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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
終章 偽りの巨龍 編(上)
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13

「ノノワールは時間が掛かるとして......皆、どうする?割と良い時間になってきたが夕食まで食べていくか?」


 備え付けの時計に目をやったエルフレッドが言えば、皆は一様に頷いた。今後の事を考えるとこうして集まれる機会は限られてくるだろうと考えたからだ。


「んじゃ、僕も手伝うよ‼序にメルトニアさんの食事も済ませたいから呼んでも大丈夫?」


「勿論だとも。さて、今日の食事は何にしようかーー」


 学園の行事は例年通り、去年の様に大きなイベントの予定もない。変わり始めたのは自分達の状況だけだ。しかし、それは確かに学園という名の箱庭から一つ先の場所へと進み始める一歩である。残り半年の学園生活ーーアーニャに到っては三ヶ月ーーでどれだけの思い出を作れるのだろうかと皆の頭の中には既に卒業の二文字がチラつき始めていた。


 時間は平等に流れていく。泣いても笑ってもーー感覚の違いはあれど、その事実は変わらない。故に何かの縁で巡り合った自分達が誰一人として後悔して欲しくないと願うのは決して間違いではないだろう。食事を取りながら笑いあった彼等ーーその思い出は色褪せる事なく生涯残り続けるものとなったのは言うまでもない。













○●○●













 各国のトップが集まり、とある議題について話し合っていた。それは武闘大会についてだ。普段ならば顔を合わせて事前に決まっている世界大会の場所を確認ーーお茶を飲みながら談笑して解散となるところだが、とある女王の一言によって話し合いが縺れに縺れているのだった。




「このままアードヤード王立学園の優勝では面白くなかろう?妾は"聖化"の禁止条項撤回を提案する」




 とある女王ことライジングサンの女王陛下であるシラユキの一言は戦局を大きく変えるものだった。


 聖化とは五人の聖女が使う神化のことである。神化同様、かなりの戦力アップが見込めるこの技は当然の如く禁止条項だ。何故ならばコノハが学生時代にこの技を使って全員抜きを達成したからである。


「シラユキ殿。流石にそれは......今年のライジングサンの出場メンバーは殆ど聖女の後継者ではありませんか」


 自国の三年連続優勝が掛かっているリュードベックが噛み付くのも無理はない。何故ならば今年のライジングサンの出場メンバーは何と五人の聖女の後継者の内、四人の出場が決まっている上に一人はライジングサンでの最強格のフェルミナだ。


 そして、反対にアードヤードはイムジャンヌ、アルベルト、ルーミャ、ノノワールは出場出来るだろうが禁止条項の関係でリュシカは出れない。その上、アーニャは妊婦なので辞退が決まっており戦力ダウンは免れない状況であった。


「リュードベック殿、妾は思うのじゃ。勝ちの決まった試合程面白くないものはないとな?」


「ハハハ、よく言いますね。聖化を認めれば、そちらの三年連続優勝は決定したようなものではないですか?ならば私はルーミャ殿の神化とSランク出場禁止条項の撤回を提案します」


 バチバチと火花を散らしながら睨み合う二人を見ながらアズラエルは苦笑してーー。


「......我が国の代表には悪いが今年の大会を既に諦めている。故に私としてはどうなっても構わないがーー」


 あからさまに早く帰りたい様子を見せる彼の横で聖王も苦笑しながら「私の所も孫のエルニシアが戦闘に特化した特殊能力持ちを鍛えているようだが......アードヤードに勝てるとは思ってないようだ」とお茶を啜った。


「ほう?リュシカ姫の出場にルーミャの神化とな?リュードベック殿も強欲よのぅ?それ程、優勝したいかの?」


「シラユキ殿こそ、聖化四人と見せかけてもう一人は獅子猫族のアオバ嬢でしょう?能力的にはフェルミナ嬢にも匹敵すると噂の才媛ではありませんか?強欲とはよく言ったものです」


 挑発するようなシラユキに喰ってかかるリュードベック。売り言葉に買い言葉ーーボルテージが上がった二人は「ならば本当の学園最強を決めようではないか‼」「望むところです‼」とアズラエルと聖王を置き去りにして勝手に何でもありルールにし始める。


「......もう何でも良いから会議を終わらしてくれないだろうか?」


「正直、私もそう思うのだが......一人だけ必ず禁止にしないといけない人物がいるだろう?」


「一人だけ?ーーああ、彼はまだ卒業前だったか。確かに出場が決定した時点でアードヤードの優勝が決定するからな」


「うん?アードヤードの優勝が決定とな?」


 と首を傾げたシラユキに対してギクリと肩を震わせたリュードベックは「何故禁止なのだ⁉二人共‼」と悪巧みがばれて言い訳をしている様相である。


「いや、流石に武道大会が面白くなくなり過ぎる」


「そうだな。彼が出るなら一対全員とかにしないと釣り合いが取れんからな」


「......リュードベック殿。もしやと思うが貴殿は禁止条項を全撤廃させてあの者を引っ張り出そうとしているのではあるまいな?上手く謀られるところであったわ」


 いくら学生最強を決める大会であったとして流石に非常識は存在する。同等ランク扱いのリュシカが出れるからと言って端から学生枠とは言い切れない存在を出していい訳がないのだ。




「「「エルフレッド。あの者(彼)は駄目だ(じゃ)」」」




「か、彼だって学生ですよ⁉ルーミャ殿下の神化やフェルミナ嬢の聖化が良いなら問題ないじゃないですか⁉」


 口ではそう言いながらもバレなければ程度に考えていたのだろう。リュードベックの表情は固い。


「駄目に決まっておるじゃろう?エルフレッドが出たら大会どころじゃあるまい。神化が良くてと言いながら、そうなっては神化したルーミャ、Sランクのリュシカ姫、特Sランクのエルフレッドが一チームではないか?過剰戦力にも程があるじゃろうて」


「うぐっ」と言葉を詰まらせるリュードベックを前にして「そもそも前から思っていたが、あの者は本当に学生かえ?実は妾みたいな長寿族で学生の振りでもしているのではなかろうか......それなら妾もJKコスプレとやらをして大会に出ても良いかもしれんのぅ」とシラユキは冗談めかして笑っている。


「ハハハ‼シラユキ様がJKコスプレとはとても似合いそうだ。まあ、よく見積もってJCだろうがーー」


「アズラエル殿。流石にそれは言わない方が良いと思うぞ?」


 大笑いしているアズラエルの横で聖王が学生時代を思い出すなぁと苦笑いを浮かべながら彼を諌める。しかし、短気で有名なシラユキ様は既にムスッとピキッとモードに突入していた。


「......アズラエル。そなたは皇太子の頃から生意気じゃったが、何じゃ?よく見積もってJCとは妾の聞き間違えかのぅ?」


 彼はニヤァと口角を上げながらシラユキを見ると態とらしく鼻で笑い。


「聞き間違えに決まっている‼いやはやシラユキ様には困ったものだ‼我が父も良く言っていたぞ?お年を召されたのか都合が悪くなると()()()()()()()()()()()()()()ーー「親子共々消し炭にしてくれるわ‼」


 ブワッと白の焔を纏いアズラエルに飛び掛かったシラユキーー「危ないではないか!」と言いながら笑みを浮かべたアズラエルはそれを躱しながら応戦する。


「......また始まりよったか。アズラエル殿も懲りないやつよ」


「まあ、仕方ありますまい。シラユキ殿は言うまでもないが、アズラエル殿も皇太子時代は戦士としても有名だった......公務ばかりでは発散も出来ぬのでしょう」


 聖王はチラリとリュードベックを見た後に「まあ、それだけでは無いのだがな。コルニトワ殿と出会ってくれて本当に良かった」と苦笑するのだった。

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