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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
終章 偽りの巨龍 編(上)
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27

「回復に時間がかかってしまった間に様々な事があったようだな。迷惑を掛けてしまった」


 皆の姿が見えなくなった頃、アルドゼイレンが零すような声で言った。雲を切り裂くように抜けて空の青と海の青の間を翔ける彼等ーー見渡す限り同じ景色が広がっている。


「いや、メルトニアさんの件は余りに予想外過ぎた。それにアルベルトの事だってな。気に病む必要はない」


 無論、ルシフェルを探しに行くのが少しでも早ければ変わったかもしれない運命ではある。だが、それを責めることは出来ない。予兆があったならば未だしも、エルフレッドが知る限りでもアルベルトのいつもと違う態度くらいだった。その程度の事でここまでの事態を予測するのは不可能というものだ。


「......そうか。だが、我は残念なのだ。確かに変わり者ではあったが二人共、良い友であった。このような結末を誰が望むというのか......」


 悲しげな声色のアルドゼイレンと同様の気持ちを抱く面もある。だが、エルフレッドとて可能性を捨てた訳ではない。敵側にいるメルトニアを救える可能性ーーそんな可能性を未だに夢見ているのである。


「間接的な関与は否めないが直接的に危害を加えたという話はない。俺はメルトニアさんを信じている」


 いくら状況が黒だと告げようとも彼の心は決まっている。相対し自身の目で確かめるまでは結論は出すまい、とそう決めたのだからーー。


「エルフレッド様。話はこれまでのようです。前方から夥しい数の黒が近づいて来ていると精霊様が告げています」


 彼等の会話を聴きながら前方を眺めていたアリエルの言葉に目を細めれば、大きな口と翼だけを持った歪な姿の異形がまるで黒の壁が迫るが如く近づいて来ているのが見て取れた。戦いが始まると大剣を抜いたエルフレッドにアルドゼイレンは楽しげな笑い声を上げーー。


「まあ待て、エルフレッド。其方はルシフェルや幹部との戦いに備えて力を温存すると良い。ここは神の使いと森の子の力を見せてやろうではないか?良いな?エルフの姫よ?」


 アリエルは巨龍の言葉に応えるかのように引き連れた精霊の力を纏うと魔法で作り出した弓を構えながら微笑んだ。


「ええ、良いでしょう。我らがエルフの得意とする精霊魔法の真髄見せて差し上げます」













○●○●













「フェルフェル!英雄様行っちゃったけど本当に会わなくて良かったのか!」


 世界大会に用意されたアードヤード王城内の控室の中、座禅を組み瞼を閉じていたフェルミナの耳に騒がしくも心地良い友の声が響いた。


「良いんです。今はその時ではありません。次にお会いする時は全ての蟠りが無くなった時......私はそう決めていましたから」


 慈愛に満ちた笑みを浮かべゆっくりと目を開いた彼女の前で鬣の様な黄金の髪を持った少女が、良く解らないといった様子で首を傾げた。


「ふーん。まあ、フェルフェルがそう言うならいいけど......うん!まあいいや!ウチら聖獣戦隊の力で!世界大会優勝だ!」


 先端に綿毛がついた紐のような尻尾を振り回し、床をペチペチと叩きながら「いくぞ〜必殺、聖獣パンチ〜!」と自作のテーマソングを歌い始めた友人を眺めながらフェルミナは苦笑いを浮かべるのである。


「アオバちゃん.......アオバちゃんの趣味には口を出しませんけど私達を巻き込まないで下さいね?高等教育機関に通う年齢になって流石にそれは恥ずかしいかなってーー「なんで!?カッコいいじゃん!聖獣戦隊ジュウライガーV!コスチュームもポーズも用意したのに!」


 コスチュームもポーズも用意したんだ......と困ったような表情で笑うフェルミナを見ながら「嘘だと言ってくれ......フェルフェル......」と大袈裟に頭を抱え始める。


「......ヒーロー好きの幅が広いですよね。アオバちゃんって」


 そんな友人に溜息を漏らしながらフェルミナは思うのだった。


(家族も見に来るだろうし......ちゃんとお断りしないとなぁ......)













○●○●













「コガラシ殿。どうやら貴殿の力を借りなくてはいけないようです」


 母艦のレーダー室、潜入作戦を前にして前方に現れた黒の異形の大軍を見つめながらアハトマンが言う。


「まあ、子供等の年齢の子が頑張っているのに我らだけ高みの見物っていうのも良い気分はしなかったからミャ。丁度いいっちゃ丁度良いミャ......んで、そこで白くなってる大公殿はどうするミャ?」


 何とも言えない表情でチラリと視線をやりながら問い掛けるコガラシにアハトマンは前を見たままーー。


「......戦いが始まればいの一番に飛び込んで行かれると思いますぞ?寧ろ、鬱憤も溜まっているでしょうから丁度良いのではないでしょうか?」


 完全に燃えた......燃え尽きたよ......と言わんばかりの状態の彼に「そんな上手くいくだろうかミャア......」と不安そうな声を上げる。アハトマンは苦笑しながら「それでもやるのがSランク冒険者というものです......信じましょう」と自身にも言い聞かせるように言うのだった。


「大体、何であんな風になってるニャア?姫との婚約なんて名誉な事だろうにミャア......確かに年齢的には中々思い切ったとは思うけどミャア?」


「......私からは何とも。年齢差が有りながら趣味の話も合う良い仲であるとしか伺っておりませんから」


 そう言って肩を竦めるアハトマンは実際そのようにしか聞いていない。ヤンデレだとか薬を盛っただとか、そんな話を知っているのは本当に極僅かな人々のみなのだ。


「ふーん。だったら余計によく解らないニャア。今度、シラユキ様に聞いてみるかミャア」


 腕を組み不思議そうに首を傾げていたコガラシだったが、敵の接近に備えて意識を切り替えるのだった。




「アハトマン陸軍元帥‼応答願います!ゼルヴィウス総元帥より指令であります!」




 突如鳴り響いた緊急回線を使った伝令に辺りに緊張が走った。


「ケルヴィン大佐!先ずは要件を聞こう!」


 公私混同を一切しないアハトマンが応えれば彼は大きく声を張り上げてーー。


「海中より異形の群れの奇襲有り‼至急、殲滅の上、潜入を進めよとのことです‼」


 どうやらレーダーの死角になる位置に潜伏していた異形達が急浮上し奇襲を掛けたということだった。小癪な真似を......と忌々しげに呟いたアハトマンは「総元帥にアハトマンが了解していた旨を伝えるように!」と声を張り上げた後ーー。


「ケルヴィン大佐!一つ確認がある!伝令兵を置きながら貴殿が緊張回線を繋ぎ伝令役を買って出た理由を簡潔に述べよ‼」


 その言葉を聞いて驚いた様子で目を丸くしたのはコガラシだ。如何に公私混同しないとはいえ、実の息子を疑うような発言だったからだ。しかし、当の本人は全く気にした様子も無い。聞かれて当然とばかりに佇まいを整えてーー。


「ハッ‼当艦隊、伝令隊は黒の異形の奇襲により負傷‼伝令室にも損傷が出ている為、緊急の回線を使用し連絡致しました‼必要であれば被害報告書のデータを送る許可も総元帥より受けております‼必要でしょうか‼」


 アハトマンは満足気に頷くと同じ様に佇まいを正してーー。


「いや、其処まで解っているならば良い‼ケルヴィン大佐、協力感謝する‼」


 そして、互いに敬礼を交わし通信は終了した。


「見事ミャ。しかしながら、明らかに実の息子と解っていながらあそこまでするのは獣人的には頂けないニャア」


 感覚上どうも納得行かないと腕を組むコガラシに対して「信頼しているからこそ確認が重要なのです」と口角を上げるアハトマンである。


「そんなもんかミャア。まあ、とりあえず、殲滅戦といこうミャ‼ーー力尽きてる大公殿下はどうするミャ?」


 緊急指令が入ったにも関わらず未だに白いままのジャノバは皮肉めいた笑みを浮かべながらーー。


「ハハハ、こんなペド野郎に声を掛けてくれるなんてコガラシ殿は優しいなぁ......勿論、行くに決まってるさ。未来の奥さんの為に英雄にならねぇと行けねぇからなぁ」


 気の抜けた表情でヘラヘラと笑うジャノバを見ながら「本当に何があったミャ?学生時代とはまるで別人ミャ」と苦笑するコガラシだった。


「......とりあえず行きましょう。敵は待ってはくれませんぞ」


 只でさえ緊急指令であると装備を確認し終えるなり早足でレーダー室を出ていったアハトマン。その後を追うようにして二人もレーダー室を出ていった。向かう先には夥しい数の異形の群れーー人類最高峰の三人による殲滅戦を兼ねた潜入作戦が今、始まろうとしていた。

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