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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
終章 偽りの巨龍 編(上)
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17

 季節は徐々に冬へと近付いていく。問題は一切解決しないまま時だけが無情にも過ぎていった。取り乱したアルベルトに事情を聞いたエルフレッドはメルトニア捜索に名乗りを上げた。


 アルドゼイレンは産後の肥立ちが悪い事もあってイムジャンヌが協力に難色を示した為、捜索には参加出来ず、小国列島へはエルフレッド一人で向かった。


 学園を休み、転移で小国列島へと向かった彼は現地捜索隊と協力して小国列島を回った。隅々まで周り、ルシフェルの痕跡を探し続けた。


 転移を駆使した捜索ーー。二週間程で回りきったエルフレッドは額を押さえながら一つの結論を導き出した。




 小国列島にルシフェルの姿無し。拠点を完全に移したと思われる。




 ここに来てエルフレッドは漸くその事実に辿り着いた。ルシフェルが世界政府の島に拠点を移して既に数ヶ月の時が流れていた。




「僕がもっと注意を払っていたらこんな事には......メルトニアさんは何処に行ってしまったんだ......」


 捜索を終え、失意の結果を持ち帰ったエルフレッドに闘技大会を終え、結果を待ち望んでいたアルベルトは憔悴し切った様子で呟いた。


 アルベルトとメルトニアの研究所兼邸宅は荒れ果てていた。所長に席を置くメルトニアが居なくなり、副所長のアルベルトも、とても業務に身が入る様子ではない。税理士や調理師を中心とした職員達は一旦、有給休暇を取らせる等していた。


 エルフレッドには掛ける言葉がなかった。メルトニア失踪前も何らかの問題があったようで彼は学園に申請を出して研究所から通うようにしていた。それが結果的にメルトニアがルシフェルの側に向かう決断をさせた訳だが眠っていた彼が知る由もない。


 応接室のソファーの上、テーブルの上に両肘を着くようにして頭を抱えるアルベルトはポツポツと零す様に最近の出来事を語り始めた。


 小国列島でルシフェルを探し、エドガーを助けた辺りからメルトニアの様子は徐々におかしくなっていった。時折見せる思い詰めたような表情、苦笑い、罪悪感を感じさせる悲しげな顔ーー。最近の彼女はそのような表情ばかり浮かべていた。


 その事に気付きながらも原因が解らないアルベルトは彼女の気持ちを探りながらも、彼女が今まで喜んでいた事を行うようにして、気持ちを盛り立てようと努めた。


 だが、そんな行動を取れば取るほど彼女の表情は暗くなっていた。色濃い罪悪感ーー彼女が自身に後ろ暗い物を感じている事を理解する。


「でも、僕にはそんな事はどうでも良かったんだ。僕は餓鬼だから、皆に誂われるのが恥ずかしくて外ではあまりそういう風には見えなかったかもしれないけど、メルトニアさんを愛していたーー彼女を愛していたんだ!だから、僕に対して何か悪い事をしていたとしても関係なかったんだ!だから!だから!その事に触れるような事はしなかったんだ!......けど、それが間違いだったんだ......」


「アルベルト......」


 拗れてもでも、ぶつかり合うべきだったとアルベルトは苦しげに呟いた。何故、そんなに罪悪感を感じているのか?君は僕に何を思ってそんな表情をしているのか?ーーそう問い詰めるべきだったと彼は嘆くのだ。


「......僕は馬鹿だ......隣から居なくなって漸く解決策を導き出すなんて......それにイムジャンヌさんにも迷惑を掛けてしまった......」


「......いや、その件については俺も悪かった。居場所が解る方法があると知れば縋りたくなるのも無理はない」


 アルドゼイレンが動けばルシフェルの居場所が解る。その事実を知っていたエルフレッドは無理を承知で頼みに行った。一応はイムジャンヌの送り迎えをする位には回復しているのだ。可能性は零では無いと思った。


 しかし、聖国からの移動をエルフレッドが担当したくらいに状態は良くなかった。ミックスである子供に想定以上の魔力を持っていかれ、体力をも奪われたアルドゼイレンには数ヶ月の時を得ても尚、本調子とは言えない状態だったのだ。


 それにも関わらず気持ちが急いたアルベルトはアルドゼイレンに縋り、無理を通そうとした。友達だと思うならば協力するべきだろうと強い調子で詰め寄った。


 そして、その行動はイムジャンヌの逆鱗に触れたのだ。


 産後の肥立ちが悪いから申し訳無いけど無理だと言っているのにその言い草は何だと、周りが止めなければあわや取っ組み合いの喧嘩に成りかねない状態にまで発展したのである。最終的には落ち着きを取り戻し、双方謝罪の上で和解したものの一次は互いの間に気まずい空気が漂う事となった。


「アルドゼイレンも回復次第、協力してくれると言っている。俺も何らかの方法が無いか探りつつ、探索を続けようと思うから、そう落ち込むな。きっと良い方法がある筈だ」


「ありがとう。エルフレッド君」


 心落ち着けるようにと用意したココアに口をつけたアルベルトが涙を堪えるような震える声で礼を告げる。その様を複雑な心境で眺めながら「気にするな。メルトニアさんはアルベルトの婚約者以前に友人だ。俺も早く見つかる事を祈っている」とエルフレッドは慰める様な声色で告げるのだった。




 アルベルトが落ち着くまで話を聞いていたエルフレッド。彼が家路に着いたのは完全に日が落ちてからだった。賑わいを見せるアイゼンシュタットの第二層を歩きながら彼は頭を悩ませる。


 とてもではないが今の彼に告げる事は出来ない可能性ーー。冷静に考えればメルトニア失踪については不可解な点が多いのである。


 失踪したと考えられる割に彼女は何の抵抗も見せた様子がない。Sランク冒険者が無抵抗で連れ去られる事態等、ありえるのか、と問われれば答えは否である。如何にルシフェルと言えど本体が来た訳ではないのだろう。例え、やむを得ず着いていかなくてはならない状態にあったとしても一切の痕跡を残さずに連れ去られるとは考え難いのだ。


 更に言えば彼女は転移魔法が使える魔法使いだ。魔封じの腕輪でも着けられれば話は別だが、基本的には完全に拘束することは不可能である。


 一部、どうしようもない理由を考慮しながらも、これだけ長い期間、姿を見せず連絡も寄越さない辺り、最も考えられる可能性はただ一つ。


 理由は解らないが彼女は自分の意思でルシフェルの元に居るということである。


 考えれば考える程に、その可能性が高い事実をエルフレッドは誰にも打ち明ける事が出来ずにいた。学園の仲間達もそうだがギルド関連など以ての外だ。最悪、裏切者として相応の罰を受ける立場になってしまう。あくまでも疑惑という今の段階でそんな状況に陥らせる事はエルフレッドとて本意ではない。せめて状況が確定するまでは胸の内に秘めておきたかった。


(だが、もしメルトニアさんが本当に裏切っていたとしたら俺はーー)


 エルフレッドは思うのだ。その可能性が高いという事実に変わりはない。そして、ルシフェルと相対する可能性が高い自身は彼女とも顔を合わせる可能性が高いということになる。


 そうなった時、果たして自分は彼女を裏切者として扱うことが出来るのだろうか?


 アルドゼイレンの時のように必要とあらば斬らねばならないのか、と彼の心をざわつかせるのである。


「何を考えてるんだ......メルトニアさん......」


 星の光が届かぬアイゼンシュタットの夜空を眺めながら彼は呟いた。その言葉は誰の耳に届く事なく、人混みの中へと紛れて消えて言ったのだった。

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