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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
終章 偽りの巨龍 編(上)
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1

 ギルドとSWDの捜査によって堕天使ルシフェルの居場所を突き詰めたが、既に蛻の殻となっていた。とはいえ、ルシフェル本体が残したと思われる痕跡があれば探す事はそうそう難しくないだろうと考えたエルフレッドは討伐に向けて本格的に動き始めた。学園は夏休みを迎えた頃ーー学生生活も残り半分といったところである。

 ウロボロス改め、堕天使ルシフェルは戦った人族の屈辱に次ぐ屈辱にて我慢が効かなくなっていた。派手に事を起して失敗してきた過去を考え抑えて来た欲求が湧き上がり、人族の世界をめちゃくちゃにしたいとそう願うようになっていたのだ。


 そして、そうするとするならば何処を混乱に導けば最も効率が良いのかと考えた時、一つの案が思い浮かんだ。


「死の滝で事を起こした時に人族共が作った組織があったな......世界政府と言ったか?」


 神に選ばれし聖女と呼ばれる忌々しい存在が作った中立機関ーー今では一つの島を丸ごと国のようにしながら世界各国に向けた取り決めを定めている。そこを襲撃して混乱に導けば人族共はきっと甘美な悲鳴を与えてくれるに違いないと考えた。


 となれば、レディキラー、記者ジェームスだけでは手駒が足りない。世界政府に属する者で邪な考えに冒された存在を確保する必要があった。


 ルシフェルは早速、分霊である蛇を世界政府へと向かわせた。巨龍の思い描く混乱の未来はこうして始まりを告げたのだった。













○●○●













「クレイランド振りですね。エキドナさん。宣言通り彼女同席で申し訳ありません」


 夏休みが始まって直ぐの話しである。今まで連絡を取ることがほぼなかったエキドナから、突然、相談を聞いてほしいと連絡があったのでリュシカに連絡したところ『可能なら着いていきたい』とのことだったので確認を入れた。


 すると、寧ろ居た方が助かるかもしれない、と何やらな返信が来たことに首を傾げながらも了承が得られたので、こうしてリュシカ同伴で相談場所であるアイゼンシュタット第三層のプライベートカフェに訪れたエルフレッドである。


「キャッハー‼今日は来てくれてマジありがとう‼リュシカ様もゴメンね‼クレイランド以来なのに‼」


 ここは私の奢りだから、と満面の笑みを浮べているエキドナに顔を見合わせながらもリュシカはカーテシーをしてーー。


「エキドナさん、お久しぶりです。今日は無理を言ってしまって申し訳ありません。その代わり、出来る限り力になりたいと思いますので宜しくお願い致します」


 フワリと華が咲いたように笑ったリュシカに「たっはー。本当の御令嬢の笑顔はやっぱり別格だわ〜」とエキドナは思わずと言った様子で呟くのだった。


 向い合せで席に座り、それぞれ飲み物を頼んで近況報告を含めた雑談をしていた三人はオーダーが届いたのを頃合いに本題へと入ることにした。


「それでエキドナさん。相談とは?」


 アイスコーヒーに口をつけたエルフレッドが切り出すと彼女はいそいそと携帯端末を触って「まずはこれを見て欲しいんだけど......」とテーブルの真ん中に携帯端末を置いた。


「携帯端末を触るのは気が引けますが......それでは失礼しますね?」


 困惑しながらも携帯端末を手に取ったリュシカに「どうぞどうぞ‼まず見てもらって判断してもらわないと相談にならないし‼」と彼女は飲み物に口をつけた。


 そこにはミレイユさん(ガチ)と表示名がされたアイコンからのメッセージでーー。


『この前は慰めてくれてありがとう。御礼がしたいからご飯でも行かないかい?』


 とのメッセージが届いていた。


『良いですね!時間合わせて行きましょ〜♪』


 と返信をしているエキドナの状況を見るにいたって普通のやり取りに見えるのだが、リュシカが「普通......ですね?」と首を傾げる横でエルフレッドが「なるほど。そういうことですか......」と難しい表情を浮かべるのだった。


「どういうことだ?エルフレッド?」


 一人納得するような態度を見せる彼を不思議そうに見詰めているリュシカ。彼は「うーん、何と言ったら適当なのか......一応、エキドナさんに確認ですけど、このミレイユさんというのはSWD副隊長のミレイユさんですか?」と尋ねる。


「そう。SWD副隊長のミレイユさん。もう隊長になるかもしれないガチのミレイユさん」


 と答えた。


 エルフレッドは「このメッセージだけでは何とも言えませんね......別にただ本当に御礼したいだけかもしれませんし.....」と答えに窮した後にーー。


「いやな、リュシカ。このミレイユさんは男性嫌いで有名でな。まあ、そういうことだ」


「男性嫌い......もしや、ノノと一緒ってことか?」


「広域的にはな。ただ、どんな人かは知らないし、ノノワールは極端だから参考にならんしな」


 本人が惚れやすいと言ってるだけあってガンガン向かっていく感じがあるノノワールはかなり特殊な部類だとエルフレッドは認識している。ミレイユが果たしてそういうタイプなのかどうかが解らない以上、メッセージだけでは判断が難しい。


「確かにノノはこう開けっぴろげ過ぎる気はあるな......エキドナさんは何か不安を感じるようなことがありましたか?」


「あはは〜、正直メッセージしてた時はそうでもなかったんだけど......ちょっと慰め方間違ったていうか......その時の熱っぽい視線を思い出すと......その私が悪いとは思ってるんだけど......」


 気まずそうにかつ言いづらそうにしているエキドナにエルフレッドは溜息を漏らしながらーー。


「ーー正直、身の危険を感じてしまったと?」


「......はい......真に勝手ながら......」


 ショボーンと肩を落とすエキドナに「とはいえ、今更断るのもって話ですしね......」とエルフレッドは腕を組みながら唸り声を上げるのだった。


「話は大体理解いたしました。ーーエルフレッド。とりあえず、どうしようか?流石に情報が少な過ぎるし、疑って掛かるのは失礼にも程があるぞ?」


 話を聞いた上で判断しかねる、と言わんばかりの表情をしているリュシカに彼は暫く思考してーー。


「今の時点では俺も同意見だが......まあ、今の話をより詳しい人物に話して相談を仰いでみます」


 長期療養中の元隊長を思い浮かべながら告げるエルフレッドに「マジごめん......よろしくお願いします.....,」と彼女はしょんぼり頭を下げるのだった。




「ーーはは〜ん。なるほど。ミレイユに誘われてねぇ」


 詳しく話を聞いた後に早速見舞がてら相談にエドガーの病室を訪れたエルフレッドとリュシカ。


「エドガーさんはどう思います?」


 確認するようにエルフレッドに対してエドガーはニヤリと口角を上げると楽しげな声で言った。


「ぶっちゃげワンチャンあるくらいには思ってるだろうな。とはいえ別に一、二回会うくらいでどうこうするタイプでもねぇか心配はいらねぇと思うぞ?」


 それを聞いたエルフレッドとリュシカは顔を見合わせた後に安堵の息を吐いてーー。


「それを聞いて安心しましたわ。エドガー様。私達の友人に自身の欲を制御出来ない者が居りますから、少し考え過ぎてしまいました」

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