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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
終章 偽りの巨龍 編(上)
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「女子会画像あるけど見たらビビるよ?」


 と携帯端末を弄ったノノワールは画像を見付けるとミレイユに差し出した。


「......こりゃあ、とんでもないねぇ。というか、世の大半の男が、この中の誰かと付き合えるってなったら飛び付くレベルだと思うがねぇ。んでもって、それは()()()()って言われるんだろうけど......」


 世の男だったら仕方ない。じゃあ、Lだったら?ーーと経験上良く言われないのは解っているミレイユである。


「でしょ〜‼でさぁ、皆、対象にされるのは無理って前置きはつくけど、LGBTに偏見無しの良い子達ばっかなのよ〜。しかも、抑えが効かなくなって、ついついセクハラっぽくなってもやり過ぎなければ許してくれるし〜?そりゃあ、惚れちまうと思わない?元より惚れやすいタイプなのに〜」


「そりゃあ、天国でもあり地獄でもあるって感じだねぇ。理解出来るよ」


「でしょでしょ〜♪まっ、それも今後はあんまり悩まなくて良くなりそうだけど〜♪」


「ーー嬉しいこと言ってくれるじゃないか」


 期待するような甘い視線と仄かに熱をもった視線が絡みあった。アルコールが入っている事もあって身体にも多分な熱が籠もっているのである。


 ノノワールは流されそうだ、と思いながらもグッとその熱を抑えて微笑むと「でもね、私と一緒に居るってことはミレイユさんも巻き込まれる覚悟をもって貰わないといけからね〜」と視線を逸した。


「巻き込まれる覚悟......かい?随分物騒な言葉だねぇ」


 雰囲気があったせいか少々焦れたような表情で言葉を返したミレイユに彼女は影のある笑みを浮かべながらーー。




「私は私のこと理解してくれなかった両親に復讐するつもりだから。そんな娘でも良いなら共に歩いて欲しいなって」













○●○●













 世界政府の島で影を走らせていたルシフェルは一人の男に目をつけた。世界政府内で府長に次ぐ高官の一人で財務のトップに立つ人物であった。


 彼は世界政府という環境に身を置きながらも特に崇高な思想は持ち合わせていないようだった。ただただ、私腹を肥やし、金銀財宝を集める事に精を出していた。そして、野心ばかりが強く、人を見下している傾向にあった。


 例えば彼自身は男爵位の貴族であるが平民ながら世界政府の府長を務めるハーマインのことを裏では部を弁えない愚か者と謗り、似たような選民思想を持つ者達を集めて結託ーー期を狙ってトップに立とうとしていた。


 要は小物だ。特に強い信念を持つ訳でも無ければ何か秀でた物を持つわけでもない。ただ、親から引継いだ良い物だけを使い、それが自分の実力だと思い込んでいる。その上で賄賂などを繰り返し、実力が無いのにも関わらず財務のトップに躍り出た為に付け上がっているのだ。


 そして、助長したことで彼は今危機に扮していた。元々、賄賂などの疑いは掛けられていたが、泳がされていた所を上手くやれていると思い込み、動かぬ証拠を突きつけられたのだ。


「はん‼商人の小倅が私に泥を塗りおって‼今にみておれ‼」


 汚職の責任を問われ、辞職を迫る紙を突きつけられた怒りに自室でそう漏らしたものの何か策があるわけではない。当然、同じ選民思想を持つ者にも半ば切り捨てられている。彼に残された道は辞職の後に今までの汚職や脱税の罪を問われ、独房に送られるくらいしかなかった。


「くそっ‼どいつもこいつも金に群がるだけ群がり寄って‼何が"貴公の罪は貴公で償う外ない"だ‼こうなったら全員道連れにしてくれる‼」


 金の切れ目が縁の切れ目ーーそのような関係を同じ穴のムジナと共にしか築いて来なかった彼にちゃんとした仲間が居るはずもない。そして、その一部はスパイのようなものだ。故に愚かな彼が哀れな末路を送るのは最早必然と言っても過言では無かった。


 ルシフェルとて彼に下す評価は同じだ。無能な愚か者が分不相応な位を得た為に付け上がり破滅した。有能さは皆無。虚栄心ばかりの只のゴミーーそして、運だけを味方にここまで生きてきたつまらない存在である。


 だが、今回に関してはそのくらいの存在の方が都合が良かったのである。短絡的に大問題を起こし、傀儡となるべく存在を影から操って要らなくなったら切り捨てる。そして、ある程度、地盤を固めて掌握すれば世は混乱に導かれるだろう。


 そして、混乱の最中、変質させたレディキラーに神の悲願の元である姫を襲わせ、ジェームズに記事を発刊させる。混乱の最中、世論さえも味方で無くなれば彼等の未来を継続するのは難しくなる。何なら、そこに世界政府の長として新たな無能を据えて、苦言を呈するのもいいだろう。追い打ちは無限にあった方がよく、そして、無限にあった方が甘美だ。


 創世神の悲願は絶たれ、人の世は荒れ、人々は新たな救世を求めるようになるだろう。そうなれば創世神とて姿を現さざるを得なくなる。それがルシフェルの望む未来であった。


"貴公はそのまま独房入りを望むのか?仲間に裏切られ力を奪われた尊き者よ"


 何時ものように頭の中に直接声を掛けながらも言い回しはとても敬愛に満ちていた。


「な、何だ⁉だ、誰だ⁉私に語り掛ける者は⁉」


 小物であり、小心者である彼が辺りを見回しながら声を荒げる。その様は滑稽であり、愚かしくもあったがルシフェルは続けた。


"元来、人の王と成るべき貴公が有るべきを失い。神は悲しんでおられる。正しき未来へと導く為、私が送られたのだ。貴公に正しき道を歩む覚悟はあるか?"


 当然、そんな未来が訪れる筈も無い。しかし、人の王という響きは彼にとって非常に魅力的な言葉だったのだろう。「私が人の王になるのが正しき未来......」そう呟いて幾秒も無い内に直様、その気になってしまった。


「やはり、そうだ‼私こそ人の王に素晴らしい存在だったのだ‼なのに奴等と来たら、このような狼藉を働きおって......正しき未来を進む覚悟はあるぞ‼神の遣いよ‼」


 ルシフェルは嘲笑を浮かべた。余りにも愚かで余りにも御し易い。これ程までに使えぬ存在が、この地位にいるとはやはり人族は愚かな存在だと彼の心も満たされるのである。


"ならば、貴公の名を告げよ。そして、契約はなされる。相応しき力を持って世を正す力を貴公に授けん"


 男は一切の迷いも無く「私の名はブランドン‼ブランドン=タリネウス‼人の王になるべき者だ‼」と高々に告げた。


"ブランドン=タリネウス。確かにその名は刻まれた。契約の元、力を授けん"


 瞬間、ブランドンの変質が始まった。元来、苦痛と否定によって変えられていくそれは絶望の戯曲なのだが、ブランドンは愉悦の表情と共に受け入れた。意外にも、その素質はあったようだった。


「おお‼力がーー力が漲ってくるぞ‼愚か者を制裁し、人の王となる為の力がーー」


 闇の魔力に侵食されながらも悦びの声を上げるブランドンを見詰めながら、思わぬ収穫があったとルシフェルはほくそ笑んだ。


「偽りの王よ。知なき愚か者よ。精々、その身に合わぬ高々とした夢を見続けるが良い」


 ブランドンのそんな姿を眺めながら、ルシフェルは下らない幻想に取り込まれていく憐れな存在の姿を見下し続け、笑い続けるのだった。

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