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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第六章 常闇の巨龍 編(下)
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「キャッハー‼創世神様愛してる〜‼貴方の仔羊エキドナが不浄なるもの成敗して沢山供物を捧げちゃいます‼アーメン‼」


「......俺、何でお前が死ねないか解った気がする。熱狂的過ぎて敬遠されるファンみたいな。そして、二度と誰とも共闘しないほうが良いと思うぞ?印象的に......」


 二週間の探索を得て先に潜伏の可能性がある場所に行き当たったのはギルド側の探索隊であった。生い茂った森の中、ポッカリと空いた黒の穴の洞窟ーー先が全く見えない闇過ぎる闇から、まるで暗殺でも狙うかのように黒い魔物が飛び出して来るのである。


 まるで動体視力を試すゲームでもしているかの様相だが、シャラララと音を立てる蛇腹剣がバッサバッサと魔物を切り裂き、霧散する闇へと変えていってるのだ。


 取り零しを撃っては冷や汗を拭うコーディはよく見えるなと感心するばかりである。ハッキリ言って見てから間に合うスピードとも思えない飛び出しだが、エキドナの剣の軌道は余りにも的確であった。


「創世神様‼私すっごく貢献してます‼隣とは言いません‼隣とは言いませんから、せめて‼せめて100m以内に置いて下さ〜い‼」


「......アピールが露骨過ぎる上に必死過ぎる」


 撃ち漏らしを狙撃ーー噛み付こうと口を開いた狼系の魔物を銃剣で切り裂きながら、コーディはキャッキャと敵を捌いているエキドナにげんなりとした。


「もうっ‼エキドナちゃん煩い‼詠唱に集中出来ないじゃん〜‼」


 相手の実力から後方支援に回ったメルトニアが創世神に必死のアピールを続ける彼女に対して苛立ちの声を上げた。確かに詠唱をするには煩いだろうが、そもそもSランクが詠唱をする必要がある程強い魔物が居るとは思えない。


 メルトニアは地団駄を踏むと詠唱を中断ーー未だにワーキャーアピールを続けているエキドナへと叫んだ。


「折角、ギルマスが"新しい魔法を試す研究だと思っていいから引率してくれ"って言うから来たのに〜‼これじゃあ新魔法試せない〜‼ダーリンと会う時間削って来てるって言うのに〜‼エキドナちゃんのお馬鹿〜‼」


 シャラララ、シャラララ、ワーキャー、シャラララ、シャラララーーと敵を切り裂き続けていたエキドナは一段落したところでピタリとそれを止め、とても白けた表情で振り返るとメルトニアを見ながらーー。


「......それって"対エルフレッド君魔法"とか言う阿呆みたいな名前な割に超威力で地形変わっちゃうような激ヤバ魔法じゃん......そんなのぶっ放そうとしてる方が馬鹿だし。しかも、ダーリンに会う時間削ってるって?定時になったら転移魔法でそそくさ帰ってるじゃん......これだから色気づいた六十のババアはーー「あ、手が滑っちゃった〜♪」


 明らかに手が滑ったとは思えない正確性で召喚された隕石がエキドナを襲う。「こんなの当たったら本気で死んじまう‼」と青い顔で逃げるコーディを他所にエキドナはそれを躱して、襲い来る魔物達に衝突させた。


 瞬間、森の一部とぽっかりと穴が空いた洞窟の一部が消し飛んだ。頭を抱えながら障壁で自身を守っていたコーディは飛んできた石を銃剣で弾いた後に煙が上がっている方向へと視線を向けた。


 エキドナが立っていた地面の辺りを、大きなスプーンで抉ったかの如く見事な半球状を描いたクレーターが出来ているのを見て顔色が青から白になっていくーー。




「イヤー‼メルトニア姐さん‼これじゃあ駄目じゃん‼()()()()()()()()()()()()()()に自分から当たりにいったら自殺になっちゃう‼威力は申し分無いんだから、もっとスピード出して貰わないと死ねないじゃん‼」




 宙に跳んで躱したのか、落下した猫の様なしなやかさでシュタッと着地したエキドナが至極残念そうに言った。


「へぇ〜、あれを見てから躱すんだ〜。やっぱりエキドナちゃんは面白いね〜‼私のモルモットになってよ〜‼」


「うへぇ......それだけは本気で勘弁ーーいや、待てよ?実験内容によるって感じ?」


 首を傾げながら真剣に検討を始めたエキドナを見てコーディは戦慄する。先程メルトニアが放った隕石の魔法はとてもじゃないが見てから避けれるようなものじゃなかった。コーディとて発動した瞬間に野生の勘のような、身の危険を知らせるサインのようなものが全身を貫いた結果、形振り構わず逃げて、どうにか避ける事が出来た代物だ。


 それを魔法の起動を見てから襲い来る敵に当てるまで予測した上で跳んで躱すなど常人には出来るはずがない芸当を彼女は軽々とやってみせた。並大抵の身体能力ではない。


「......お前のスペックどうなっての?才能に満ち溢れすぎてるだろ?」


 恐れ慄くコーディに対して「えっ?そんなに凄い事なの?キャッハー‼ってことは創世神様に愛されてるってことじゃん‼マジ嬉しい‼早くお側に連れて行って下さい‼アーメン‼」と胸の前で両手を組んでキラキラと瞳を輝かせながら祈りを捧げ始めた。


 コーディはそんな彼女の様子を眺めながら暫し呆然としていたが、思考が回転し始めるや否や乾いた笑い声を上げーー。


「......いや、その観点で言ったらお前相当創世神様に嫌われてるし呪われてるな。多分死ぬの百歳超えてからだわ。人類最高齢も有り得る」


「イヤー‼なんで⁉どうして⁉」


 ガビーンとしながら涙目でコーディと詰め寄るエキドナ。メルトニアは顎下に人差し指を置きながら「身体的スペックだけを見るとリュシカちゃん以上だね〜。やっぱり、どういう風な構造でそうなってるか興味でまくり〜‼とりま、魔力伝導率の確認の為に体の一部をサンプルに持ち帰ってーー」と明らかにヤバい実験を計画し始めた。


「コーディ‼なんで‼意地悪言うのは無しっしょ‼私等の仲じゃん‼後、メルトニア姐さん‼体の一部持ち帰るのはイヤー‼それ、死ねない上に地獄見るヤツ〜‼」


「いや、何でって言われてもな......」と呆れた様子で呟く彼の前でエキドナはジタバタしながら蛇腹剣を振り回し始めた。何事かと軌道の先を目で追えば、消し飛んだ瓦礫の下から飛び出してきた魔物達がバッサバッサと斬り倒されていく姿が目に入った。


「はっ、はは、はははーー」


 引き攣った笑みを浮かべながら乾いた笑い声を上げるコーディ。後方で再度ヤバそうな詠唱を始めたメルトニアの姿が視界に入り彼は思った。


(......何で俺がこんな目に......早く帰りてぇ......)


 最早パーティとして成立していない自由過ぎる面々に頭を抱えるコーディーー彼の顔にはやはり苦労人の相が出ているのだった。


 そんな彼は気付いていないだろう。通常、このパーティ編成では三日も持たずして崩壊する。当然、まともに任務等遂行など出来る筈がないのだ。それをどうにか任務が遂行出来る形に纏め上げているのはコーディであり、彼もまた指揮官としての能力が非常に高い存在なのである。


 そして、ギルドマスターも彼の能力を把握しており適材適所としてパーティに入れた。そこに偶然性は無く、こうなることは必然であった。


 ......そう、破茶滅茶な存在と組まされることは最早必然なのである。


 今回の捜索で指揮官能力の高さに太鼓判を押されたコーディは、協調性皆無の変人的実力者でパーティを組む際には必ず纏め役に抜擢されることになり生涯苦労し続ける羽目になるのだが、現状に嘆き頭を抱える彼が、そんな未来を迎えるなど知る由もないことであった。

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