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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第六章 常闇の巨龍 編(下)
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「どうなんでしょうか?さっきの影の口振りを聞いている感じでは小国列島の何処かには居そうな感じではありましたけどね......まあ、あんまり信用出来るような存在でもありませんので、それさえも策略の一つである可能性は否定出来ませんが......」


 転寝を繰り返した結果漸く眠気が取れてきたコーディが難しい表情を浮かべながら言った。人を嘲り謀る事を得意とする正しく邪悪な巨龍のウロボロス。これ程までに信用ならない存在は早々居ないだろう。


「つうか、メルトニア姐さんが癇癪起して情報聞き出す前に倒すのが悪いんしょ?感情の起伏激し過ぎ‼もしかして更ねーー」


 七色の閃光がエキドナを襲う中でコーディは溜め息を吐きながらーー。


「メルトニアさんの本気の魔法なら死ねるって判断したからって挑発するのは辞めなさい。コーディおじさんとの約束だからな?」


 冗談半分、本気半分で告げるのだった。


 長く続く森の終わりが見えてきた頃、三人は休憩の為に日差し避けの帆を張った。季節は夏真っ盛り、太陽はやや傾きはじめたものの西日の頃は特に嫌な暑さを感じるものだ。無論、全く対策をしていないわけではない。メルトニアなどは何だかんだ言いながらも後輩を可愛がっている面もあるので気温などは適宜二十度前後を彷徨うようにしている。しかし、太陽の日差しは別だ。ギラギラと輝き、突き刺すような熱線を届ける昼の顔を魔法で防ぎ切るのは不可能である。


「うへぇ......私の白い柔肌が赤くなってきてる......コーディ〜!得意の水魔法で冷やして冷やして〜!」


 帆の下の日陰で甘える様にしながら駄々を捏ねるエキドナに肩を竦めながら「はいはい。困ったお姫様が居たもんだ。ーー冷え過ぎたら直ぐに言うんだぞ?」と水の魔力を纏わせた。


「たっはー、良い感じ‼さっすがコーディ‼解ってるじゃん‼」


「樹属性には水が相性良いからだろ?おじさん煽てても何も出やしねぇぞ」


 そう言って苦笑するコーディ。エキドナは赤くなってきてると言ったが、やはり、神様に丹念に作られたスーパースペックボディには日焼けの日の字も見えない。単純に日差しを浴び続けて萎えてきた樹属性の特性から水の魔力が欲しくなっただけだろう。そんなことは解っていたが態々口に出すようなことはしない。


 苦労人のコーディはその分だけ気遣いの出来るモテるおじ様でもあった......本人は気付く余裕も無いくらい任務に駆り出されているので知る由もないがーー。


「あ〜だる〜。とりあえず魔力回復薬飲んで〜。一旦あっちと連絡でも取っとこうかな〜」


 定期報告という程でも無いがSWD、ギルドの協同捜索という形を取っている以上、一日一回は連絡を取り合うようにしていた。ギルド側が怪し気な洞窟を見つけたようにSWD側が地面に空いた底無しの洞穴を見つけたことは既に聞いていた。故にメルトニアはウロボロスの影を見て、こっちはハズレだと零したのである。


「そうですね。あちらもSWDの中では最高戦力ですし、早々何かあるとは思えませんが、地面に空いた底無しの洞穴とやらにウロボロスの本体が隠れていないとも言えません。一度、連絡を取ってみるのは有りだと思います」


 胡座をかいて座り休憩に努めながらも銃剣の手入れを欠かさないコーディの横でレジャーシートの上で水の魔力に抱かれ、大の字に寝っ転がっていたエキドナが面倒臭そうに顔だけを上げてーー。


「うへぇ〜コーディ真面目かよ〜。あっちにもSランク居るんだし、何かあったら連絡来るっしょ?私達、冒険者は命は張っても責任は無いんだから抜ける時は抜かないとーー」


 無責任極まりない発言だが、それも事実である。元来、自由を信条とする職業の冒険者は自身に課せられた仕事の中で自身に責任がある部分さえ確りと熟していれば、それ以上の責任を取る必要は無いのだ。何故かと言われれば責任が無い代わりに保証も一切ないからだ。怪我をすれば自身の所属する国が定めた保険で自己負担ーー死ねばギルドの衛生班が()()()に来るまで基本野晒しだ。英雄やSランク等、名が通る者ならば多少違うだろうが大半はそのような扱いである。


 最近ではギルド本部が民間の保険会社と提携を組み、比較的安価な保険を作ったり、ギルド職員は基本冒険者経験のある者のみにするなどして改善を図ろうとしてはいるが、学のない者や変わり者が多い冒険者で定着しているかと言えば微妙だ。


 今回の件で言えばSWDと協力しながらウロボロスを探す、という部分さえ確りと行っておけば、それ以上の仕事をする必要はないのだ。最悪、SWD側が命を落とすような場面に遭遇していたとして()()()()()()()()


「う〜ん。まあ、エドガー君なら大丈夫だと思うけど〜。Sランクの中じゃあ一番速いし〜。でも、私は御飯の恩があるしな〜。とりま連絡だけでもしとこっかな〜」


 とはいえ、個人的な恩を大切にしたがるのも冒険者の性と言えた。保証も何もない完全な自由であるが故に、全てが自身へと降り掛かる冒険者にとって人との縁というのは何にも代え難い宝である。友人が居なければ死んでいた又は、友人が居なかった為に死んでしまった話は食事をする冒険者ならば一回は何処かで聞いたことのある。


 そして、何度か空腹に倒れたメルトニアはエドガー含むSランクに度々お世話になっていた。餓死程苦しく惨めな死に方はない。その恩は彼女にとって特別なものであるに違いなかった。


「......まあ、メルトニア姐さんがそう言うなら......私は文句つけれないし〜?どうせ一日一回は連絡取るんだったら今でも変わらないし......」


 普段は自身の死にたい欲求に負けて、ついついメルトニアに突っかかってしまうエキドナであるが彼女とてメルトニアと共に行動するのは特別な縁があるからこそである。無論、ギルドマスターにも恩があるので命令という形で言われれば断る事はない。


 だが、彼女はAランク上位のコーディを以てして死にたがりが無ければSランクになってると言われる実力者だ。命令に従ったからといって現場の指揮に従うかはあくまでも彼女基準である。


 今では誰よりも死を望む彼女が嘗ては誰よりも生にしがみついていた事をメルトニアは知っている。同じ身の上に創世神への理解をと一冊の本を渡した事が今の彼女を作ったのだ。


 それが一般的に幸せなのかどうかは解らないが、少なくとも彼女は心から幸せそうであった。


「エキドナちゃんのツンデレ〜。可愛さ溢れてギュッてしちゃう〜」


「うへぇ......メルトニア姐さん勘弁っしょ......二十越えてそれはキツイ......」


 顔を顰めながらもされるがままにしている辺り嫌ではないのだろう。そう思ったコーディは微笑ましげに表情を崩すとソロリと二人に近づいてーー。


「コーディ君のエッチ〜。女の子達のイチャイチャに男は要らないんだからね〜?」


 手首のスナップで空間魔法の中に注射器を投げ込んだメルトニアがエキドナを抱き締めながらニヤニヤと笑う。


「キャッハー‼コーディ何してんの‼GL萌えしちゃった‼マジ変態じゃん‼」


 言われない誹謗中傷を受けて嘆息の息を吐いたコーディは額を押さえながら天を仰いだ。




「......イチャイチャに注射器って必要ですかねぇ......つうか、メルトニアさんからばれないように証拠取るのって無理じゃね?......やり方を教えてくれよ。エルフレッドーー」

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