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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第六章 常闇の巨龍 編(下)
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「冷めない内に飲み込んで大火傷しちまいなよ!火龍翔炎!」


 穂先に貯められた炎の魔力が球体となって放たれる。即座に口を閉じ、障壁で防ぎきったウロボロスは反撃と言わんばかりに闇の魔力で作られた球体を作りーー。


「狼犬流抜刀術ーー心狼!」


 恐ろしいまでの速さで突きを放ってくるエドガーに向けて吐き出した。残像三体で胸元を狙うエドガーと闇の魔力の球体がかち合って反発し合う。ガリガリと何かを削るような音を立ててぶつかり合っていたエドガーと球体は相殺し合うような形で力を失った。残像を残しながら後方へと飛び退いて、刀を構え直した彼は巨龍へと向き合いながら再度口角を上げた。


「割と高威力の技を連発しているんだが......鱗一枚ったぁ中々骨が折れる」


 言葉の割にまだまだ余裕があるのは流石Sランク冒険者兼SWD隊長といったところかーー副隊長であるミレイユも今の攻防では全くの無傷だ。


「フハハハハ!この程度、戦いの内にもならんな!早々に食い殺してしまいそうだ!」


 そして、鱗一枚を削られたとはいえ、それだけのダメージしか受けていないウロボロスもまた全くもって余裕だ。嘲笑しながら言い放った言葉は真実なのだろう。この程度の攻防を繰り返すならば二人を始末することなど訳も無いと、この巨龍は心から考えていた。


「はん!そう言ってられるのは今の内だ!こちとら端っから実力差があるのは解ってる!考え無しに突っ込むと思うなよ!」


 再度、雷の魔力を滾らせて残像となって駆けるエドガー。同じ技であるがウロボロスとて駆狼のスピードを視界に捉えられているわけではない。有効だと思われる手は効果が無くなるまでは何度でも使い続けるべきだと彼は考えている。


「そうさ!例え今、この瞬間に勝ち筋が見えてこなくても次の瞬間にはどうなってるかなんて誰にも分かりやしない!勝負は時の運だって人族間じゃあ昔から言われいるからね!そうやって余裕こいて痛い目を見ればいいさ!」


 炎を纏ったハルバードをグルグルと回しながらミレイユが再突撃を仕掛けた。回転速度の速さから炎の車輪のように見えているハルバードを右、左と振り回しながら威力を徐々に高めていく。


「火龍車輪撃!」


 彼女は間合いを詰め切らずに急停止ーー回転運動もそのままに頭上を通してブーメランでも投げるかのようにハルバードを投げた。勢いよく放たれたそれは横回転しながらウロボロスへと襲い掛かる。宣言通り、食い殺さんと大口を広げていた巨龍は一瞬、虚を突かれた様な表情を浮かべたが、面倒臭そうにしながら鼻で笑うと飛んでくるハルバードを尾で弾いた。


 途端に込められた魔力が爆発ーー軌道が変わり離れた場所に突き刺さったハルバードを回収しながらミレイユは巨龍の動向を探った。


「今のは中々に驚いた!まさか自身の得物を投げるとはな!時間を稼ぐと言った割に死に急ぐようだったから、俺も思わず噛み付くのを辞めてしまったぞ!」


 爆発の中から、やはり無傷で姿を現したウロボロスに舌を打ちながら彼女は深々と腰を落とすと突きの構えを見せた。


「死に急ぐつもりは全くないね。ただ死に物狂いってだけさ。私らは少しでも時間を稼ぎたい、ただそれだけーーそこに勝機を見出しているもんでね。上手いもんだろ?」


 嘲笑に挑発を繰り返すウロボロスに告げながら彼女は足に炎の魔力を纏わせる。そして、ハルバードの穂先にはいつも通りの爆発性のある魔力が纏わり付いていた。そんな彼女の構えを見ながら巨龍は「それで炎の魔力を爆発させて突貫でもする気か?ますます死にたがっているようにしか思えんな!」と闇の魔力を迸らせた。


「さて。どのように料理しようか?そろそろ遊ぶ時間も辞めにしなければならんからなぁ。突貫してきたところを喰い殺す。闇魔法で狙いを狂わせる。尾で払っても良いな......フハハハハ!どれも楽しそうだ!何ならお前が選んでも良いぞ!人族の雌よ!」


「ハッ!優しいねぇ!でも、どれも願い下げだね!それよりも私の技を喰らって突き殺されてくれると有難いんだがね!」


 限界まで滾らせた魔力に地を踏みしめたながらミレイユが笑う。ウロボロスはその様を見ながら「それは出来ぬ相談だ!当たったとて鱗の一枚も剥ぐことは出来まい!」と大笑いするのだった。


「そうかい!その自信が何時迄も続くと良いね!火龍ーー」


 ググッと大地を強く足を突き刺さん勢いで蹴り込んだ彼女を前に巨龍の目が怪しげな色を映した。魔力の高まり、瞳による発動ーーそれは下級闇魔法キャットアイズの発動を表すものだ。どうやらウロボロスは自身が言った選択肢の中から狙いを狂わせる、を選んだようだった。


 瞬間、彼女の瞳にデフォルトされた間抜けな猫の瞳が映し出された。瞬きをして消えていったそれを見ながらミレイユはーー()()()


「狼犬流抜刀術ーー」


 踏み込みまで見せながらも彼女は飛び出すことをしなかった。ハルバードで地面を叩くようにして、その場に留まった彼女の前には残像が三体ーー上下と真ん中にジグザグと並んだエドガーの姿が現れたのだ。




「三狼!」




 巨龍の首、尾、心臓部の辺りを狙ったエドガーが切り払いながら疾走ーー、宙空に漢数字の三を描く様にして切り結んだ。


 ガンガンと硬いものを打つ音を立てながら僅かに鱗を持っていったエドガー。煩わしげな表情のウロボロスが蝿でも払うかのように尾を放った。その攻撃を障壁で受けてふっ飛ばされた彼は勢いのまま後方に宙返りーー地面を引っ掻くようにしながら着地すると「あぶねぇなぁ」と好戦的な笑みを浮かべるのだった。


「隊長!大丈夫かい!」


 心配するような表情で駆け寄ろうとするミレイユを手で制して、立ち上がりながら刀を納めたエドガーは居合いの構えでウロボロスを牽制しーー。


「まさか、高速で動いてる俺にもキャットアイズを掛けてくるとはな。危うく良い一発をもらうとこだった。ーーが、どうにかなるもんだな。ミレイユのフェイントに引っかかってくれたお陰で発動が遅れたんだろうな。助かったぜ」


 一撃で戦闘不能になるような攻撃でもなかったが、それでも巨龍の尾で叩かれれば大きなダメージを受けることは間違いないだろう。キャットアイズの発動が微妙に遅れたことでタイミングがズレた結果、障壁を張る時間が出来、ダメージを最小限に食い止めることが出来た。二人の不意をついた作戦は成功と言ってもいいだろう。


「小癪な真似を......正しく羽虫でも相手にしているような気分だ」


 ダメージは無いながらも鱗を更に削られ、時間稼ぎをも相手の計画通りに進められてはウロボロスとて面白くない。多少、苛立ちを覚えたような表情を浮かべながら更に闇の魔力を高めた巨龍にエドガーは背筋に冷たいものが走るのを感じていた。


(さて、後どのくらい時間を稼げるかねぇ......)


 明らかに先程とは違う様相を醸し出したウロボロスを前にして彼は、不安を振り切るかの如く深呼吸すると刀の柄に手を伸ばし巨龍へと向ける眼光を強めるのだった。













○●○●













 その頃、ウロボロスの影を倒した洞窟から抜け出したギルド組はウロボロスの住処を探すべく探索を続けていた。洞窟を抜けてからというものの鬱蒼と茂る森が続くばかりで闇の魔力を感じる場所どころか、一般的な洞窟さえも見当たらない状況に少々気分が沈下し始めていた。


「本当に何処にも気配を感じないな〜。影は居たけど〜。本当に小国列島にいるのかな〜」


 影の舐めた態度についつい強力な魔法を打ってしまったメルトニアは魔力の急激な減少もあって少しだれているようだった。

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