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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
終章 偽りの巨龍 編(上)
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「うむむ......今までの知識上ここ迄身体に負担があったことはないのだが......想定より大きくなってしまったか?」


 あくまでも卵に気を使いながら横向きに体を倒したアルドゼイレン。その姿勢が楽ならばと夫人は丸めた布団をクッション代わりにして、頭と膝の辺りに置いてシムス位の姿勢を取らせた。


「ほら、ゆっくり呼吸してーーどうだい少しは楽になったかい?」


「おお‼大分楽になったぞ‼産むことに集中出来そうだ‼」


 言葉の割に顔色が悪く体力の消耗が著しく起きている事は確かである。背中や腰に強い負担を感じているようだったので、このままフリースタイルな形の分娩にすることにした。


 魔法を使い足を上げさせて負担を減らしながら補助していると卵の頭がピョコピョコと姿を現し始めた。


「ね、ねぇ‼アルドゼイレン‼卵が凄く動いてる‼」


 何だか様子がおかしいとイムジャンヌが声を掛ければ「なるほど‼どうやら、もう卵からも出たがっているようだ‼だから、負担が大きかったのか‼」と呻き声を上げながらも嬉しそうに口角を上げるのであった。


 出産というよりは産卵だが産まれやすい形状の割には中々の難産だ。うんうん唸り声を上げながら既に半日、内側からの早く出して攻撃に卵が何時まで耐えられるか、と不安な感情が浮んでくる。


「ほら、確り気張りなよ‼子供が早く出たがってるのが解るだろう‼」


 夫人の激にアルドゼイレンが咆哮を上げる。ググッと力が込められた足に足を支えるエルフレッドや微力ながら、精一杯それをサポートするイムジャンヌの額から汗が飛んだ。


 祈るように見詰めるリュシカはエルフレッドの魔力が切れた時の保険で有り、今はただただちゃんと産まれてくることを願うばかりである。


「グオオオオ‼」


 更に半刻が経った頃、遂にその時は訪れた。一際大きな咆哮を上げたアルドゼイレンからツルンと大きな卵が産み落とされたのである。


「やった‼産まれた‼卵が出て来た‼」


「安心するのはまだ早いさね‼卵から出て来れなきゃならないからねぇ‼それに産まれるのはアルドゼイレンと同じ巨龍って訳じゃない‼私達も外から手伝うさね‼」


 自身の獲物を手に硬い殻に包まれた卵に向かうイムジャンヌと夫人にアルドゼイレンは感嘆の声を挙げた。


「おお‼母君は良く解って居られる‼我もミックス故に破れないのではと心配しておったのだ‼手伝いたいのは山々だが、我も疲労でこのザマだからな‼」


 声の割に顔色は悪いままで有り、シムス位の形に戻ったアルドゼイレンはやりきった表情で首を垂れ瞳を閉じている。珍しく疲労困憊と言った所なのだろう。子供が出てくるのを待ちながらも、それまでは体力を温存しておきたいーー寝ておきたいという気持ちが見て取れた。


「産むのを頑張ったんだからゆっくり休むさね‼後は私等でどうにかするからさ‼」


 パリッ。パリパリッーー。


 内と外からの衝撃に卵に罅が入っていく。ある程度のところで中の存在が傷つかないように手を止めれば、その罅は一人でに大きくなっていき、遂には割れた。


 ポテンと転がるように中から現れたのは三歳くらいの幼女だった。背中には稲光色の翼と尻尾が有り、髪の色も稲光色だ。しかし、瞳の色はイムジャンヌと同じ翡翠色ーー全体的なパーツの作りはイムジャンヌに似ている。


「初めから大きい‼」


 確り女の子の姿で生まれてきた事に驚いたイムジャンヌが、身体に大き目の布を身に着けてやると彼女はヌボーとした様子で彼女のことを見詰めた。


「遂に産まれたか‼巨龍は初めから一人で生きることを想定してある程度は成長した姿で産まれるものだが、多少はその流れが引き継がれているようだな‼」


 ニコニコと我が子を見詰めるアルドゼイレンの声を聞いて、やはり、ヌボーとした視線を向けた彼女はイムジャンヌの方を向くとーー。


「......ママ?」


 と言った。自身に流れる魔力と同じ魔力がながれていると感じたからだろう。イムジャンヌは首を振ると「惜しい。私はパパ」と言った。


 彼女は少し困惑したように首を傾げた後にアルドゼイレンを見てーー。


「......パパ?」


 と言った。アルドゼイレンは「ガハハ‼我はどちらでも構わんが、そなたを産んだという意味ではママだな‼」と笑った。彼女は混乱したような表情を浮べて微笑みを浮かべる二人を見回した後にーー。


「......ふぇ」


 自身の知っている知識と違うことに困惑して瞳を潤ませた。そして、涙目のまま全員の顔を見回してーー。


「......ばあば?」


 と最後の望みを賭けるような表情でエイガー夫人に声を掛けた。


「おや?魔力で解ったのかい?賢い娘だねぇ。そうさね。私がばあばさね」


 と嬉しそうに微笑んだ。その瞬間、幼女は目をぱぁっと輝かせて翼を広げるとバサバサとはためかせて飛び立ちーー。


「ばあば‼」


 エイガー夫人へと抱き着いた。


「んなっ⁉」


「なぬっ⁉」


 勢いに押されて「おっとっとーー」とよろけた彼女だったが上手いこと抱き止めると慣れた手付きでポンポンと背中を叩いてあやす。幼女は無反応かつヌボーとした表情だったが、ここが私の有るべき場所と言わんばかりに満足そうな雰囲気を漂わせながら親指をしゃぶり始めた。


「全くあんた達が解りにくいこと言うからこんなことになるさね......まあ、私は孫がばあちゃんっ子になるのは大歓迎だけどねぇ。初日からこれじゃあ先が思いやられるねぇ」


「だ、だって‼大切な子供に嘘は言えない‼解りにくくても私、パパの役割だから‼」


「わ、我だってそうだ‼実際に卵を産んだのは我ではないか‼人間ならばママで間違い無いであろう⁉」


 大切な子供と言われて一瞬そちらを見た幼女だったが、やはり、言ってることの意味が理解できないと言わんばかりに視線を逸らすとエイガー夫人に頭を擦り付ける。


「一時はどうなるかと思ったけど本当に可愛いねぇ〜。う〜ん、よしよし、ばあばと一緒にお家に帰るさね‼」


 ニコニコと満面の笑みで抱きしめながら彼女が言えば幼女はヌボーとした表情で指をしゃぶったままコクンと頷いた。


「な、なんだと⁉それは酷いではないか母君⁉我の苦労は一体どうなるのだ⁉今日までの約一年間‼お腹に卵を抱えて我が子を待った我の苦労は⁉」


「そ、そうだよ‼それに将来的には聖国で暮らす‼アードヤードに慣れたって困るだけ‼」


 ガビーンと涙目で訴えるアルドゼイレンと焦ったような表情でワタワタと告げるイムジャンヌーーそんな家族達を見ていたエルフレッドとリュシカは苦笑いを浮かべながら顔を見合わせた。


 しら〜とした雰囲気で視線を逸し続ける幼女をあやしながらエイガー夫人は楽しげに微笑むと「まあ、一旦連れて帰るのは本当だけど、それは親族に会わせる為さね。3ヶ月くらい滞在して貰わうつもりだから、その間にちゃんと説明して納得させるようにするさね」と二人に告げた。


「そういうことであったか......すっかり疲れてしまった」


「アルドゼイレン......」


 へなへなと首を垂れて項垂れたアルドゼイレンにイムジャンヌが心配気な表情を浮かべた。すると幼女はエイガー夫人の服を軽く引っ張って下ろすようにせがむとトテトテとアルドゼイレンに近付きーー。


「パパ、いたいいたい?パパ、いたいいたい?」


 と心配そうな表情を浮べてアルドゼイレンの額に触れた。

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