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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第六章 常闇の巨龍 編(下)
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「英雄様の特Sランクを除けば最年少Sランクとは聞いていたけど、そんなに凄いのかい?まあ、私がSランクになれるかって言えば成れないだろうし、二年でSランクって聞けば凄まじいとは思うけど......あんまり実感が湧かないねぇ」


 そう言いながら首を傾げる彼女に「こりゃまた説明が難しいなぁ」とエドガーは苦笑しながらーー。


「年齢で言えばもっと早く到達出来たかもしれないのが居たんだ。タキオンって元ご令嬢が同期でな。あのまま何も無ければ十四とか五にはSランクだった。本当に凄まじい才能があってな。若い時は嫉妬もしたもんだ。俺は。幾ら冒険者だけに打ち込んでたとはいえ破竹の勢いでランクを上げてった。事戦闘においてはアイツ以上の才能は居ねぇと本気で思ったもんさ」


 昔を懐かしむように目を細めた彼は胸の前で腕を組み顎を触りながら虚空を見詰めた。


「それがこうも簡単に覆されるとはねぇ。タキオンは学園を辞めて十一から冒険者をやってた。依頼をこなし訓練も行いながらで三〜四年でSランク確実って言われてたんだ。それに比べてリュシカ嬢は貴族の令嬢として護身術程度に剣術を学んでいたんだろうが、学園に所属しながら冒険者ギルドに入って僅か二年でSランクだぞ?無論、エルフレッドが師という部分が良かった面は否めねぇがハッキリ言って異常だ。凄まじいなんてレベルじゃねぇよ」


 師が良いというのは大事なことだ。若ければ若い程、才能よりも良い師に恵まれた方が良いとされている。そういう意味では幼少期を剣聖グレミオに教えられ、学園では特務師団元団長アマリエ、そして、エルフレッドに教えられたというのは考えうる中で最高の流れだ。


 だが、彼女の場合、そもそも戦闘一筋という訳ではない。確かに学園にて濃密に打ち込んだ時期もあるが、それさえも学生としての責務を果たしながらである。戦闘一筋である冒険者達からしてみれば片手間の様な時間でSランクを達成してしまった。それを異常と言わざるして何と言うのか、という話だ。


 ミレイユは合点がいった表情をしながらーー。


「そう言われると本当に異常だねぇ。納得したよ。だけど、そんな相手が婚約者ってのは凄いプレッシャーになりそうだ。男のプライドなんてあったもんじゃないだろう?」


 エドガーは頷くと刀の鞘に手をやってーー。


「本人には絶対に言えねぇし失礼を承知の上で言えばな?鑑賞用なら最高だが付き合うのはーーとミレイユ。楽しい話はここまで見てぇだな」


 闇が続いていた。奥深くまで。しかし、終点があることは理解出来た。その重点は赤の二つの点だ。いや、今はその位の大きさにしか見えないが実際はもっと大きいのだろう。刀を握り、臨戦態勢へと入ったエドガー。息を飲みハルバードを構えたミレイユへと告げる。




「残念ながら()()()()()()()。隙を見てずらかるぞ」




 得物を構え隙を探る二人の事を大きな赤の瞳が二つーー粘着性を感じる嫌な視線でジトリ、ジトリと見つめていた。













○●○●













 その日、学園の授業を終えたエルフレッドは自身の得物である大剣ではなく浄魔の剣を振るっていた。サラマンド族の族長が言う通り普段の大剣をメインに使うことを考えれば全く必要はないかもしれない。


 しかし、過去にはルシフェルと戦った際に使われたとされる剣だったのならば何らかの形で使う可能性が出てくるかもしれない。そうなった時に全く使えないと言う状態では話にならないだろうと、こうして合間を見て使ってみているのである。


(思った以上に軽いな......何時もの感覚では振れん)


 数多の武器を試していた頃にオーソドックスな長さの剣を振るっていたこともある。しかし、それももう十年近く前の話だ。しっくりくると大剣を振り始めて以来、全く触った記憶がないそれを今の感覚で振り回せる訳がなかった。


 大剣の重量と比較すれば重さは半分以下だ。もし、大剣を振る感覚で全力で振り下ろせば手首や腕の腱を痛めかねない。共に剣とつく武器ながら剣と大剣は全く違う武器であった。

 

 浄魔の剣の感覚を掴む為に基礎の形で素振りや型を繰り返していたエルフレッドは最近の出来事を思い返し、思考を巡らせていた。


 戻ってきた友人達との時間、婚約者と過ごす日々は掛け替えのないものだ。古くからの友人であるSランク冒険者の人々と話すのは非常に勉強になり、異種族ながら馬が合い共に過ごすことの増えた稲光色の巨龍との時間は中々に有意義である。


 そして、巨龍討伐の際に図らずも助けることになった人々からの協力には非常に有り難いものであった。思い返せばガルブレイオスの討伐から出来た縁であるグレン所長は何度となく大剣の強化を繰り返し行ってくれている。サラマンド族は浄魔の剣は家宝の巻物から情報を教えてくれた。


 自身の住むアードヤード王国は多くの面で融通を利かせてくれている。グランラシア聖国は事ある毎に神託でサポートしてくれており、クレイランド帝国については、そもそもルシフェルの可能性に辿り着いたのは彼等の創世神が救世主次代に行ったとされる偉業を記した旧神話によるものだ。


 ライジングサンについてはビャクリュウ討伐の件もあったが、より個人的な部分でお世話になった部分が多い。無論、アーニャの件など相手側にも思うことは大いにあったのだろうが、友人達と疎遠になっている自分に休暇を与えるべきと進言したのはシラユキ女王陛下だ。そういった配慮に強い感謝を感じているのは言うまでもない。


 多くの人々はエルフレッドが巨龍を討伐して国や民を救ったから協力を得られたと言うだろう。だが、エルフレッドの感覚からすれば七大巨龍の討伐自体は自身の夢であるし、救った分の報酬というのは金銭や名誉という形で貰っている。


 それでも尚、恩義を感じて協力してくれようとする姿勢には感謝の言葉すら浮かばない。深い恩を感じて然るべきなのであった。


 そして、元来ならば立場上、戦場に向かわされても仕方が無い自分の代わりにギルドと世界政府が動き、常闇の巨龍と偽る怨敵ルシフェルの捜索に当たってくれているのだ。無論、学生であることや様々な事情を考慮してのことだろうが有り難い限りだ。


 少しずつだが慣れてきている感覚がしてきた。元より腕を持っていかれたり転けたりすることはないのだが、自身の感覚上での扱いづらさは少なからず感じていた。


 傍目から見て解るものではないが振り抜けない感覚、そして、操りきれていない感覚が常に付き纏う状態では、とてもじゃないが扱いきれているとは言えない。


「さて、今日はこれくらいにしておくか......」


 何時の間にか完全に暮れてしまった空に薄っすらと輝く星々を見つけてエルフレッドは呟いた。最初に言った通りあくまでもメインの武器は大剣なのだ。余りに剣の感覚が染み付きすぎても困る。


 ゆっくりゆっくりと慣らしていってサブウェポンとして使えるようになればそれで良いのだ。

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