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「何だかイムリアさんと色々あったのが昔のことのように感じるね。まあ、二年近く経ってるから昔と言えば昔だけど......今じゃあ、すっかり良い姉妹って感じがするよ」
姪っ子と遊ぶイムリアの画像を見ながらアルベルトが感慨深く呟いた。イムジャンヌとイムリアが長い間、歪な関係にあった事など今では遠い過去のようだ。彼がそう考えてしまうくらい二人の関係が良くなっているのが解る画像だった。
「うん。私とお姉ちゃんは通じ合ってる。この関係は言葉では言い表せない」
ドヤァと言ってのけた彼女の横で「人はそれを姉妹と呼ぶミャア」と冷静にツッコミを入れた。
「まあ、それはおいといて〜♪アーにゃん大丈夫なの?学園来てる場合じゃなくない?」
テンション高めにクルリと回ったノノワールが言えばリュシカも心配そうな表情を浮かべてーー。
「そうだぞ?それに性別によっては世継ぎ、場合によっては女王もありえる子供だ。そう考えるとあまり外を出歩くのは感心しないな。無論、アーニャが学園に来なくなるのは寂しいが......」
「ニャハハ♪嬉しい事言ってくれるミャア♪そうだミャ。勿論、全ては子供優先ニャア。見えない所に護衛の影が尋常じゃなく配置されてるくらいミャ。でも、なるべく皆と卒業したいし、獣人族の妊婦は相当タフに出来てるから、そうそう問題になることはないだろうと許されている感じミャ!悪阻の様子とか次第ではより早く来なくなるかも知れないけど、その時は皆には早めに連絡するミャア」
獣人族の祖となった民族が少子高齢化が続いて困った事もあって、獣人族の女性はかなり妊娠に強く出来ている。その辺りも結果的には女尊男卑の助長に繋がっているのだが、さておき出生率は非常に高いのである。
無論、アードヤード王国としては最も大事にしなくてはならない存在ではあるため、その警護は非常に強固なものになっているが、本人の希望が通ったのにはちゃんと理由があるのだ。
「まあ、それならいいが......俺もあまり安心して見てられんな。レーベン王太子も回復したばかりだしな。無理はするなよ」
未だ面会は出来ないが、レーベン王太子覚醒は既に王国中に知れ渡っている。本人の回復状況を見て結婚式を機にお披露目ーー友人達との再開はその前後になると予想されているが、どちらにせよ、ある程度回復の見込みが立ってからの話である。現状歩く事もままならない程度の回復状況では未来の話をするには早過ぎた。
アーニャはニターと笑ってエルフレッドの方へと顔を向けると「ルシフェルの討伐がいつ入るか解らないからそっとしてるけどミャア。終わったら滅茶苦茶に扱き使うつもりだから覚悟するといいミャ♪転移役に護衛にてんこ盛りミャア♪」と声を弾ませた。藪蛇だったなと苦笑いを浮かべた彼は「無論、友人として最善を尽くすつもりだが、扱き使うのが目的にならないようにしてくれるとありがたいな」と困った様子で眉尻を下げた。
「まあ、私からも程々で頼むと言っておこう。それでエルフレッド。件のルシフェルはどうなのだ?やはり未だに小国列島に居るのだろうか?」
「多分な。最近、小国列島周辺の海域が凶暴化した魔物達によって荒れに荒れているそうだ。ルシフェルが何らかの魔法を使って、そうしたのでなかろうかと言われている。防御壁を築いたのだろうとな?とはいえ確実ではないからな。前の住処で見つけた鱗の欠片の魔力をアルドゼイレンに辿ってもらえれば今の住処も見つけることは難しくないだろうから、ある程度都合がついたら探すのを手伝って貰うつもりだ」
ルシフェルの残した痕跡とは即ち鱗のかけらの事だ。強い魔力を帯びていたそれは居場所を辿るに十分な残滓を残しているそうだ。無論、人族でそれを見つけるのは難しいが神の遣いとなり同族に近しい巨龍であるアルドゼイレンならば、その形跡を辿ることも難しくないと聞いている。無論、今直ぐにとはいかないが育児の間の良い時期に共に向かうことになるだろうと考えている。
「全くもって厄介な存在だ。人類に自分の居場所を奪われたと怒り狂って問題ばかり起こすのだから迷惑極まりない。ーーそういえば最近は世界政府の島でも何らかの怪事件が起きてるみたいだが、アルベルトは何か聞いてないのか?」
「そうだね......今の所は心配ないとしか聞いてないかな?例の三人の被害者以降はとりあえず被害は出てないみたいだし。何方かと言えばミレイユさんの休みを取って申し訳無いってノノワールさんに代わりに謝っておいて欲しいみたいな話がメインだったよ」
様々な事件が連続的に起きていることに不安を感じているリュシカに比べて当人から状況を聞ける彼は苦笑気味だ。世間の不安とは裏腹に世界政府側は意外と切迫していないような印象を受けた。
アルベルトの言葉を聞いたノノワールは話していたルーミャとの会話そっちのけで「マジでそれ〜‼急に明日からってなんなのよ〜‼」とプンスカし始める。
「十分前まで明日からの予定立ててたのに突然仕事になったって言われた時の絶望よ〜‼本当、天国から地獄〜‼ミレイユさんも若干プンスカしながらも申し訳無さそうに連絡してきたし〜‼世界政府はブラック企業かっての〜‼府長自らじゃ断れないしさ〜‼文句しかでないわ‼って言っといて〜‼」
どうやら夏休みは中々お楽しみが予定されていたようだった。「まあ、父さんに伝えとくよ。任務完了したら追加で長期出すって言ってたけど......僕が思うにそれって学園の長期休暇と被らないから意味ないよね?何か社会人になるとそこら辺解らなくなるのかなぁ」と苦笑するアルベルト。ノノワールは更にプンスカしてーー。
「それもだし......また何か緊急任務入ったらやっぱなしってなる未来しか見えないわ〜」
カクンと突然スイッチが切れたかのようにテンションが、がた下がった彼女は大きな溜め息を漏らすのだった。
「まあ、でもぉ。ミレイユさん?って人とは良い感じなんでしょ?だったら何も今回だけがチャンスって訳じゃないと妾は思うけどぉ?」
慰め半分、意見半分で肩をポンポンと叩くルーミャに「ルールーありがとね......でもねーー」と彼女は苦笑いを浮かべながらーー。
「ミレイユさんにまだ計画の全容話してないんだ〜。お酒入ってたしちゃんと伝えないとと思ってさ〜。だから、付き合えるかどうかも保留なんだよね〜。そこら辺も含めて素面で話そうと思ってたからさ〜」
会って一日目の割にはかなり意気投合していたので、そのままどうこうなっててもおかしくないとは思ったが意外にも、確りおお預けしてそのまま帰ったらしい。
「あ〜、真面目に将来考えてのそれだったけど、やらかしたかわ〜。あれは、あのままラブホに直行パターンが正解だったわ〜。このままお互い忙しくなってすれ違って感情薄れて......あ、愛とはなんだろうか?恋はホルモンによって引き起こされるものだが愛は恋とは違うものでより理性的で有りながら恋よりも深くーー」
「ノノぉ〜‼それ単なる杞憂だからぁ‼まだ何も始まってないからぁ‼こっちの世界に戻っておいでぇ‼」
不安からのショックから廃人モードに移行したノノワールの肩を揺さぶりながら焦るルーミャ。
「......何だか憐れと言うか何と言うかだな」
「でも、真面目にした結果がこれだと報われないから、ちゃんと父さんに伝えとくよ。今後の恋愛観にも響きそうだしね。父さんはパートナーにって言ってたから付き合い始めたものだと思ってたけど、どうやら勘違いみたいだし」
憐れむ視線ような視線で眺めながら肩を竦めたエルフレッドにアルベルトが苦笑いを浮かべた。それはノノワールに、というよりは認識違いをしている父親にであったがーー。




