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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
終章 偽りの巨龍 編(上)
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 レナトリーチェ王女殿下の誕生日会の次の日、ジャノバよりSランク緊急集会の一報が入った。


 ケガが原因で元となったエドガーや新Sランクのリュシカも呼ばれ、公式文書でも無く単なるメッセージであったことから大したことでも無いだろうと思いながらも、丁度ルシフェルの話を詳しく共有しておきたいと思ったエルフレッドは遮音魔法が掛かったレストランへとリュシカと共に向かった。


「お久しぶりです。ジャノバさん。レナトリーチェ様と何かありましたか?」


 項垂れるジャノバを見て何となく状況を察したエルフレッドが声を掛けると目に隈を作ったジャノバがのっそりと顔を上げた。その隣では「人の金で食べる肉は最高だわ‼」とエドガーが笑い、メルトニアはどうでも良さそうにネイルの色を魔法で変えながら指遊びしている。




「......ヤンデレエンドが確定してしまった」




 余りにもくだらな過ぎて思わず鼻で笑ってしまったエルフレッドを「鼻で笑うのは流石に良くないぞ?エルフレッド」と咎めながらもリュシカの瞳は明らかに冷めていた。


「ギャハハハ‼俺一大事だと思って病院に許可取ったのに‼や、ヤンデレエンドって‼やべぇ‼笑い過ぎて義手の結合部がいってぇ‼」


 バンバンとテーブルを義手で叩いて痛がりながらも大笑いするエドガーの横で「もっし〜、ダーリン。想像以上に下らない話だったから早く帰れそう〜。今日のデートは何処に行こっか〜」とメルトニアは次の予定を立て始めた。


「お、おい⁉お前等は昨日の話を知らないからそんな事が言えるんだっ‼あれだぞ‼転けた侍女に手を貸したら侍女の手をミートハンマーで叩き潰そうとしたんだぞ‼」


 焦った様子でその時の詳細を話すジャノバに「ヤンデレ、ヤバッ‼ってもジャノバのおっさん、それは流石に盛り過ぎだろ‼」と笑うエドガーに頷きながら「本当それ〜。てか、叩き潰すならジャノバさんの手だよね〜」とメルトニアは通話を終えた携帯を弄っている。


「......叔父様。いくら年齢差婚が心配だからって嘘まで吐いて解消しようとするのはいけませんよーー「違う‼違うんだリュシカ‼そうじゃない‼これは本当の話なんだ‼大体何で誰も信じてくれないんだ‼アーニャ殿下も"妾の義妹がそんなことするわけないのミャ。ジャノバ様、嘘はいけませんミャ"とか言い出すし‼」


 あからさまに軽蔑するような視線を送りながら諭すような言葉を言うリュシカに彼は焦った様子で喚いた。


「とはいえ、もうその後の対応が......残念ながらジャノバさんのヤンデレペドエンドは決まってしまった訳でして......もうどうしょうもないので、このままルシフェルの話に移ってもよろしいでしょうか?」


「ヤ、ヤンデレペドエンド......」


 ガックリと項垂れたジャノバを笑っていたエドガーは「そういやあ、ジャノバのおっさんに会ったらあの話聞きたかったんだよ‼ほら、あれだよ!エルフレッド達の担任のーー」と彼は思い出せない様子で額をトントンと叩く。


「エドガー様、担任ですか?私達の担任はアマリエ先生ですが......」


 困惑するような様子でリュシカが言うと彼は「そうそう‼その人だよ‼姫様‼学園でジャノバのおっさんの後輩だった‼」と楽しげに笑った。


「俺の学園時代の後輩?......はあ!?アマリエってエイネンティア公爵令嬢のアマリエか⁉てか、何でその話知ってんだよ‼」


 と大慌てで狼狽え始めたジャノバを見てエルフレッドはポンと手を打ってーー。


「ああ、二者面談の時に聞いたんです。家出のアドバイスは誰が出したのかって問い詰められたのでジャノバさんの名前を出したら、あの御仁はまだそんなこと言ってるのかって言われまして。どういうことか聞いたらーー」


「後輩に手ぇ出しまくった上にアマリエさん?とやらまで軟派した結果、撃退されたんだってな‼いやぁ〜どんなやられ方したか気になって気になってーー「お、おい⁉エドガーお前‼それはここで話す話じゃねぇだろ‼」


「うわぁ〜、最低〜」


「叔父様......」


 女性陣から冷え切った視線を送られ「厄日過ぎる‼今日の俺は厄日過ぎる‼しかも、ここの支払い俺持ちだし‼」と頭を抱えてテーブルにとっ伏した。


「んで、おっさんどうやって撃退されたんだ?股間でも蹴り上げられたのか?」


 わくわくとした表情で楽しげに訊ねるエドガーに「お前は悪魔か?悪魔なのか?」と真顔で問い掛けるジャノバであった。


「とりあえず、愚痴は後で幾らでも聞きますからルシフェルの話に入っても?」


「......ああ、もういい。好きにしてくれ。だが、愚痴は本当に聞いてくれ」


 のそのそと顔を上げたジャノバは哀愁を漂わせながら言った。何処と無く残業帰りのサラリーマンを思わせる様相であった。


「ありがとうございます。それでは早速ですが......まずは事前に説明していた通り、常闇の巨龍ウロボロスという存在は堕天使ルシフェルで間違いないかと。他の七大巨龍と比べるとかなり異質な存在と言っても過言ではありません」


「異質ねぇ。まあ、堕天使ルシフェルっていやぁ確かに有名も有名も有名だろうが......何か問題でもあんのか?」


 食後のコーヒーを啜っていたエドガーが不思議そうに問えば「問題といえば......単純に今までの巨龍より遥かに強く、情報が少ないってことですかね。何らかの制約で本来の力が使えない状態でもアルドゼイレンに匹敵する強さを持っている訳ですから。それに元は天使だった巨龍とは違い、堕ちたとはいえ今も天使な訳ですから異質と言わざるを得ないでしょう」とエルフレッドは肩を竦めた。


「ふ〜ん。まあ、確かにルシフェルって元は熾天使の中でも特別な存在だったとは聞くしね〜。神の隣に居ても尚輝くだっけ〜?」


「そうだ。クレイランドじゃあ創世神様がまだ救世主だった頃の書物に記載されている。明けの明星、光をもたらす者ーー。要は神の力を授かりながらも個であることを許された存在って訳だな」


 以前、少し触れたが天使とは基本的には神の力を司る名を付けられる。特に上位の天使はその傾向が強くなる中で多くの力を与えられた上で名の中に神を表す言葉が一つも入っていない。故に特別であったという見方が出来る。


 自身の国の宗教にも大きく関わる存在である為に多少知識を持っているジャノバが言えば「その心は神のみぞ知るってところだが、そう聞くと贔屓があったのかもしれねぇな?」とエドガーは苦笑した。


「そして、贔屓されていると思っていた矢先、人類が創造されて離反ーー翼をもがれ地に落とされた後に人を謀って奈落の底へ。結果、人を憎むようになり害意を持つようになった。ということでしょうか?」


 デザートのブリュレにつけていたスプーンを止めてリュシカが問えば「......大凡はな。本来の力を発揮すれば最も強いルシフェルが人を憎み、害意を持っている。それは間違いない。ただ、俺がこの場で話したいと思ったのは最も強い悪意にさらされているのが、もっと限定的だと確信したからだ」と答えたエルフレッドは皆に視線をくれてーー。




「人類に対する悪意は間違いなくありますが最も邪魔だと思われているのはーー俺とリュシカです。ハッキリと理由はわかりませんがユーネ=マリア様の望む悲願の要で有り、その悲願はルシフェルにとって最も阻止したいことのようです。なので、その対策を話し合いたいと思っています」

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