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天を稲光が轟いた。歪な外見の異形達を穿ち、縫うように舞う閃光ーーそれは雷を纏い突き進むアルドゼイレンの姿だ。
「精霊様、力を貸して下さい‼リーフエンチャント!」
アリエルの周りを纏わるようにフヨフヨと漂っていた精霊の内の一体が彼女の中へと溶け込んでいく。そして、深緑の光となって彼女に草木を司る力を与えた。
放った矢は茨となって道を作り、翳し、払うように動かした手からは鋭利な葉が刃となって敵を切り裂くのである。
「見事だ!エルフの姫よ‼ならば、我も相応の物を見せねばなるまい」
バチバチッと大気を震わせ、弾く程に滾らせた雷の魔力が囲む様に飛来した黒の異形を高速で震わせた。痺れにふらつき制御を失った異形達が次々と落下ーー、上空で燃え上がった。
「ハッ!きたねぇ花火だぜ‼」
「......取りこぼしくらいはこちらで対処しよう」
僅かに生き残り飛来してきた敵を大剣で切り裂きながらエルフレッドが苦笑する。魔力を使うまでも無いと大口を開いた顎を上下に割くが如く一刀両断で切り捨てた。
「おお‼我としたことが‼取りこぼしとは情けない‼」
「いや、気にするな......次は教会で復活でもするのか?」
「......何を言っているのだ?エルフレッド?」
「......すまん。今のは忘れてくれ」
ドラゴン繋がりかと安直に飛び付いた自分を恥じ、羞恥で頬を赤く染めながら異形を切り裂く。前方で色鮮やかな花弁を撒き散らしながら敵を倒していたアリエルが「気持ちは解ります。ええ、解りますとも、エルフレッド様」と前方を見据えたまま苦笑した。
「ーーまあ良い‼道程は予予順調といったところか‼とはいえ、黒の魔力の奪う力とやらは中々に厄介だな‼」
体力や魔力等、奪える物は何でも奪う黒の魔法に微々たる量ながら確実に力を奪われている感覚を覚え、アルドゼイレンは険しい表情を浮かべた。
「ええ、本当ですね......精霊様も不用意に近付き過ぎるな、と仰られています」
今も死角から魔力を奪う為に大口を開いた歪な異形を茨の剣で切り裂きながら彼女も表情を険しくする。
「確かに厄介だが単体での強さは大した事はない。遅れぬように突き進むぞ‼」
未だ魔力を使う事も無く、己が剣術のみで敵を切り裂きながらエルフレッドが声を張り上げた。ーーそれにそれぞれ応答するかのように頷いたアリエルとアルドゼイレン。表情を改めて眼前を飛び回る異形の群れへと視線をくれた。
○●○●
数多の観客が興奮の声を張り上げるアードヤード城内、闘技場。選手として出場するノノワールの代わりを務めるのはメイカだ。二年連続のオープニングキャストであり人気からいっても妥当である。
数々の催しがなされ、ボルテージが高まっていく中で例年より盛り上がりが激しいのは、やはり禁止条項がほぼ撤廃され、文字通り学生最強を決める大会になっているからだろう。世界政府を救出する作戦に参加しているエルフレッドが棄権していることを残念がる者は少なからず居たがーー元より出れない事は大人の都合により隠されているーーそれでもSランクのリュシカ、神化したルーミャ、そして、聖化した五人の聖女の末裔達の戦いは人々の胸を踊らせるに充分なものであった。
クレイランド、グランラシア共に精鋭であるが、やはり、上記の者達と比べれば劣ると言わざるを得ない。そして、若干作為を感じる組み合わせではあったがアードヤード、ライジングサンが順当に勝ち上がり、来たる決勝戦を待つ事となった。
「すいません......先輩方の足を引っ張ることになって......このカターシャ、一生の不覚です......」
アードヤード王立学園側、選手控室ーー。アルベルトの代わりを務めるのは二年Sクラスからカターシャは項垂れた様子で呟いた。兄サンダース同様、相手の心を読む能力が使える為、心理戦特化での戦い方でここまで勝ち上がって来たが、エルニシアの鍛えたグランラシア代表のチームに足を掬われる形となった。
「いや、正直なところグランラシアのチームがあそこまで強いとは思わなかった。気にする必要は無い。次も先鋒で頼むぞ?」
「はい!リュシカ姉様!」
ニコニコとした笑顔を浮かべ、元気良く返事を返したカターシャの頭を撫でながら「の〜はノノワールのの〜」と謎のテンションで地面にのを書き続けているノノワールを見て、溜め息を漏らした。
「ほらぁ‼世界大会何だから元が戦闘系じゃないノノが負けるのは当たり前だってぇ‼皆負けたってちゃんとフォローするから落ち込まない、落ち込まない‼」
トントンと背中を叩きながら励ます大将のルーミャに「だって〜、あっちでも戦闘になるかもしれないのに〜......学生の大会で負けるなんて〜」と悔しそうな声を上げた。
「世界大会はもう学生レベルじゃない。特にライジングサンのチームは異常。気にするだけ無駄」
次鋒からの四人抜きを達成したイムジャンヌが愛刀の手入れをしながら言う。実際問題、例年の世界大会ですら冒険者上位ランクに当たるCランク以上の猛者が出場する。そして、今年に限ればSランクやそれに匹敵する戦力が出場しているのだ。負けて恥じる必要は無いのである。
「う〜ん......ライジングサンはそうでも去年は其処までじゃなかった気がするけどなぁ......」
体操座りを辞めて立ち上がり首を傾げたノノワールは何処と無く納得がいってない様子で呟いた。
「アードヤード王立学園の選手皆様、決勝開始十分前となりました。会場へと移動お願い致します」
「ーーさて、時間のようだ。皆、準備は良いか?」
リーダーシップを取る副将リュシカの声に皆は視線を合わせ、返事を返しながら立ち上がった。
○●○●
「甲板の上での海上戦......標的の数は数え切れない程......嘗て、このような戦いがあっただろうかミャア?」
「私が基本的に陸軍所属という事もあって海上戦自体珍しいですな。二人でとなればシーサーペントを退治した時でしょうか?」
「あ〜‼其処までから遡るミャア‼海上から浜まで追い込んだあの作戦かミャア‼ーーとなるとこの数の殲滅戦は実質、初めての連携になるニャアーー」
「ちょいちょい御二人さんよぉ。二人で盛り上がってないで俺も混じらせてくれよ?」
昔の作戦を思い出しながら話に花を咲かせる二人を眺めながらジャノバは苦笑し、空間からMk11型魔法銃を取り出し、煙草を咥えた。
そして、挨拶代わり発砲ーーダン、ダン、ダンと小気味良い音を鳴らして六体の異形を撃ち抜いた。
「ハッハー‼ヘッドショット‼ってな‼」
墜落していく異形に攻撃を察知した海中の異形がジャノバ目掛けて移動を開始する。
「んでもってーー」
空間にMK11型魔法銃を仕舞った彼は同じ空間からmk5型魔法銃を取り出し、飛び上がった異形達へと連射する。タラララーーと小気味良い音を鳴らして発射された魔法の銃弾が近付き、飛び上がった十の異形を撃ち落とした。
「十六コンボ‼魔力が切れない限り弾切れなしって考えると割とクソゲーだな!」
そんな事を言いながら吸殻を踏み潰し、今度は先程とは全く違うチョコレートフレーバーの黒の煙草を咥えて火を点けーー。
「あんまり近づき過ぎると違うゲームになっちまうぞ?」
空間の中にmk5型魔法銃を投げ込んだ彼が次に取り出したのは刃が大きな三日月型になった長柄武器、バルディッシュであった。上空から襲い来る異形をクルクルと巻き込むようにして斬り刻み、弾の嵐を抜けて来た海上の異形を薙ぎ払い、横一文字に切り裂いた。
「お見事。流石は"ウエポンマスター"と呼ばれるだけの事はあります」
更に波状で襲い掛かってきた敵を新たに取り出した双剣で片付けた彼は咥えていた煙草を挟みとって煙を吐き出した。
「学んだのはゲームからだけどな?汚れ仕事をするなら何でも使えた方が便利だしな。まあ、俺にはゲームオタクくらいの呼び名の方が性に合ってるってもんだ。もしくはリアルゲーマー?とかなーー」




