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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
終章 偽りの巨龍 編(上)
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「いや、大丈夫だ。我が子よ。ただ、疲れてしまっただけだ。ーーしかし、我が子の中では我がパパなのだな。まあ、我としては何方でも良い部分がある故、パパではあるが役割がママだと言った方が良いのかもしれん」


 産卵と感情の起伏に完全に疲れてしまったアルドゼイレンが苦笑しながら告げる。前足で気遣うように頭を撫でれば一見されるがままのように見えて非常に満足気な雰囲気を漂わせていた。


「性別かな。確かに役割だって言ったほうが解りやすい。ちょっと考えてみる」


 そんなイムジャンヌの言葉に小首を傾げながらヌボーしている娘にイムジャンヌが「おいで」と声を掛けるとトテトテと歩いて、ボフンとしがみついた。


 彼女は「よっこいしょ」と娘を抱き上げて抱き締める。娘はやはり、されるがままのように見えて大変満足気な雰囲気を漂わせていた。


「......一件落着で良いのか?」


「いいと思うぞ?丸く収まったみたいだしな」


 そう言いながら笑い合うエルフレッドとリュシカーー洞窟の外の空を見上げれば既に空は暗くなり、輝く星々が見えていた。


「さて、帰るさね。アルドゼイレンさんは今日は休んでいくさね?」


 卵の割には難産だったこともあって顔色は良くない。疲れ切った印象を受ける上に人間ならば暫く安静の状態だ。アルドゼイレンは「我が子を前にして休むのは惜しいが致し方あるまい。早ければ明日の昼頃に向かおう。エルフレッド頼むぞ」と重そうにしていた頭を地につけて目を閉じた。


「ママ......」


 アルドゼイレンの方を見ながら心配そうな声を上げる娘にイムジャンヌは「大丈夫。眠るだけ」と微笑んでリュシカと談笑しているエルフレッドの方へと歩み寄る。


「急にごめんね。今日はありがとう」


「いや、大丈夫だ。それに普通なら経験出来ないような貴重な体験をしたから満足だ」


「それに可愛らしい娘も見れたからな......私も抱っこ出来そうか?」


 単純に巨龍の産卵から子供の誕生という貴重な体験に興味を感じ、満喫したエルフレッドと産まれてきた子供が初めから幼児の大きさであり、その愛らしさに母性を擽られたリュシカ。


 それぞれ興味の対象は違うものの今回の出来事にそれなりの満足感を覚えているには違いなかった。


 イムジャンヌはやはりヌボーとしている娘を見ながらーー。


「ママの友達。抱っこしたいって」


 彼女はリュシカの方を見ると良いよと言わんばかりに手を広げた。


「ふふふ、可愛らしいではないか。よしよし。今度、御洋服をプレゼントしてあげよう♪」


 抱き着くなりピトっと張り付くように身を寄せた彼女にリュシカは機嫌を良くして言うのである。その様子を眺めながらエイガー夫人は「幼子ってのは何で性別問わずに綺麗なお姉さんが好きなんだろうねぇ。昔から本当に不思議に思うさね」と心底不思議そうに呟くのだった。


「アルドゼイレン。帰るけど何かあったら連絡して」


「ハハハ、何もないと思うが、その時は携帯を鳴らそう。そちらも何かあった時は直ぐに連絡くれ」


 アルドゼイレンはそう告げるとゴロンと完全に寝る体勢になる。


「じゃあ、帰るぞ。アルドゼイレン、またな」


 エルフレッドの言葉に尻尾を振ることで答えたアルドゼイレン。彼は頷いて転移魔法を唱えるのだった。













○●○●













 世界政府の島にて連続する怪事件ーー。島民は早期対応を望む声を上げていた。徐々に広がっていく混沌とした状況はルシフェルにとっては愉快で仕方がなく、新たに手駒に置いたブラントンの動きはとても満足のいくものだった。


 今の時点では完全に私怨の解消と敵対勢力の排除であるものの、これを布石に彼はまず世界政府のトップの座を取ると言う。そして、奪取後は島を封鎖ーー各国への派兵、侵略による統治という野望を描いていた。


 ルシフェルにとってはそれ自体はどうでもいいことである。そもそも、ブラントンが本気で人類の王になれるとも思っていない。大混乱の最中、何処かで命を落としたとして、どうでもいいことだ。


 しかし、そうして手駒が動くことで大きな混乱が発生することが彼にとっては重要で有り、自身の計画を実行すること為にも必要不可欠であった。


 そういう意味では最も素晴らしい動きをしていると言っても過言ではない。


 ルシフェルは小国列島から世界政府の島へと住処を変え、直接的に力を貸すことにした。変質したレディキラーを放ち、世界政府からの警戒が強まってきているブラントンから意識を逸らす。そうすれば手駒は更に動き易くなり計画の実行が早まると考えたのだ。


 闇夜の中で大きな体を持つルシフェルは影に潜り、移動を開始する。海面を蠢く不気味で巨大な黒の影は見る者が居れば、未確認生命体の存在を疑ったであろう。ーー異様な光景であった。


 最近は住処が見つかった事もあって人族による調査が何度も入り、煩わしさを感じることも多かった。それを思えば移動の手間など大したことではない。こうして闇夜に紛れれば如何に異様な光景だろうとも欺くことはそう難しいことでもない。


 ルシフェルは小国列島周辺の魔物や海洋生物を変質、狂暴化を促して包囲網を敷いた。人々に混乱と恐怖を呼び起こす為もあるが単純に警戒を引き付ける為でもあった。


 ブラントンの行動がルシフェルの手引きあってことだと気付くことを遅らせる誘導であり、実際に探索に入っている者達を足止めするための策でもあった。


 こうして、小国列島は一時期、貿易が不可能な状態になり孤立ーーその狂暴かつ変質した生物による強固な防御壁によって、多くの者達が命を落とし欺かれた。


 ルシフェルの陽動作戦は見事成功し、策略の進行を早める結果となったのだった。













○●○●













 長かった夏休みが終わり、学園が始まった。いつも通りの始業式ーー放課後、久々にエルフレッドの部屋に集まった皆の中で特に状況が大きく変わったのはイムジャンヌとアーニャである。


 レーベンが目覚めたこと、そして、()()()()()()()()()()()ご懐妊ーー。


 冬休み明けの授業は王宮内で受ける予定の為、学園に来るのは十二月迄となる予定だ。イムジャンヌは子供が出来た関係で全寮制ながら通学による登校が認められている。送り迎えはアルドゼイレンが行うそうで休日は家で過ごす予定である。


「これが家の娘。イムエリス。リュシカから貰った洋服がお気に入りみたい」


「うわぁ‼めっちゃ可愛いじゃん‼てかぁ、本当に三歳くらいの大きさなんだねぇ‼妾も生で見たかったぁ‼」


 天使を思わせる白のふわふわもこもこの秋物ワンピースを着て、イムジャンヌに手を引かれるイムエリス。相変わらずヌボーとした表情であるが、人差し指を咥えてカメラに写る様子は非常に満足気な様子であった。


「土日にでも家に来るといい。何か綺麗なお姉さんとか来ると瞳が輝き出すから喜んでいるんだと思う。最近は仕事帰りのお姉ちゃんにベッタリ引っ付いてる」


 イムリアが椅子に座るとその膝辺りにベッタリ引っ付いて大層困惑させているそうだ。無言だが、とても満足そうな雰囲気で瞳を輝かせている姪っ子は可愛いらしく、彼女は何時も膝の上に乗せて頭を撫でたりしているらしい。

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