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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第六章 常闇の巨龍 編(下)
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 ギルド組に遅れること半日ーー。SWDの捜索隊は別の場所で地面にポッカリと空いた洞穴から黒の魔物が湧き出るのを見つけて対応に当たっていた。


「全く‼湧き出し続けるばかりで切りがないね‼ーー邪魔だよ‼」


 グルングルンと回されるハルバードが魔物達の四肢を切り取り機動力を奪っていく。それでも尚戦わんと唸り声を上げる魔物の額を魔法で作られた矢が貫いた。


「ミレイユ姐さんの言う通り、全く以て切りがない。隊長‼そちらの首尾は如何でしょうか‼」


 弓矢の雨を降らせながら参謀の男が言えば、残像を残しながら魔物の斬り捨て続けているエドガーがニヤリと口角を上げた。


「上々も上々って感じだな‼それに中々骨がある奴もいやがる‼こりゃあ隊長の腕の見せ所ってもんだ‼」


 キン、キンと風を切る音を立てながら進むエドガーの前にBランクの魔物である闇の巨人ダイダラボッチが姿を現した。無論、伝承に伝わる妖怪のそれではなく、黒の3mの人影のような魔物である。


 造形が似ている為に世界政府が名付けたそれを前にしてエドガーは抜身にしていた刀をしまい、右上、左下へと残像を走らせた。


「狼犬流抜刀術ーー」


 ほぼ同時に刀を抜いた二人のエドガー。其々反対方向へと駆け抜けた彼はダイダラボッチの首と足を同時に斬り捨てた。




「二狼‼」




「出た‼隊長の狼犬流抜刀術‼」


 矢を放ちながら感嘆の声を上げる参謀に対して「本当に素晴らしい技なんだけど、その名前だけはどうにかならないもんかねぇ......」とミレイユは魔物の頭をかち割りながら苦笑した。


 闇の粒子と消えたダイダラボッチを前に癖で血振るいしながら「まっ、何でも遊び心は必要だからな?」とエドガーは笑うのだった。


「そうかい?それで三狼の後は?まさか六狼までいったり、なんちゃら大学とか彼女の名前とかにならないだろうね?」


「ギャハハ‼ならねぇならねぇ‼何リスペクトだっつうの‼勿論、発明家の御先祖様もコロッケ好きのカラクリも出やしねぇよ‼」


「しかも濁ってんのが解り連れぇかもしれねぇが、じろう、さぶろうだ」とクルリと器用に刀を回して納刀ーー刃を傷めぬように音を立てずにしまいながら突然ピタリと魔物が湧き出なくなった穴を眺めるエドガーに「それはそれで何とも言えないがねぇ」とミレイユは苦笑するのだった。


「全く底が見えねぇな......怪しいは怪しいが中を全く確かめずにエルフレッドに投げる訳にはいかねぇし......」


 両膝を曲げ、その上に両脇を置いて座りながら目を細めているエドガーが言えば参謀の男は「隊長の千里眼でも見えないんですか?」と不安気な表情で訊ねた。


「まあな、正直言って全く見えねぇ。その時点で怪しいんだが、時間も時間だ。明日の昼に再度見てみて全く見えねぇ時はーー」


 エドガーは近くにあった小石を投げ入れる。そして、耳を済ませたが何時まで経っても音が返ってくるのことは無かった。


「少し潜ってみて、後はエルフレッドに頼むしかねぇだろうな。俺が思うにこんだけ闇が深いってこたぁ巨龍の住処の可能性が高え。そうなりゃ、俺達の管轄外だ。レディキラーだけなら未だしも、そこまで危ない橋は渡れねぇからな......」


 立ち上がり肩を竦めながら「尻は拭わなけりゃならねぇがウロボロスとの戦いは荷が重い......どうにも人生ってのは上手く回らねぇもんだ」とエドガーは溜め息を漏らした。


「ってことは隊長。今日の探索はここまでってことかい?」


 構えていたハルバートを肩に担いだミレイユ首を鳴らしながら聞けば、エドガーは立ち上がり背伸びをしてーー。


「まあ、そうなるわな。態々敵に有利な状況で探索するこたぁねえだろ。魔物の出現に気ぃ配りながら宿まで帰るとしようや」


 日が落ちて魔法の明かりがなければ真っ暗になるであろう闇夜の中で更なる黒を覗かせる洞穴。縦に続くであろうこの穴は落ちてしまえば際限なき地の底へと何処まででも落ちていきそうな気配があった。


「不完全燃焼だねぇ。確かに常闇の巨龍とやり合えるとは思ってもいないけどあからさまに居そうな場所まで見つけて、一旦帰ることになるなんてさ」


 帰り支度をしながら名残惜しげな視線を送るミレイユに「まあ、仕方ねぇさ。それに逃げ帰るわけじゃねぇ。その代わり明日は正に命懸けだからな?」とエドガーは穴の中を一瞥すると街がある方へと歩き始めた。


 それに続くようにして歩き始めた部下の二人。警戒は解いていないが気持ちは既に今後の予定へと傾いていた。そんな三人の事を底が見えない洞穴の中から、プカリと浮かんで見える赤の双眸が見つめていることに彼等が気付くことはなかった。













○●○●













 サラマンド族の集落の訪問を終えたエルフレッドが次の日に向かったのは聖国、アルドゼイレンの住処である。例の如くほぼ幼児が書いた手紙ーー僅かばかりに単語などに進歩が見えるーーが送られてきた内容を読むに携帯端末を購入したいとのことらしい。


 そもそも母親に情弱扱いされるエルフレッドである。それこそイムジャンヌと一緒に行けば良いと思ったのだがサプライズでメッセージを送って驚かせたいのだという。更に言えば巨龍の握力に耐えうる携帯端末もしくは端末カバーの作成に、エルフレッドが持っている素材を買い取る必要が出てくるかもしれないと考えたようで、それならばと付き合うことにした。


 何方にせよ、常闇の巨龍のことで多少確認しなければならないこともある。そういう意味ではとても良い機会だとエルフレッドは感じていた。


 聖国の巨龍でユーネ=マリア神の使いとなったアルドゼイレンだが特に何かが大きく変わった様子は無い。相変わらず人里離れた荒野の奥にある岩山に暮らしていた。


「来たぞ。アルドゼイレン。ーー前よりお腹が大きくなって無いか?」


「おお‼来たか‼エルフレッド‼」と体を横に揺らしながらノシノシと歩くアルドゼイレンの卵が入っているだろうお腹を見ながらエルフレッドが首を傾げた。


「グワッハッハ‼そうなのだ‼卵のサイズとしては産み頃のサイズとなった‼最近は少し動くようにもなってきたからな‼遅くとも秋の終わりには産まれているであろう‼」


 ポンポンとお腹を撫でて豪快に笑う巨龍に「それは目出度いのだろうが何だか不思議な気分だ。男友達が妊娠したような感覚になってな」とエルフレッドが困惑気味に告げれば「エルフレッドの立場から言えばそうであろうな‼とはいえ、前にも言ったが我に雌雄はないのだがな‼」と楽しげに笑うのだった。


「ふむ......何だったら転移魔法で行くか?実際にそこまでお腹が膨らんでいるのを見ると気を遣った方が良い気がしてきたのだが......」


「いや、全く心配無用だ‼多少歩き辛くなったのはあるが支障は全く無い‼寧ろ、空を飛ぶくらいの適度な運動は卵にとっても良いものだぞ‼ということで背中に乗るが良い‼ーーあ、伏せることは出来んから近距離転移でな‼」


「解った。では、そうさせてもらう」


 多少背中を丸めたアルドゼイレンの背中にエルフレッドは気遣うように転移して背中に捕まった。すると普段の様子とは異なる微細な振動を感じて驚きの声を零した。


「......ここまでハッキリと解るくらいに動いているんだな」


「そうなのだ‼我も知識の上では知っていたが実際にドラゴンニュートを産むのは初めてだ‼多少、やんちゃなのは我に似たのだろうな‼」

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