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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第六章 常闇の巨龍 編(下)
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「現状そうなりますよねぇ......」と溜め息を漏らした彼にエドガーは相変わらず戯けた調子で告げる。


「ってもお前はお留守番だけどな。何かあった時は直ぐに連絡してもらわないといけねぇし」


「......昨日から言ってますけど本当に二人で行くんですか?連絡係が必要なのは解りますが隊長格二人に何かあったらSWDは機能停止状態になります。隊長の言うことは解りますが自分とミレイユ姐さんの二人で行った方がーー「そりゃあ無理な相談だな。巨龍が出て来たら最低限時間稼ぎが出来なくちゃなんねぇ。そして、それはお前には無理だ。だから、俺とミレイユで行く。それに変更はねぇよ」


 エドガーとて隊長、副隊長の二人が危機に晒される可能性がある作戦は取りたくない。しかし、遭遇する可能性がある相手はエドガーとて時間稼ぎにしかならないような強大な龍だ。最悪、何方とも欠けたとして()()()の連絡を入れねばならない。


「エドガー隊長......」


「それに今じゃあ運営の殆どはお前に任してるようなもんだからな。俺等がやられたってSWDが無くなることはねぇよ。そん時ゃ迷惑掛けるかもしねぇが宜しく頼むわ。っても簡単にやられるつもりはねぇけどな?」


 ニヤリと笑いながら愛刀の鞘に触れた彼を見て参謀の男は何とも言えない表情を浮かべた。自身の実力が足りないばかりにと自身を責めるようでも有り、他に本当に方法が無いのか、と知恵を巡らせているようでもあった。


「全く。その議論は昨日で終わったと思ったんだけどねぇ......私等だって死にたい訳じゃないし、死ぬつもりで行くわけじゃないさ。単純に最悪は想定しとかないといけないってだけの話だよ。ということでサッサと矢を撃っとくれ。突入することも出来やしない」


 苦笑を混じらせながらも厳しい口調で告げる彼女に便乗しながら「そういうこった。それに案外、矢に反応して外に顔を出してくれるかも知んねぇぞ?そしたら、俺等だって潜る必要はねぇ」とエドガーは口角を上げるのだった。


「......解りました。もう止めません。ただ、命を捨てるような真似だけは止めてくださいね?」


 其々、勿論だと頷いた二人に溜め息を吐きながら参謀の男は弓を引く。そして、魔力を込めれるだけ込めた矢を生成すると洞穴の中へと撃ち込んだ。


 キィィンと空気を切り裂く甲高い音を立てながら洞穴の中へと吸い込まれていった魔力の矢ーー。命中すれば爆発を引き起こすそれを見送った三人は何処かしらで爆発音がしていないかと耳を澄ませてーー。


「......まあ、しねぇわな。少なくとも俺の耳で聞こえる範囲では聞こえないってことはーー準備は良いか?ミレイユ」


 戯けた表情から真剣な表情へと切り替えたエドガーにミレイユは挑戦的な笑みを浮かべながらーー。


「誰に言ってんだい、隊長。こちとら準備満々さ。私ゃあ姉さんが怯えず外に歩けるようにしなくちゃならないって使命があるからね?隊長こそ、愛しのウエイトレスちゃんの元へ向かうなら今が最後のチャンスかもしれないよ?」


 ハルバードを構えて何時でも降りれる状態にしながらミレイユが言えば「はん!部下に任務を押し付けて逃げ帰るような男だったら、あの娘だって願い下げだろうよ!それだけ減らず口を叩く余裕があるなら上々ってもんだ‼」と口角を上げた。


「んじゃ行ってくるぞ!心配しすぎて穴覗き込んで流れ弾に当たんねぇようにな!ーーSWD突入‼」


「あいあいさ!......無事に帰ったらどうにか人手不足を解消したいもんだねぇ」


 心配げに見詰める男を前に二人は底の見えない洞穴へと飛び込んでいった。暫く経っても物音の一つも無く、ただただ二人を飲み込んだ不気味な洞穴が異質な存在感を放ち続けるのだった。













○●○●













「ーーんじゃ、なんか知らないけど〜、とりま洞窟戻ったし〜突入しよっか〜」


「......なんか知らないけど戻ったって......瓦礫の雨が降ってきた中に突入?しかも、埋めたのメルトニアさんだろ......」


「キャッハー‼きっとブレスで中から吹き飛ばしたっしょ‼常闇の巨龍居るっしょ‼寧ろ、この洞窟が本体だったりして‼中に入ったら、そのまま消化されちゃったりーー最高じゃん‼胃袋直通で消化されちゃいますように‼アーメン‼」


「......いや、それ突入した俺等まで死んじまう奴だから......本当に勘弁してくれよ、マジで......」


 其々自己中心的に盛り上がっている女性陣を前にして、目の下に隈を作り、すっかり窶れてしまったコーディが懇願するような口調で言った。


「ふっふっふ〜。万が一胃袋でも私が転移しちゃうから消化されませ〜ん。残念でした〜」


「イヤー‼メルトニア姐さんがマジ有能過ぎる‼助かっちゃう‼私助かっちゃうよ‼創世神様〜‼」


「......もう何でも良いから入りましょう?このままだと俺がストレスで死んじまいます」


 肩を落とし溜め息を吐いたコーディを見ながら「人生色々だって〜。それに人間って案外簡単には死なないから大丈夫〜」とメルトニアが緩い笑みを浮かべながら言えば「キャッハー‼長く生きてる人は言う事が違うっすね‼流石、六十近いバーー」と笑うエキドナに魔法が殺到した。


 それをやはり尋常じゃないスピードで避けているエキドナを見ながら「お願いだから早く洞窟に入って。そして俺をこの任務から開放してくれ」とコーディは右手で目元を覆いながら嘆くのだった。


 鬱蒼と茂る木々の隙間から覗く先の見えない黒の洞窟ーー。無属性の魔力で作った光の玉で辺りを照らすメルトニアを先頭に三人は洞窟へと突入する。


「うへぇ......空気がマジ淀んでる......しかも真っ直ぐ続いてるだけで何もない......命の危険を全く感じないんだけど......」


 メルトニアの後ろをついて歩くエキドナが残念そうに呟いた。先日訪れた時のように魔物が湧き出るような事もなく、ひたすらに真っ直ぐ続くだけの一本道に彼女は大層不満を感じているようだった。


「命の危険性が無いなら最高だろ?何なら丁度真っ暗で何も見えないから一時間くらい仮眠取りたいんだけど......メルトニアさん、ちょっと検討してくれませんかね?」


「ぶっぶ〜、受け付けませ〜ん。イチャイチャして寝てないコーディ君が悪いので〜。体調管理も冒険者の仕事で〜す」


「......イチャイチャはしていません。というかメルトニアさんが怪し気な実験をしようとエキドナに迫るから寝れてないんですけど?」


「え〜、何〜、聞こえな〜い」


「キャッハー‼メルトニア姐さん、マジ老化現しーー」


 暗闇の中で襲い来る魔法に頭を抱えながらコーディは目を閉じた。何だか緊張感がなさ過ぎて敵地であることを忘れて眠ってしまいそうだと思った。




「ーーたっはー‼コーディ‼ほらほらマジ寝てんじゃん‼ウケる‼何々‼私に興奮して寝れなかった?イヤー‼コーディの助平ー‼」




 どうやら本当に寝ていたらしい。我ながら何て緊張感が無いと溜め息を吐きながらコーディは思うのだ。確かに寝れてない理由はエキドナだったがそんな色っぽい理由ではなかった。


「この共闘がなければ魅力感じてたかもな......というか、お前寝相悪過ぎ、寝言でも創世神様求め過ぎ、要は無理」


「イヤー‼なんでよ‼無理とか言われた普通に傷つくじゃん‼乙女心ズタボロじゃん‼」


 やはりガビーンとしながらあせあせとしているエキドナに「いや、なんでって......抱き着かれながら耳元で創世神様への愛を囁かれたら誰でもそうなると思うぞ?」と真顔でツッコミを入れるコーディであった。

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