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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第六章 常闇の巨龍 編(下)
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 自身の考えに自信が無い訳ではない。しかし、余りにも異変が無さ過ぎる。故に彼女は不安を感じてしまう。そして、恩人の命が掛かってる。余裕が無いのも当然だ。


 余りにも普段と違う様子にギルド組の二人が息を飲んでメルトニアを見詰めている。その様子にさえ気づかぬ程に彼女は思考に没頭し、探知に努めていた。


「想定外が有るとすれば何?四次元空間への解釈?......あり得ない......あり得ないけど痕跡ってこんなに綺麗に消えるものなの?残滓も残さず?そんな事ってーー」


 要は四次元とは+時間なのか、はたまた別の辺が増えることなのか、であるがメルトニアは今回の件に関しては時間ではないと考えている。自分達が居る次元と同じ時間を共有している別の空間が存在しているのだと過程した。


 何故かと言われれば常闇の巨龍の伝承に、全てを闇に葬り去ったという記述はあっても時を掛けたという伝承が存在しないからだ。そして、もし時を駆ける事が出来るのならば態々、このような策略を張り巡らせる必要はない。


 彼女はならば範囲を見誤ったかと探索出来る魔力の幅を広げーー。




「ビンゴ〜。やっぱそうだよね〜」




 何時もの調子で笑った。見知った魔力、空間の歪み、座標の特定は済んだ。レーヴァテインの爆発ーー出来上がったクレーターを見て急降下する。


 慟哭するハルバードを手にした女性ーーミレイユを見て、全てを悟ったメルトニアは「二人はあのSWDの娘をお願いね〜。私はとりま、エドガー君救出してくるから〜」と告げた後に座り込む彼女に声を掛けたのだった。




「ーーギルドの方々かい?」


 涙を拭い嗄れた声で対応するミレイユにエキドナが頷いた。空間魔法からハンカチを取り出したコーディが「状況がどうなっているか解りませんので確実とは言えませんが、後はメルトニアさんがどうにかしてくれる筈です。ささ、涙をーー」とそれを手渡した。


「あ、ありがとう。だけど、どうにかするったって隊長はウロボロスの空間に閉じ込められてーー」


 再度瞳を潤ませたミレイユにメルトニアは不敵な笑みを浮かべながらーー。


「ふっふっふ〜!さっきの探索で巨龍の住処の座標はバッチリゲットったから心配しなくていいよ〜。まあ、あんまり良い状況でもなさそうだから、ちゃちゃっと行ってくる〜。命掛けで部下助けてヒーローな感じから、ちゃっかり助かっちゃって、ちょっとダサい恥ずかしい系に変えちゃうんだから〜」


 自身のとんがり帽子をクルクルと指で回した後、彼女は魔法陣を展開ーー。「あ、隊長をお願いします‼」と声を掛けるミレイユに親指を立てながら魔法陣と共に消えていった。


「それにしたってあのエドガーさんがまさか閉じ込められるとは思わなかった」


「コーディはちょっと知ってる系だったけ?」


 落ち着き始めたミレイユを抱き締め、ポンポンとしながらエキドナが言った。


「まあな。一応、現Sランクは全員あったことあるからな。SWDメインになってからは流石に会うこともなくなったけど、あの刀術は視界の端で捉えるのも難しい速さだ。幾ら巨龍と言えど、そう簡単には捉えられないと思ってたんだが......」


「......実際捉えられてなかったさ。だけど、空間をぶち破って出る時に修復が早過ぎたんだ。二人共間に合わないならって私を弾き出してくれたのさ」


 どこか暗い表情で告げるミレイユに「そういう事情だったのか......それは申し訳ないことを言いました。責めるつもりでいった訳ではありません」と何処と無く罰が悪そうな表情で告げるコーディに彼女は首を横に振りーー。


「本来なら責めて欲しいくらいの気分さ。それに貴方は色々気遣って適切な距離を取ってくれている。そういう意味じゃ、信頼出来ると思っているからねぇ」


 彼は「SWDの副隊長といえば有名な話です。もっと極端に話せない感じだったらとは心配していたましたが、そこまでじゃなくて安心しました」と頭を掻きながら微笑んだ。


「うん?何の話?私無しで通じ合っちゃってる系な雰囲気はやめて欲しいんだけど?」


 ポンポンとしながらもどこか不満げな表情で告げるエキドナに「お前、知らないでそんな感じで慰めてたのか?」と苦笑した。


「ミレイユ副隊長といやぁ、極度の男性嫌いで有名じゃなねぇか。当然、好きな対象は女の子だろ?」


「......えっ?」


 ポンポンとしていた手を止めてエキドナはミレイユの方へと振り返った。ロングの髪が似合う見目美しいお姉さんが悲しげな表情ながら何処か熱のある視線を送っていきているのに気付いて、そのまま凍り付いた彼女だった。













○●○●













 長年共に戦った友の驚愕するような表情を見送りながらエドガーは落下していく。残り滓のような魔力ーー再度逃げる術はもう無いだろう。後悔が無いかと言われれば、そんなかっこいい事は言えないが友であり部下でもあるミレイユという存在を助ける事が出来た。その一点に関しては自身を褒め称えたいと思った。


 逃げ場の無い空中で鮫型の異形がエドガーの腕を噛もうとする。残り滓の魔力を振り絞り障壁を展開ーー、食い込む前にギリギリで止めたが、それもいつ迄持つだろうか?そう長くは無いだろう。


 そして、次の瞬間、眼前には怒り狂う巨龍の姿が見えた。遊び道具を取られて癇癪を起こす子供の様な表情に見えて笑いが込み上げてきた。相対して解ったが、この巨龍は本当に愚かだ。根底に人間などに出し抜かれる筈がないと見下しきった感情を持っている。故に何度も足を掬われているのだろう。圧倒的な知を持ちながら、それを存分に振るう術を知らない。


 初めから慎重に対応し、驕ることも見下すこともしなければ自分達を屠り、別の場所に住処を作ろうとする企みをばらす事もしないで巨龍の計画通りに何もかもが進んだというのに、ただただ傲慢であるが故に失敗したのだ。確かに自分は助からないだろうが、こちらは最低限の任務を達成出来た。相手は目論見が露呈して作戦を練り直す羽目になっている。


 ウロボロスと目があった。血走った瞳がこちらをどうやって殺せばこの怒りは少しでも晴れるだろうか、と言わんばかりの怒気を放ちっている。もし、視線だけで殺す事ができる術があるならば、そうしたいと考えているのが見て取れた。だから、エドガーはニヤリと笑いハッキリと解るように言ってやったのだ。




「バーカ」




 瞬間、自身の身体が爆散したのではないかと思う程の衝撃に包まれた。喰いついた異形ごと空間の壁に打ち当たり、骨がひしゃげた。血反吐が飛び、赤のペンキをベタベタに塗った筆で壁を塗ったくるように赤の線を引きながら、地面へと降下して首を垂れた。


 怒りに満ちた巨龍の尾の前では人が張った魔力の障壁などこれ程に無力なものなのかと思い知らされたエドガー。喚き散らす巨龍の声に反応するように襲い来て、自身を喰い殺さんとする異形を前に彼は年若いーーされど自身よりも沢山巨龍と戦ってきた友人の姿を頭に思い浮かべていた。


(アイツ......本当に良くやるよ......尊敬するぜ......マジでーー)


 大剣を担ぎ、風の魔法を巧みに操りながら戦う龍殺しの英雄と呼ばれし男ーーエルフレッド。彼が戦ってきた敵とこうして相対すると理解出来る。やはり、彼の強さはその異常なまでの精神力だ。酒を飲んだ彼は笑いながら「何度も死にかけましたが諦めなければ何とかなりました」と語るが、そんなこと出来る筈がない。


 今、こうして死の淵を彷徨っているエドガーは生きたいという気持ちはあるものの、既に戦いたいという気持ちはポッキリと折れていた。もしエルフレッドだったら、この状態でも回復魔法を唱えるとか、エリクサーを飲むとか、そういった隙を探りながら戦おうとするのだろう。


(アホだな......いい意味でーー)

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