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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第六章 常闇の巨龍 編(下)
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「いよっと‼到着だ‼奈落の底まで落ちるかと思ったぜ‼」


「結構落ちて来たからねぇ......しかも上も下も真っ暗で何も見えやしない」


 底の見えない洞穴に其々魔法の力でゆっくりと降りてきた二人だったが、空間が別空間に繋がっているだけで底が無い訳ではなかった。最悪、ある程度落ちても底がなければ上に戻る事も考え始めていただけに探索が続行出来るだけ僥倖といえた。


 昨日とは打って変わって魔物の一匹も出て来ることは無かった。上下左右真っ暗だが洞窟状で壁が有り、平坦な一本道が続いている。そして、姑息な手を使うと聞いていた割には罠の一つも有りはしない。そういう意味ではハッキリ言って拍子抜けだ。


 しかし、二人が前に進む度に何かに見られているような感覚が付いて回っている。そういう意味では全く気が抜けないと二人は感じていた。


 視線の在処を探りながら探索を続けていた二人の内、大地が揺れ、強烈な魔力が湧き上がったのを感じたエドガーは目を細める。


「隊長。今の揺れはちょっとヤバくないかい?」


 地震を思わせる揺れにハルバードを構える手に力が入っているミレイユを見ながらエドガーは「ヤバいかどうかは微妙だな。ありゃあメルトニアさんだ」と口角を上げた。


「メルトニアさんといえば隊長と一緒のSランク冒険者の?」


「そうだ。エルフレッドの婚約者のリュシカ嬢がなるまでは女性唯一のSランクだった魔女さ。普段は飄々としているが、どうやら本気で気に障ることでもあったみたいだな」


 そうこうしているとグワングワンとした強い揺れが止み、視線が消失した。それを肌で感じたミレイユはハルバードを肩に担ぎ直しながら呟くのだった。


「まさか......倒したのかい?」


「その可能性も零じゃねぇが......恐らくは影だったとかじゃかねぇか?メルトニアさんの実力を過小評価してる訳じゃねぇが、これで終わりなら幾ら何でも弱すぎだろ?此れなら端からエルフレッドが出る幕もねぇ」


 視線へと使っていた警戒を解き、再度探索を再開したエドガーにミレイユは「なるほどねぇ」と呟いてーー。


「今の揺れを引き起こすような魔法でさえ私からしたら驚きなのに巨龍とやらはそれでも倒せないのかい。そして、それを倒せるのは龍殺しの英雄様だけ......特Sランクとは良く言ったもんさ」


 探索を続けながらやれやれと肩を竦める彼女に対して、エドガーは「間違っちゃいねぇ。間違っちゃいねぇんだけどなぁ......」と少し微妙な表情を浮かべた。


「言葉の割には微妙な表情じゃないかい、隊長?何か気になる部分でも?」


 問いかけられたエドガーは「いや、何というか......エルフレッドの特Sランクって称号があたかもSランクの上に位置づけられているような認識を持っているなと思ってな?現実的には俺とエルフレッドがやり合えば俺が負けるんだろうが......元来はそういう意味じゃねぇんだ」とミレイユと同じように肩を竦めた。


「元来はそうかもしれないけど皆がそう思ってるってことは、そうみたいなもんじゃないか?」


「まあ、そうだろうがなぁ......俺はそれを正直あまり良いとは思っちゃいない。元来の特Sランクは特級のSランクじゃねぇ。あくまでも"特別にSランク"にしたみたいな感じだ。色々な事情は重なっちまったが、初期の初期はエルフレッドが七大巨龍を討伐したいと考える夢を応援しての裁定だった。要はSランク以上の責任を負わせる為のものじゃあなかったって訳だ」


 エドガーは語る。勿論、ジュライを倒した実力あっての話である為に将来的にはそういう捉え方をされても仕方がないだろうというのはあったが如何に強く、如何に大人だろうが十五〜十六歳の少年だった彼に重責を負わせるような形にする予定は無かったと彼は言う。


「だけどさ。強さがSランクの枠をはみ出てるって面は元からあったって訳だろう?何方にしても何れはそうなったんじゃないかい?」


 魔物の気配は何処にもなく、ただただ闇が続いていた。何を意識した空間なのかは今一よく解らなかったが、カツリ、カツリと硬質な床を踏み締める音だけが辺りに響き渡っていた。


「そうなんだが......何つったら良いのかな......Sランクになることを望んでそうなったんだったら別に文句はねぇんだろうが......エルフレッドの場合はならざるを得なかったって面は考慮されるべきだったと思うんだよなぁ。あいつは元来自由を好む性質だし、だから特Sランクが将来的に無くなる予定でも執着がない訳だし」


 其々の属性の其々の魔力の灯りだけがぼんやりと辺りを照らしている。終わりが見えない唯の闇が延々と一本道を作り続けていた。


「それにそもそもだがエルフレッドの強さっていう面も当初はSランクを逸脱するようなものではなかった。勿論、Sランク同士で戦えばエルフレッドが勝ったんだろうが、それは別に際立って強いからって話ではなくて普通の人間なら諦めるような状態でも諦めない、諦めの悪さみたいな部分が大きかった。才能だって皆が思ってるようなもんじゃなくってあくまでもスタンダード。メルトニアさんや俺みたいな一つに特化したプロフェッショナルではないし、ましてやリュシカ嬢やジャノバのおっさんみたいなオールマイティーなんてことはねぇ。その努力は称賛に値するが、その分の代償は払わされてんだ」


「......代償?また穏やかじゃない言葉が出て来たねぇ。ならざるを得なかったとしても英雄となり富と名声を得た。そして、才能が無かったとしても世界一の強さになった。割と順風満帆じゃないかい?ある程度の代償を払ってでも多くの人間は手に入れたいものだろうさ。それを手に入れても尚、大き過ぎる代償なのかい?」


 ミレイユには理解し難いものがあった。自身が逆の立場に有ったとして何を不満に思うのだろうか?ある意味で欲しい物全てを手中に収めている存在だ。羨みこそすれ、断りたいとは思わない。元来自由を求める質だとして、それ以上の物を得ているのだと考えてしまう。エドガーは「人ってのは中々難しい生き物だよなぁ。才能ってのは有る意味ではキャパが広いって意味でもあるんだ。それを超えた分は負担になる訳だ。なら、その負担は何で払うんだろうなぁ」と苦笑してーー。


「それは命であり、精神でもある。恐らくはもうエルフレッドは大分ガタがきてる。世界最強になったとして、それを維持することは難しいだろう」


 それは古くからエルフレッドと付き合いがあるエドガーだから解った事でもあった。世界最強を目指す彼だが、その後の人生は穏やかな物を求めていた。周りが幾ら才能だと褒め称え、長く活躍してほしいと願っても、彼が即答することはない。


 やんわりと断るか、考えさせて欲しいと答えを保留にするかーーそれは今の自身の状況では続けられるかどうかの判断が難しいと考えての事だろう。


「そういうことかい。今が限界値で後は下降するのみ。このまま無理を続ければ長く生きることも出来ないと?」


「極端に言えばな。幸いなことに巨龍はウロボロスだけだ。幾ら下降するのみとはいえ辺境伯を務められない程じゃねぇ。何なら将来の伴侶がリュシカ嬢なこともエルフレッドにとっては正解だったのかもしれねぇ。学園に入るまで冒険者のぼの字も知らなかった御仁が僅か二年無いくらいでSランクだ。才能は言うまでもなく限界も見えねぇ。エルフレッドを長く支えられるハズだ」

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