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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
終章 偽りの巨龍 編(上)
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 エルフ族との会談を終えたエルフレッドの携帯端末には多くの人々から連絡が入っていた。学園内外問わない友人達、両親、そして、仕事上の付き合いがあった人々達ーー。


 共通して緊急放送の内容だったが、特に緊急性を問われたのはアルベルトとノノワールの物であった。父親であるハーマインが有らぬ疑いで捕まり、母親とも連絡が取れないという彼と捕まったミレイユが放送中に暴行され、一週間後にはレディキラーの手に堕ちるかもしれないと聞かされた彼女の取り乱しようは尋常ではなかった。


 アルベルトに至っては只でさえメルトニアの一件で精神的に参っているーー即座に対応する必要があった。


 そう判断し、アルベルトの邸宅に向かうエルフレッド。そして、ノノワールには他の友人達をあてがい、後程向かう事を連絡する。


 その間に事態は徐々に加速度を増し、人々の流れは大きく変わっていくのだった。













○●○●













「どうにか期間は引き伸ばせそう。勿論、本当にそれを願っているけど、今回程のめり込んだ演技はそうそうないかもーー」


 奪還の作戦を立てるにしても実行まで一週間では余りにも短い。アルベルトの状況確認後、ノノワールと会ったエルフレッドがその事を告げれば彼女は作戦があると交渉に当たった。


 それはスケジュールを理由に極力期間を伸ばす事だ。実際に直近のスケジュールをキャンセルしてミレイユに会いに行くことは難しいものがある。女優としての全力を掛けた演技で涙ながらに訴え掛ければ、どうにか二週間後の世界大会終了時まで期間を伸ばす事が出来た。


 神託が下ったというエルニシア先輩率いるヴァルキリーを護衛とし、共に潜入させる事まで了承させたのは流石と言わざるを得ない。ルシフェル率いる新たな世界政府に良いようにされているが、小さな布石は踏めていた。


 遮音魔法の掛かったレストランの中で二人は真剣な表情で向かい合う二人ーー。今後の打ち合わせを少しでも進めて不安を和らげようとの考えたのだ。


「ありがとう、ノノワール。助かった。流石にここ迄の事態になると今回の件は俺一人と言う訳にはいかない。無論、ルシフェルと戦う役は引き受けるが各所に協力を仰ぐつもりだ。後はミレイユさんの精神力次第か......」


 当然ながら期間が伸びた事は良いことばかりではない。相手に時間を与える事に他ならず助けを待つ者にはより苦痛を強いる事になる。


 特にミレイユはレディキラーの影に神経を擦り減らす日々を送らされている。当然ながら、その期間が伸びる事が良い作用ばかりを与えるとは言えないのである。


「ーーそれを信じるしかないのが苦しい。事態がもっと簡単なら今すぐにでも飛んでいきたい」


 悲しげな表情で告げるノノワールに「最善は尽くす。そうとしか約束出来ない俺を責めてくれても構わない」と彼が告げれば「私だってそこまで子供じゃない。少しでも助けられる確率を上げる話をしよう?」と彼女は努めて冷静に微笑を浮かべた。


「ていうか、エルちん。どうするの?」


「......どうするとは?」


 真剣な表情で確認するように問いかけるノノワールに、エルフレッドはどの話かと聞き返せば、彼女は「決まってるでしょ?」と眉を顰めてーー。


「メルトニアさんの件だよ。私の迎えは転移で行うってさ......エルちんが世界政府の島に転移出来ない以上、この転移を使う魔法使いって十中八九はメルトニアさんの事だよね?ルシフェルの可能性も無いことは無いけど......明確に転移って書いてるしさ。少なくとも今のメルトニアさんは彼奴等と協力関係にあるって事でしょう?」


「......可能性は否定できん」


 緊急放送とやらを見ていないエルフレッドは確信を持ってそうとは言えなかった。確かに転移魔法を使える魔法使いは限られる為、彼女の可能性は高いがーー。


「この際、ハッキリ言うけどさ。緊急放送の時にローブを着ていた男女が居たんだよ。男はあのレディキラーでさ。確かに深々とフードを被ってたし百%そうとは言えないけど......今ならあれはメルトニアさんだったと私は確信してる。何か事情があるかもしれないけど、彼奴等の中ではレディキラーと同等の扱いを受ける程の関係って事じゃん?だから、そう仮定して話を進めなきゃ意味無いって思ってる訳よ?解る?」


「......ノノワールの言うことが正しければ確かにそうだろう」


 彼女の言うことはごもっともだったが彼はそれを簡単に受け入れる事が出来なかった。彼とて解っていた。最初の失踪の時点で既にその可能性は頭の中にあったのだ。寧ろ、最初にその可能性を疑ったのはエルフレッドに他ならない。


 しかし、それと同時にそうであって欲しくないと節に願ったのも彼だ。メルトニアとはもう五年以上の付き合いがある。年月で言えば誰よりも長い友人の彼女が裏切者と確定してしまう事を拒む自分が居るのも無理は無い話だ。無論、その心情はノノワールとて理解しているものの彼の煮え切らない態度に苛立ちを覚えたのは言うまでもない。


「エルちん。私だってこんなこと言いたくないけどさ。そんな状態で本当に誰かを救えると思ってるの?ルシフェルと戦う以前の問題じゃん!そんなのさ!」


 言いながら怒りの熱量が上がっていく彼女にエルフレッドは言い返す言葉が見つからない。あくまでも自身の気持ちの持ちようの話だ。言っていることの正しさを問えば、ノノワールが言っていることの方が十二分に正しいのである。


「私だってメルトニアさんが敵かもしれないって考えたら思う所は沢山ある!だけどさ!もう、そうとしか考えられない所まで来てるんだよ!時間だってそんなにある訳じゃない!可能性は考慮しないと駄目でしょ!」


「......ノノワールの言う通りなのは解っているが......戦わねばならんのは俺なのだろう?友人達や世界を救う為の戦いなのに何でまた俺が友を斬らねばならないのだろうな......」


 覇気の無い声で零した言葉にエルフレッドの言葉にノノワールは言葉を飲み込んだ。アルドゼイレンの際もそうだった。彼は何時もその事を悩み、悔やんでいたのだ。


 結果的には今まで全てを失わずにここまで来れている。しかし、それはあくまでも結果だ。実際に斬り倒し、命を奪った感触を体感し、それを成した自身に嫌悪を感じているーー。


 情に熱い男故に友の事となると非情に成り切れない。事を成したとて後悔し続けるのだ。


 そんな彼の葛藤を以前も救う事が出来なかった。そして、またこうして同じ事を繰り返そうとしている。ノノワールは怒りの感情が一気に冷めて後悔の念に染まっていくのを感じていた。


「......ごめん。今のはエルちんの気持ち考えれてなかった。でも、もし、もしだよ?戦うしかないって状況になったとしたら覚悟は必要になると思う。それにさ、実力的にメルトニアさんを救えるのもエルちんしか居ないと思うんだ。だから、少し考えてみて?」


 エルフレッドの心情を理解した彼女に言える言葉はそれしかなかった。戦える存在ならば他のSランクでも良いかもしれないが、救えるとなればエルフレッドしか居ない。闘技大会での一幕しか実力を知らないノノワールからすると、余計にそう思えるのだろう。


 エルフレッドは頭を掻き、溜め息を漏らした。


「ーー救える可能性があって、それが俺にしか出来ないのならば覚悟を決めるしかないだろうな」


 出されたシャンパンを一気に煽り、彼はそう言って表情を歪めるのだった。

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