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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
終章 偽りの巨龍 編(上)
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20

 それはエルフレッドがアリエル達と会談していた時と同時刻の話である。


 突如、世界政府が全世界向けに発信しているTV局で緊急放送がなされた。多くの国の国民達が首を傾げる中で映し出されたのは縄で縛られ、膝をつかされた痛々しい傷を負った男女。手には魔封じの腕輪を填める念の入れようだ。そして、それを挟むようにして立っている二人の男と一人の女の姿である。


 特に有能そうには見えない初老の男に付き従うかの如く深々と黒のローブについた黒のフードを被った男女は見るからに怪しげだ。男の方はは二mを上回る身長をしていて腕ばかり肥大した歪なシルエットをしており、女は顔は見えないが美しい容姿をしているで有ろうことを容易に想像出来るシルエットをしていた。


「全世界の国民の諸君!突然の放送に驚いている者も多いことだろう!私の名はブラントン!現在、世界政府の府長を勤め、何れは世界の王となる者だ!」


 多くの人々がざわついた。そもそもが世界政府の府長はハーマインで有ることを多くの国民が知っている。それに世界の王とは何の冗談だろうかと多くの人々が首を傾げる。


 しかし、だ。一部の者はこの時点で尋常ならざる事態が発生していることに気付いた。何故ならば捕まっている男女の内、男性側の人間が現府長である筈のハーマイン、その人だったからである。


「我々は創世神に代わる新たな神の力を得て今日と言う日を迎えた!記念すべき日である!そして、ここに座る者達は我々と新たな神を批難した愚かな逆賊だ‼故に我々はこの者達を捕まえーー「ハッ‼何が逆賊だい?笑わせてくれるねぇ‼あんたらこそ創世神に仇為す愚かな反逆者共じゃないか‼」


 捕まっている男女の内の女性ーーミレイユがさも可笑しいと言わんばかりに叫んだ。別段、創世神を信仰している訳でもないが、ブラントンの言う新たな神を信仰するのだけは御免だ。反吐が出ると吐き捨てる血混じりの唾を吐いた彼女にブラントンは青筋を立てた。




 そして、有無も言わずに彼女の事を殴りつけたのだ。




 名を呼び止めようとするハーマインをフードの男が押さえつける。フードの女は顔を逸らすものの我関せずと言ったところだ。全世界に放送されている映像にて、魔力を封じられた女性が殴られ、蹴られ、踏み付けられるといった暴行の限りを尽くされるショッキングな映像が延々と流れ続けた。


 視線を逸らす者、両手で口元を覆い言葉を失う者が出る中でブラントンは肩で息をするまで暴行を繰り返し、ズタボロになりすっかり弱った彼女の頭をこちらに向かせるように髪を引っ張り上げる。


「強情な女だ‼ここまでされても睨むのを止めんか‼腹立たしい‼可愛気の欠片もないな‼」


 そう罵声を浴びさせられても、苦痛に顔を歪めながらも睨むのを止めないミレイユにブラントンは更に苛立ちを感じたようだったが、何かを思い出したかのような表情を浮かべた後にその顔を下卑た笑いで歪めーー。


「ーーそういえば、お前の姉はレディキラーの被害者だったな?その上、お前も暴漢未遂にあって男嫌いの同性愛者だったろう?」


「......」


 ミレイユは視線を逸し、無視を決め込んだ。この男に何を言われても屈しないという強い意志を持っての行動だったがーー。




「そのフードの男を見て解らんか?お前の姉の仇だろう?」




 彼女の瞳が大きく揺れた。驚いた様子で掴まれた髪の一部が抜けるのも構わずにフードの男を凝視する。バランスの悪い体つき、ボコボコと肥大した歪な腕は確かに見覚えがあった。


 憎悪と怒りの感情に支配され始めた彼女が拘束されていることさえ忘れ飛び掛ろうと体を揺すった瞬間、ブラントンはニヤリと口角を上げーー。




「お前も姉と同じ目に合わせてやる。いや、今ならそれ以上の酷い扱いを受けるだろう」




 フードの男、レディキラーを見ていた瞳が瞬く間にブラントンへと向けられた。徐々に血の気を失い、信じられないものを見るような表情を浮かべる彼女に彼は気分を良くしたようだった。両頬を握り潰さん勢いで顔を向けさせると顔を近づけ、追い打ちをかけるように言うのだ。


「当然、拘束され魔封じの腕輪を付けたままだ。抵抗出来ないお前はどんな目に合わされるだろうな?見目麗しい女が好みだと聞く。口を開かなければ、お前は正にレディキラーの好みだろう。轡でも噛ませて付き出そうか?何にせよ、次に顔を合わせた時にはそんな表情を浮かべる事は出来まいよ。怯えた小動物か、はたまた生気のない人形かーー何方にせよ、真っ当な状態とはならんだろうな?」


 ミレイユは反抗の限りを尽くさんと言わんばかりの瞳でブラントンのことを睨み付けた。しかし、その瞳からは大粒の涙が溢れるのだった。ブラントンは大層満足気な表情を浮かべると彼女を乱暴に突き飛ばしーー。


「一週間の時間をやろう!会いたい者が居れば会わせてやる!まあ、絶望が深まるだけかもしれんがな‼どんな目に合うのか、刻一刻と近付くその日まで恐怖に震え、眠れぬ日々を過すがいい‼」


 死んだ方がマシだと舌を噛み切ったとて私はそれで構わないーーそう愉悦に満ちた表情で告げる彼の狂気的な態度はTVの前に居た者達に薄ら寒い恐怖を感じさせた。


「ブラントン‼貴様は人の心さえ忘れたか‼」と押さえつけられながらも叫ぶハーマインに「俺は世界の王になる男だ!ハーマイン!最早、人の未来も我が心と匙加減一つだ‼」と意に介さないブラントンーー。フードの女は付き合ってられないと言わんばかりに溜め息を漏らすとそのまま画面上から去って行った。


「さて!話が長くなってしまったな!全世界の諸君!この放送を見た者は解るだろうが、私は大いなる力を手に入れたのだ!このような暴虐な振る舞いを許される程の圧倒的な力をな‼今後の事は追って放送するが、その時は諸君等が賢明な判断を下す事を私は節に祈っている!今回の放送は以上だ‼また会おう‼」


 そして、緊急放送は満面の笑みで手を振るブラントンの姿を映し終わりを告げた。終わるや否や世界は混乱に包まれていった。今後、何が起きるのだろうかと多くの人が不安に頭を悩ませる中ーー。


「......ミレイユ......さん......」


 クレイランドの高層ビル大画面前にて偶々TV撮影の休憩に入っていたノノワールの手から、撮影用のメイクを崩さない為に用意されたストロー付きのペットボトルが滑り落ち、乾いた音を立てながら地面を転がっていったのだった。

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