2
ノノワールの事を思い浮かべながら告げるリュシカに「ま、姫様が言うことも一理あるから仕方ねぇよ。俺も仮にエルフレッドに迫られたら身の危険を感じるしな?」と笑うエドガー。
エルフレッドはあからさまに顔を顰めながら「例え話でも気持ちが悪くなるので勘弁して下さい」と呻くように言った。
「ギャハハ‼わりぃわりぃ‼まっ、そういうことで心配はねぇんだが、俺としてはミレイユのワンチャンあるを潰しちまう訳だから正直微妙な気持ちな訳よ?この世は不思議なもんでノンケだから可能性が零って訳でもないだろう?」
その言葉には二人も頷かざるを得ない。初めの印象がどうであれ、最終的には付き合っていたというのは全くもって零ではない。今回については最初にエキドナに相談を受けたから、こういう形になってしまったが阻止したと言われてしまえばそれまでだ。
少し気まずそうな表情になった二人を見てエドガーは再度楽しげに笑うと「だから、代わりをプレゼントしてやって欲しいんだ。サプライズゲスト的な?そしたらエキドナちゃんとやらも安心だしミレイユもワンチャンなんて忘れちまうさ」と言った。
サプライズゲスト?とも思ったが、少し考えれば誰の事かなど一目瞭然だ。しかし、二人は微妙な顔になる。TVの顔を見て大ファンだと仮定すると実物が余りにもギャップがあり過ぎるからだ。
「んあ?なんだ?やっぱ友人でも呼ぶのは厳しいのか?」
二人の表情から不安気に訪ねるエドガーに本日、何度顔を見合わせた事かと思いながら顔を合わせる二人ーー。
「いや、会わせることは全く問題ないと思いますし、寧ろ喜んで飛んでくると思うのですが......」
苦笑しながら告げるエルフレッドにエドガーは不思議そうに首を傾げるのだった。
○●○●
「棚からぼた餅〜♪誰得〜♪私得〜‼ノノ得でぇ〜い‼いえ〜い‼エルちん‼リューちゃん‼マジ最高‼私の好みのタイプ紹介してくれるなんて〜‼やっぱり持つべきは親友カッポ〜‼ヒュ〜‼ぱふぱふ〜‼」
クルクルと回りながらテンション爆上げで大喜びしているノノワールを見てエキドナは目が点になっている。見てられんと目元を押えるリュシカと頭痛がすると額を押さえる二人に「はいはい〜♪ハイタッチ〜‼も一つおまけにハイタッチ〜‼」と絡んでいく様を見ながらエキドナはポツリと呟いた。
「うへぇ......TVの姿がマジ詐欺過ぎるっしょ......」
「エキドナさん。残念ながらノノはこれが本来の姿なのです」
何処か申し訳なさそうに告げるリュシカの横で「あのなぁ、ノノワール。ミレイユさんはTVのお前のファンなんだぞ?少しは取り繕ったらどうだ?」とエルフレッドは苦言を呈した。
「ファン〜?関係ナッシング〜♪愛してもらうなら本来の私じゃなきゃあ〜意味ナッシング〜♪でしょ♪エルちん〜‼」
言ってることはまともなのだが如何せんギャップが激し過ぎる。
「キャッハー......私、別の意味で心配になってきたんですけど......」
「......何か申し訳ありません......」
乾いた笑みを浮かべるエキドナに対してエルフレッドは力無く頭を垂れた。
「因みにノノ。ミレイユさんは十くらい年上らしいが大丈夫なのか?」
一応といった様子で訊ねたリュシカに「全然問題ナッシングだよ〜♪リューちゃん〜♪ていうか〜、付き合うなら〜、やっぱり年上だよね〜♪」と満面の笑みを浮かべたノノワール。
言ってることは意外と普通なのだが何だかな......な彼女である。
待ち合わせ場所、ディナー共にエドガーの言うあーちゃんなるウエイトレスが働いている酒場だ。
エキドナが『友人がミレイユさんのガチファンなんで連れて行っても良いですか?』とメッセージを送ったところ、少し残念そうにしながらも大丈夫とのことだったので、このメンバーで向かうことにしたのだった。
因みにこの酒場にした理由としてはエドガー曰く融通を利かせてくれると言ってたからだが「何か見舞いに来てたのが本当にエルフレッドなのか不安そうだったから、ついでに本当だって言っててくれよ‼」と割と必死に頼む彼を見て、それが目的だろうなと苦笑した。
カランカランと入店を知らせるベルの音共に四人は酒場へと入った。
「いらっしゃいませ〜‼あ、予約のお客様ですね〜‼こちらにどうぞ〜‼」
ニコニコと愛嬌のある笑顔を見せながら麦酒を運んでいたウエイトレスが小ぢんまりとした個室へと彼等を案内する。以前、セクハラを上手く対処していたのを見てチップを弾んだウエイトレスだと思い出して、エドガーの言うあーちゃんなるウエイトレスが彼女だということを悟った。
去り際に「お久しぶりです!英雄様!後でエドガー様のことを教えて下さいね!」と微笑むのに頷きながらエルフレッド達は個室のドアを開けーー。
「どもども~♪綺麗カッコイイ系のお姉さんが居ると伺って馳せ参じました〜♪ノノワール=クーナシア=アルキッドで〜す♪うっひゃああ‼貴女がミレイユさん⁉超良い感じ‼最高の助‼ひゃっほーい‼」
「......えっ?」
「なあ、エルフレッド。私、凄く帰りたくなって来たんだが......」
「奇遇だな。俺も帰りたくなって来た」
ドアが開くなり正に猪突猛進の勢いで部屋の中へと突撃していったノノワールと困惑するようなミレイユの声を聞いて、二人は真顔で呟いた。
「たっはー。私もマジ中に入りたくない系じゃん......ヤバみが強いっしょ......」
友人を連れて来ると言った手前、帰るという選択肢を選ぶことが出来ないエキドナもカラカラと笑いながら言うのだった。
「......えっ?」
ノノワールがオウム返しの如くそう漏らしたのを聞いて、三人は意を決したように中へと入った。冒険者が愛用する酒場の個室にしては小綺麗にしてあり、お洒落な間接照明が良い雰囲気を醸し出している空間にて、桃色のロングの髪が良く似合う美しい女性とテンションの数値が振り切った状態で個室へと入っていったノノワールが見つめ合いながら固まっていた。
「......どうも、エキドナさんの友人のエルフレッドです。エドガーさんからノノワールのファンだと聞いて連れてきました......一応、サプライズです......はい......」
お前が勇者か、と言わんばかりの表情でエルフレッドのことを見詰めるリュシカとエキドナ。困惑したミレイユの視線が一瞬、エルフレッドの方を彷徨い、ノノワールへと戻った。
その後、彼女は自身の頬を抓ると「......いひゃい」と呟き、ノノワールを指差してーー。
「......本物?」
ノノワールはその言葉に満面の笑みを浮かべてーー。
「は〜い♪TVと違い過ぎて偶に友人にも疑われますけど〜♪マジ、ホンマ、ガチのノノワール=クーナシア=アルキッドで〜す♪ミレイユお姉さん♪宜しくにゃん♪」
顔の横辺りであざとくにゃんにゃん♪としながら言う彼女に後ろに立つ三人は世界が終わった......と言わんばかりの表情を浮かべながら額を押さえるのだった。
「......あ、えっ?あ、本物?あ、嘘っ⁉本物かい⁉本物のノノワールちゃん⁉うわああーー」
動き出した時間ーー、混乱に次ぐ混乱で百面相となっているミレイユを見て、何とかなったかもしれない、と心を等しくした三人だった。




