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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第六章 常闇の巨龍 編(下)
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 グレン所長との会談と素材の提供を終えたエルフレッドが次に向かったのはサラマンド族の集落であった。突然の手紙ではあったが、時は来たと族長から一度話がしたいとの旨を受けた彼は丁度良いタイミングだったこともあって即座に了承したのであった。


 茹だる暑さの中、転移魔法にて鬱蒼と茂る青の森を抜けて水分補給をしながら族長の家を目指す。久々に集落の様子を眺めたいと歩きを選んだエルフレッドは観光客が増え、以前より活気付いている街中に目を丸くしながら道中を進んだ。


 以前に比べて観光客用の店が明らかに増えていた。商店というよりは出店が並んでいるといった様子だが、暑さ対策のどぎつい色をしたドリンクが飛ぶように売れている所を見ると納得した。


 確かに見た目はあれだが実際の効果は身を持って体感していたエルフレッドーー。彼も並ぶ観光客に混じって買うことにした。


「いらっしゃいまーー英雄様だ‼英雄様が来られたぞ‼」


 自身の順番が来た瞬間、店先のサラマンド族の男性が大慌ての表情で叫んだ。そう来たか、と続々と集まってくるサラマンド族の人々に内心苦笑したエルフレッドだったが外行きの表情を貼り付けながら「サラマンド族の皆様ご無沙汰しております。族長様と会う為に来訪させて頂きました」と微笑んだ。


 ゾロゾロと集まってくるサラマンド族の人々に様々な品々を貰いながらーー無論、エルフレッドは断ったが半ば押し付けられたーー族長の家に向かおうとする頃には感謝の品で両手一杯になっていた。


 とりあえず、直ぐに口にする予定の飲食物以外は空間の中にしまい、水分補給のドリンクを飲みながら街中を歩いた。ガルブレイオスを倒したことへの感謝だろうかと考えていたが、それは理由の半分といった所ーー、残りは英雄グレイオスが倒したガルムの骨の展示による収入アップと浄魔の剣の回収によるものだと集落の人々の会話から理解した。


 確かに直接的な驚異が無くなっただけでなく街自体が潤ったならばこれだけ喜ばれるのも納得である。対応には疲れたエルフレッドだったが歓迎自体は有り難いと感じていた。


 族長の家に着いた彼がインターホンを鳴らすと歓迎の言葉と共に応接室へと通された。


「ぎゃぎゃぎゃ。巨龍を討伐する英雄エルフレッドよ。久しぶりだぎゃ。お主のお陰で我が集落には様々な恩恵が舞い降りたぎゃ。集落の者も喜んでいる故に今日は話が終わったら、ゆっくりして行くと良い」


「族長様、ありがとうございます。早速、集落の方々には良くして頂きました。婚約者との約束が有りますので泊まることは出来ませんが時間が許す限り街中を見て行きたいと考えております」


「おお、そうだったぎゃ。良き知らせに文は出したが直接こうして話すのは久々だったぎゃ。此度の婚約、真におめでとうだぎゃ。我々サラマンド族も心より喜び申し上げるぎゃ」


「ありがとうございます。何れは婚約者を連れて挨拶をと考えておりますので、その時はよろしくお願い致します」


「無論、歓迎しよう。さて、エルフレッドよ。話というのは他でもないぎゃ。我々、サラマンド族の文献に残された話の中でお主が戦おうとしているウロボロスについて描かれた物があった故に力になればと思い文を出したぎゃ。読んで見るぎゃ?」


「ウロボロスの話がですか⁉是非とも読ませて頂きたいです‼」


 サラマンド族の集落にそのような文献が残されていたことに驚きを隠せないエルフレッドは驚愕の表情を浮かべながらも頷いた。


 族長は「解ったぎゃ。我々がどうやって産まれたかが書いてある文献に載っていたぎゃ。先ずは目を通すが良い」と言って席を立つと古びた巻物を持って来てエルフレッドに見えるようにテーブルに広げた。


 内容を見落とさないようにと食い入るように巻物に目を通していたエルフレッドは暫く読み深めた後に「これは......」と驚きの声を上げた。


「ぎゃぎゃぎゃ。それは旧文明から三柱の創世神による現文明に切り替わった頃の出来事について書かれた巻物ぎゃ。旧文明創世神話より天界で起きていた戦いは一度神々の勝利に終わったぎゃ。しかし、神の隣においても輝いていたとされる明星を完全に討つことは出来なかったぎゃ。故に奈落の底へと突き落とし封印するという方法を取ったのぎゃ」


 それはクレイランドの旧文明時代の創世神話にて読んだ内容とほぼ変わらない内容だ。しかし、サラマンド族の成立ちが書かれた巻物には続きがあった。


「人々が知を深め、神への信仰を忘れる度にその封印は弱まっていったぎゃ。遂には明星は影を地上へと放つことに成功し、世を混乱に導くことに成功するぎゃ。その行動が結果的に三柱の創世神による救済に繋がったのだぎゃ、その時に神の兵団として戦った炎の熾天使と人族の戦士との間に産まれたのが我等サラマンド族の先祖だったぎゃ」


 嘗ての長を討たんと無謀ながらに先陣を切り牙を剥いた無謀なる龍ーー。そして、それに続かんと神より神器を授かり共に戦い、共に生きた人族の戦士。その間に産まれたのが翼を持たぬ龍の子、サラマンド族だったのだという。


 そして、サラマンド族は神器を守るべく未開の島に姿を隠した。天使と人族のミックスだった故にその血が薄れる事を恐れ、多種族との交配に難色を示したのだと今であれば推測出来た。


 文献を読みながら腕を組み、顎を擦っては思考していたエルフレッドに族長は「そして、時は来たぎゃ、英雄エルフレッドよ。お主はウロボロスと戦うぎゃ。なれば万全を期す為にお主は神の力を授かりし神器を扱わねばならぬかもしれないぎゃ」と告げると一振りの剣をテーブルに置いた。


「これは......浄魔の剣」


 嘗てグレイオス=ラスタバンがガルムを倒し、エルフレッドがガルブレイオスを倒した時に使ったサラマンド族の集落の宝剣である。


「無論、ウロボロスとの戦いが終われば返してもらう必要があるぎゃ。浄魔の剣を守り、浄魔の剣を次代に伝えていくのが我々サラマンド族の宿命ぎゃ。何れ、また世界が闇に覆われし時、その時代の英雄にこの剣を授けることになるだろうぎゃ」


 エルフレッドがテーブルの上から剣を受け取り、繁々と眺めている様を見ながら族長を続けた。


「お主の大剣も巨龍の力を持つ大剣故に浄魔の剣を使う必要は無いかもしれないぎゃ。だが、嘗て同じ存在と戦う時に使われた剣ぎゃ。きっとお主を助けることになるだろう」


「ありがとうございます。ガルブレイオスを倒した際にも使用する機会が御座いました。族長様の御厚意、サラマンド族の意思を受け取り有り難くお借りさせて頂きます」


 手に持っていた浄魔の剣を空間魔法の中に入れて頭を下げたエルフレッド。族長は満足気に何度も頷いてーー。


「我々の御先祖様の悲願でもある故に協力している面もあるぎゃ。大いなる魔となった嘗ての明星を倒し、世界に平和を齎すのは神とて頭を悩ます難題ぎゃ。心して向かうが良い。我々サラマンド族は浄魔の剣と共にお主が帰還する事を心から祈っているぎゃ」


エルフレッドは族長の言葉に感謝の言葉を返しながら、心引き締まる思いだった。相対した際、自身の挑発に激高した影の様子から推測はしていたが、先祖の言葉として伝わっていたならば間違い無いだろう。


 嘗て神の隣で輝いた明けの明星。堕とされし偉大なる熾天使の長ーー。




 堕天使ルシフェル。




 エルフレッドが戦う常闇の巨龍と偽りしウロボロスの正体は余りにも強大な大いなる魔であった。

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