万年最下位‼女王様曰く、お馬鹿は犬種のせいではありません‼Cool&Foolの美人担当‼ジュウライガーブルー‼」
鼻筋がスッと通った美少女が「Cool&Foolなんて私にピッタリね」と嫋やかに微笑んだ。
「桃色の巫女服‼人魚族代表‼泳ぎも得意だが水陸両用‼本日は魚人スタイルで登場だ‼キュートな見た目と愛らしい歌声で、数多の人々を魅了する海のアイドル‼ジュウライガーピンク‼」
ピンク色の髪をした美少女が人間の耳がある部分についたエラをはためかせるように動かしながら「将来は海軍元帥に当たる海軍女王です」と微笑んで手を振った。
「白の巫女服‼外交官を勤める鴉鳥族の仇は私が取る‼空軍を司る鷲鳥族代表‼最強と名高い猛禽類、オウギワシの鳥獣人‼中性的な外見と鋭い眼光は男女問わず射抜きます‼空の王者は皆の王子‼ジュウライガーホワイト‼」
バサリと一回大きな翼をはためかせた中性的な美少女が「先輩の仇は私が取らせて頂こう‼」と胸の前に拳をおいて朗々と宣言した後に敬礼する。
「黄色の巫女服‼五人の中で唯一後継者ではありません‼しかし、その戦闘力を後継者を入れて尚上位を争うと言われています‼獅子猫族の誇りはアマテラス様信者No.0001番‼強さの秘訣は沢山食べること‼カレー大好き、百獣の王‼ジュウライガーイエロー‼」
「フッフッフッ!ライバルな意味でブラックと迷ったけど......カレーと大食いキャラが組み合わさったらイエロー決定‼戦隊モノの掟なのだ‼」
満足気な笑みを浮かべながら両腕を組み、踏ん反り返っているアオバは、嬉しい時の癖なのか紐の様な尻尾でペチペチと地面を叩いている。
「そして、伝統的な赤の巫女服‼王女殿下の従姉妹であり、シラユキ女王陛下から最も信頼されている一族、虎猫族の後継者‼何と伝説の猫又です‼シラユキ様曰く、その実力は娘達にも引けを取らないとか‼出場した試合は全て無敗‼獣人皆に愛されし、愛らしき密林の王者‼ジュウライガーレッド‼」
皆の前に立たされて顔を真っ赤にしたフェルミナが「何で私がレッドなんですかぁ。シラユキ様が喜ぶって言うから着替えましたけどーー」と所在無さげに指遊びしながら、不満気に尻尾を揺らしている。
「フェルフェル‼まだ終わりじゃない‼早く‼これ‼これを読むのだ‼」
そう言ってカンペを渡してくるアオバに「えっ......え⁉これって私が読むんですか⁉」と心底驚愕しているフェルミナーーだったが、せっかく練習したのに......と言わんばかりの視線を向けてくる皆の圧に耐えきれず、決心した様子で前を向いた。
「獣人族の平和はこの手で守る‼私達ーー」
「「「「「聖獣戦隊‼ジュウライガーV‼」」」」」
「アマテラス様に代わって神罰です‼ーーって何ですか⁉これ⁉」
会場の観客がビシッと決まったポーズに拍手を送る中、地面にカンペを叩きつけたフェルミナがアオバへと詰め寄ってーー。
「アオバちゃん‼私、聞いてません‼何なんですか‼この決め台詞‼とっても恥ずかしいんですけど‼」
「ええ〜、良いじゃん。アマテラス様に代わって神罰です。美少女戦隊っぽいし......ほら、フェルフェルの御家族も嬉しそうな顔してるよ?」
その言葉に「......へっ?」と油のきれた人形のようなぎこちない動作で振り返った彼女は「ーーイヒィッ⁉」と普段ならば絶対に上げない引き攣ったような悲鳴を挙げた。
視線の先に見える両親と姉の微笑まし気な表情と言ったらーー、そのコショコショ話は感情を見るまでもない。
「まあ、お母様‼フェルミナったら本当に楽しそうですわ!ライジングサンで良い友達に恵まれたみたいですね!」
「ウフフ、本当ですの。あんなに楽しそうにはしゃいじゃってーー本当に微笑ましいですの!」
ーーみたいな会話に決まっている。
えっ?お父様?何で泣いてるの?何々、友達が出来て本当に良かった?ーーち、違いますよ‼お父様‼私は元々友達が居ないタイプじゃないんです‼アードヤードの時は色々有ってご迷惑をお掛けしましたけども、あれだって私のせいじゃなくってーー。
「お、お母様‼お父様‼違うんです‼私は、フェルミナはライジングサンに行って大人のレディーになったんです‼断じて、断じて間違った高校デビューをしたようなはっちゃっけ方をしている訳ではーー止めて‼お姉様‼その微笑ましい物を見るような目で私を見ないでぇ〜‼」
わたわたとしながら必死に訴えかけるフェルミナ。しかし、ホーデンハイド一家の微笑ましい表情が変わることはなかった。
「ふっふっふ〜‼獣人達の平和を守るとは大きく出たものねぇ‼ならば、これは試練の時ぃ‼このアマテラスの直系、ルーミャ=アマテラス=イングリッドを倒して証明してみなさぁい‼」
「......何を言ってるんだ?ルーミャ?」
突然、一人舞台に躍り出た彼女にリュシカがツッコミを入れれば彼女はペロリと舌を出して「何だか面白そうだから乗っかってみたぁ」と頭を掻いた。
「ず、ずるい〜‼え、え~とここはどんな役が適切〜‼私は人族だから〜、え~と!え~とーー」
「......良いから準備する。舞台じゃないんだから」
バッサリと切り捨てられて唖然としているイムジャンヌの横でカターシャは苦笑しながらーー。
「面白い催しでしたが......この歳で戦隊ネタはちょっと、どうかと思いますよ?ーー「何だと⁉今の戦隊モノはイケメン俳優の登竜門‼内容的にも寧ろ対象年齢より上じゃないと見れない物ばかりなのだ‼この年齢で見なくちゃどの年齢で見ると言うのだ‼」
噛み付いたのは当然アオバである。自分の好きを否定されたと地団駄を踏む姿にカターシャは溜め息を漏らしてーー。
「別に否定したつもりは無いですよ?ただ、皆に強要するのはどうかと......フェルミナちゃんも困ってますし、好きな物は同士でも集めて共有すれば良いので?と思うのです。私も正直オタクですけどねぇ。分を弁えて細々楽しんでますよ。それが正しいオタクってもんじゃないでしょうかねぇ?」
僅かに上から見下ろすような、そんな口調で告げるカターシャにアオバはむぐぐ.....と唇を噛んだ。
「カターシャちゃん、私は大丈夫ですから......折角の大会ですし、因縁みたいなのは無しに致しましょう?」
困った様子で微笑みながらアオバを慰め、カターシャを宥めるフェルミナにリュシカは「ふむ」と片眉を上げた。
「ーーまずは決勝だな。優勝するのは私達だ」
彼女は言った。因縁みたいなのは無しにしよう、と。許す許さないを相手に委ねることしか出来ないリュシカは未だ葛藤の見えるフェルミナの言葉に何かを返すことはしなかった。
捨て台詞のように言ってベンチへと向かう途中、芯の通った真っ直ぐな声がその背中に降り掛かった。
「いいえ。勝つのは私達です」
あの日以来、初めて交わした会話である。そして、それ以上の言葉は無い。今はまだ面と向かって話をするには乗り越えなくてはならない壁があるのである。
答えを出すのは決勝の舞台でーー。
そんな想いを胸に秘めた二人の少女ーー戦いの時は刻一刻と迫っていた。




