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「あ、ああ、ま、まさかノノワールちゃんが来るなんてーーか、髪の毛とか大丈夫だったかしら......あっ、握手‼握手して貰っても大丈夫かい?」
「もちのろんで〜す♪あ、というか出血大サービスでハグしちゃいま〜す♪ハグ〜♪」
「......オイ」
飛び込むようにしてギュッと抱き付きにいったノノワールを冷めた目で見ながらエルフレッドがツッコんだ。それを完全に無視しながら「やべぇ、大人の色気ムンムンじゃねぇか。堪んねぇ!ムンムンムラムラ♪」と聞くに堪えない言葉を呟きながら鼻血を滴らせている彼女に「ノノ。お前が出血してどうするんだ?」とリュシカもツッコミを入れるのだった。
「キャッハー‼予想以上にマジカオス‼ヤバ過ぎるっしょ‼」
席に着くなり、現状を受け入れ爆笑し始めたエキドナ。呼鈴を鳴らして「麦酒を人数分お願いします」と色々諦めたエルフレッド。
そんな彼等に気付かぬ程、腕の中に居るノノワールを例えるならば大切な人形を抱き締める少女の如く抱き締めた彼女は真顔でエルフレッドを見ながらーー。
「......テイクアウトで」
「どうぞどうぞ。もうミレイユさんの好きにしてやって下さい。そいつもそうなったら本望でしょう」
「ちょ‼エルちん雑っ‼面倒くささ全開で雑っ‼」
いつも通り証拠隠滅の浄化魔法を掛けながらノノワールが笑った。どんどんと運ばれてくる料理へと箸をつけながら「それは仕方ないだろ?正直、ミレイユさんの対応に安心して気が抜けてしまった」と何とも言えない表情を浮かべながら肩を竦めた。
「おや?英雄様には私の対応は意外だったようだねぇ?」
「これが素ですからね。友人目線で見るとTVのノノワールは最早別人ですから正直幻滅するんじゃないかと......」
子供を股の間に座らせるような体勢でノノワールを死守しながら愉快そうに笑うミレイユにエルフレッドは苦笑する。
「最早別人って‼」と笑った後に麦酒を煽り「うんまっ‼やっぱ最初の一杯は麦酒だろ〜♪」とおっさん感満々でご満悦な表情を浮かべるノノワールはやはりTVとは別人としか言いようがない。
というかTVの料理番組で「バーンシュルツ領の特産品であるトート牛のフィレステーキにはクレイランド産の濃厚で辛口の赤ワインが非常に合いますね」とハンカチーフで口元を綺麗に拭いた後に微笑を浮かべながら言っていたのは何処のどいつだったけかーーだ。
「確かにここまで違うとは思わなかったけどねぇ。私だってTVのまんまで来るなんて幻想は抱いていないさ。それにここまでくると逆に緊張しなくて良いかなってねぇ」
確かに腕の中に収まって麦酒を煽る姿に緊張する要素は皆無だろう。
「確かにそういう考え方ならありかも知れませんね」
そう言って追加の一杯を頼み微笑んだエルフレッドに「逆にTVのまんまだったらガチガチに緊張してただろうさ」と麦酒を煽って笑うミレイユだった。
「キャッハー‼まさかリュシカ様が麦酒イケる口だとは思わなかったじゃん‼苦味とか炭酸駄目とか結構いるし‼」
「ふふふ、エルフレッドが冒険者時代に行っていた店などに両親には内緒で連れて行ってもらってますから麦酒は全く問題ありませんわ」
「たっはー‼それ悪いこと教えてるってヤツじゃん‼エルフレッド‼悪い男じゃん‼」
「ふふふ、本当に悪い人ですわ!」
楽しげに笑っている二人にからかいの的にされた彼は「楽しげなところ悪いですけど、一応エキドナさんの為に一肌脱いでるってことは忘れないで下さいね?」とにこやかな笑みながら釘を刺すことは忘れないエルフレッドであった。
「ミレイユさん‼今日はごちっしたー‼こうなったら御礼とか気にせず割り勘で良かったんですけど‼何か申し訳ないし‼」
当初の予定と人数も内容も大きく変わり、流石に奢って貰おうとは思ってもいなかったエキドナだったが「友達の友達かもしれないけどノノワールちゃんに会わせてくれたしねぇ。その御礼とでも思ってくれたら良いさ」と気持ち良く払ってみせた。
「何かすいません。自分やリュシカの分まで出してもらって......」
「私も申し訳無く思います。突然割って入ってしまったようなものですのに......」
二人揃って申し訳なさそうにしているのは勿論奢ってもらったこともあるが、エキドナに相談を受けたとはいえ邪魔をするような行動を取ったことに負い目を感じているからだ。
せめて支払くらいは、と財布に手を伸ばしたところを「ここは最年長の私に任せなよ‼良い夢見せてもらってるしね!」とミレイユに阻止されてしまったのである。
そうまで言われては、いやいや、ここは私がーーとはとてもじゃないが言えない二人である。多少の罪悪感を感じながらも大人しく引き下がるのが正解に思えた。
エルフレッド達は勤務を終えたウエイトレスとの待ち合わせの為に先に席を立った。エキドナも頃合いを見て席を後にした。それを見送った後、二人になったところでノノワールはミレイユに深くしなだれ掛かると甘えるような声で訊ねた。
「ねぇ、ミレイユさん。ぶっちゃけエッキーのこと、どう思ってたの?」
「うん?エキドナかい?......こんなに良い雰囲気なのに別の娘の話が必要?」
強い熱の籠った艶やかな視線で見詰められ「大人の色気ってやべぇ〜」と鼻を押さえたノノワールは回復魔法を唱えながらーー。
「いやぁさ、ちょっと興味本位って言うか〜♪もし、似たような考えなら色々ガチトークしたいし〜♪こういう性別の話って中々愚痴れないからさ〜」
ミレイユは少し考える素振りを見せた後に「初めからノノワールちゃんと会えるって解ってたら、こうは思わなかったんだろうけど......」と頬杖を付いてーー。
「正直、ワンチャン狙ってたよ。私のことを知らなかったとはいえ、私の経験上、ああいう同性に対するボディタッチが多い娘ってノンケでもこっち側に引き込める可能性大だしねぇ。メイクはあれだけど実際見た目も良いし、生理的に無理じゃないなら狙ってみるもんだろう?」
それを聞いたノノワールはニコッと笑うと大きく何度も頷いてーー。
「だよね〜♪というか、世間はLとかGとかに厳しい過ぎんのよ〜!何かさ、女の子だったら誰でも良いのか‼みたいな?私達だってちゃんと選んでるっつうの‼でさ、何かと本当に好きなのかみたいに言うじゃん?じゃあ、仮に私がリューちゃんの事が本当に好きだったとして、相手からしたら絶対無理な訳よ?そしたら私は永遠に恋愛しちゃいけないのかって話でしょ〜」
不満気な表情で告げる彼女にミレイユは優しく微笑みながら「本当そうさ。元からチャンスが少ないのにねぇ。大体、その考えで言うなら性別に問題がないお前等は皆、ちゃんと運命の人と付き合って結婚したのかって話だろう?私達よりも遥かにチャンスがあって吟味出来てるわけだしねぇ」
麦酒を飲み干し「本当それ‼少なくとも可能性感じて声掛けることくらい許して欲しいわ〜‼ーーもう一杯〜‼」とピッチを上げるノノワールに「愚痴は良いけど飲み過ぎないようにしなよ?」とミレイユは苦笑する。
「にしてもリューちゃんってリュシカ嬢だろ?やけに具体的な名前出てきたけど、もしや、狙ってたんじゃないだろうね?」
ニヤニヤと笑いながら頬を指先でプルプルと撫でるミレイユに「や〜ん♪楽しくなっちゃう〜♪」と頬を赤らめてーー。
「リューちゃんは流石に無いかな〜。いや、アッチから来てくれたら、もう家から出さないくらいウエルカムだけど、もう全てが天元突破し過ぎて、あ、萌え豚ですいませんってなっちゃうし。いや、実はさ、他クラの生徒の嫉妬もあるんだろうけど結構周りから言われてんのよ。勘違いすんな?みたいな。寧ろ、私は属性集まり過ぎ、惚れまくり過ぎを我慢しながら、どうにか友人関係続けている仙人モード状態なのに......」
溜息を吐きながらやれやれと首を振るノノワールに「ノノワールちゃんレベルで惚れまくりって、周りはそんなにレベル高いのかい?」とミレイユは眉を顰めた。




