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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
終章 偽りの巨龍 編(上)
385/457

7

「......薄々は勘付いていたが確信、か。そして、具体的な対策が必要な程の実力と?」


「ええ。ここに居る方々は何となく勘付いていたとは思いますが、リュシカにはレディキラーを再三差し向けていましたし、自分の場合は周りを害することで孤立させようとしてました。影もそのようなことを口走っていましたからね。その結果巻き込んでしまった方々には申し訳無いと思いますがーーそれはさておき、まず間違いないでしょう」


 それぞれメッセージのやりとりで共有していた。その上で個々でそういう可能性があることは考えていたものの、こうして共通の認識としたのは今回が始めてだ。何方にせよ、それを踏まえた話し合いの機会が欲しいとはエルフレッドである考えていた。


「まあ、私は二人のせいとは思ってないけどね〜。あの感じ見てると人を陥れることも目的の一つっぽいし〜?ーーとりま、対策云々は解ったけど〜。エルフレッド君は一人で動きたいんじゃないの?」


 頬杖をついたメルトニアの言葉に少し言葉を詰まらせた彼はチラリとリュシカを覗き見てーー。


「一人で動きたいと言うよりは一人で動かざるを得ないといった感じですね。共闘は得意ではないですし周りを巻き込む訳にはいきません。それにSランクの皆様には保険になって貰わないといけませんから」


「保険......ねぇ。残念ながら俺は参加出来ねぇがルシフェルってのはそんなにヤバそうなのか?」


 この手じゃなければと言わんばかりの表情で義手を見詰めたエドガーに「最低でも巨龍最強のアルドゼイレンと同等。もし本来の力が使えるとするならば歴代最強の敵と考えています」とエルフレッドは真剣な表情で答えた。


「ふ〜ん。私からするとあの傲慢なお馬鹿ちゃんが歴代最強とは思えないけどね〜。でも、最後のボスっぽく第二形態〜‼とかあるのかな〜」


 人を見下すが故に失策を続けている姿を思い浮かべるメルトニアに苦笑しながらも「策略家としては今の所、三流でしょうが物理攻撃で言えば自分をも上回るエドガーさんですら鱗を削るので精一杯だったと思えば強さの程も解るでしょう」と答えてーー。


「本来の力が開放されればある意味第二形態でしょうね?最後のボスになったのはアルドゼイレンのせいなので偶々ですけど」


「確かにアルドゼイレンのせいだな。私もそう思うぞ?」


 食後のコーヒーに口をつけていたリュシカはそう言って微笑んだ後ーー。


「その保険とやらは私も戦わせてくれるのだろうな?無論、そんな事態が訪れるならば私も生きては居ないかもしれんが、エルフレッド。どうも、其方の表情や話を聞いていると妙な胸騒ぎがするのだ」


 エルフレッドは完全に言葉を失った。推測から神の目的を何となく理解した彼は個人感情を抜きにした時、最低でもリュシカは生かす必要があると考えたからだ。何も言い出せずに唸り声を上げている彼に「都合が悪くなった時にだんまりを決め込むのは男らしくないとは思わないか?」と彼女は笑う。あからさまに雰囲気が悪くなってきた様子に周りは空気を装い始めた。


「......そういう事態にはならないように生きて帰ってくるつもりだ。あくまでも個人感情を抜きにした最悪の可能性を話している前提で言うならばリュシカを戦わせる気はない。寧ろ、神にとっては他の大半の人類が死に絶えたとして守らなくてはならない存在だろう」


「ほう?其方が死に他のSランクが戦っているというのに私には生きろと言うのか?ふふふ、其方は面白い事を言うなぁ。ルシフェルを倒して後を追う事さえ許さないと?エルフレッド、其方は私に何をさせる気なのだ?」


 そして、訊ねるように言いながらもリュシカはエルフレッドの考えが解っている。だから怒っていて、このような言い方をするのだ。具体的に後を追う事さえ許さないのか?と問う辺り、確信犯だと言わざるを得なかった。


「......今のは俺が悪かった。前から言っているが俺とて死にたい訳ではない。それに保険などは俺が万が一死んだ後の話だ。好きにしてくれれば良い。ただ、創世神とやらは最悪それ望んでいることは頭に入れていてくれ」


 直接そういう話を聞いた訳ではないが、ここまでくればユーネ=マリア神が何を望んでいるのか解らないはずもない。そして、最悪、その目論見が外れてしまってもリュシカが生きていれば、早い段階での軌道修正が可能である。


 それが人類にとって良い結果を齎す布石だとするならば想定くらいはーーと考えていたが彼女に受け入れる気持ちなどある訳がない。


「では頭に入れた上で言わせてもらうが、ユーネ=マリア様がどう思おうが私はそなた以外と生涯を共にする気は一切ないと言っておこう。目論見など知ったことか!」


 取り繕うのさえやめて感情的な部分を見せながら言い放った彼女はエルフレッドに詰め寄るように顔を近付けると、焼き付けるように彼の瞳を見詰めながらーー。


「そんなに悲願を達成させたいなら、もっと良い方法があるぞ?()()()()()()()()()()()()()()()()そなたが責任を取ればいい。私はそれでも構わないが?」


「......本当にすまなかった。リュシカの言う通りだ。やはり、周りに祝福される形にしたいという気持ちは俺とて持っている。馬鹿な事は言わないようにするから落ち着いてくれ」


 怒り、挑発する様な笑みを浮かべながら告げた彼女にエルフレッドは頭を垂れた。


「よっ!あんたが大将!エルフレッドがぐうの音も出ない良い啖呵を見せて貰ったぜ!」


「ねぇ〜!とりま、リュシカちゃんの言う通りだし〜、反省しなよ〜?エルフレッド君〜」


 からかい半分、本気半分の二人にエルフレッドは溜め息を吐きながらーー。


「勿論、今回の件は反省しますよ。人類の為になることだという考えのスケールの大きさに彼女の気持ちを蔑ろにしてしまった訳ですからね。悲願達成の件についても、色々なものを無視するならばリュシカの言っている方法のほうが正しい。何らかの形で改めて誠意を見せるようにします」


「......ふん。解ればいいのだ。解れば。ただ今回のような話に次は無いからな?もし、それでも物申すと言うならば、学生の間に全ての責任を取る覚悟を決めてから言うようにしろ」


 詰め寄るような体勢から自身の席へと座り直した彼女は、機嫌が悪そうに眉根を寄せると胸の辺りで腕を組み、蹴り上げるかの如く乱暴に足を組むと、顔も見たくないと言わんばかりにプイッと顔を逸らし、視線を逸した。


「......ああ、肝に銘じる」


 自身のせいとはいえ、その対応には流石に傷付いたエルフレッドは項垂れたまま溢すように返して、どんよりとしたオーラに包まれるのだった。


「よ、よし!とりあえず、話は一段落だな!エルフレッドが負ける事は早々無いと思うが、ピンチに陥った時の為に偶にSランクで集まって共闘の練習でもするようにしよう!ということでSランク緊急会議終了!今日は解散!」


 集めた自身にも責任があるとそう締め括ったジャノバが手を叩きながら告げた。皆はそれぞれ相槌を打ちながら部屋を出る準備をし始める。


「ほら、エルフレッドも帰るぞ。お互い愚痴りあってだなーー「叔父様。エルフレッドは私と一緒に帰りますから」


 ニコッと笑いながらも全く有無を言わせない雰囲気を漂わせるリュシカにジャノバはコクコクと頷くしかなかった。


「すいません。また今度ーー」


 席を立ち、トボトボとリュシカの隣を歩くエルフレッドの姿を見て、何とも言えない気持ちに包まれていったジャノバだった。

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