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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第六章 常闇の巨龍 編(下)
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 週末の連休が終わり学園へと向かうエルフレッド達。すっかり何時もの様子に戻ったノノワールの「幸せ家族計画発動中♪」に首を傾げながらも解決したなら良いか、と皆ら笑った。


 エルフレッドだけは詳細思い出せずも何かやらかした気がすると難しい表情で首を傾げていたがーー。


 さておきアードヤード王立学園の三年Sクラスは春終わりの状況にして確定的な進路に向けた特別なカリキュラムが進められていた。特に医学、薬学、法学などは進学がある関係もあって徹底的に進学に必要な科目を徹底的に叩き込まれる。


 希望者は課外授業を受けることも可能であり、より自身の進路に向けて進みやすい環境を整える事が可能であった。


 では、エルフレッド達の状況はと言えば、正直言って何も変わりはしなかった。選択科目がより自身の進路に近付いたくらいで学園生活での特別なことは皆無と言っていい。


 何より元々が忙しい面々が多いと言うのもあって部活動者は零、生徒会所属者零だ。それでいて進路不確定者零の零続きである。学生の本分とされる成績は申し分なく、学外では様々な功績を上げてくるので学園側も特に何かを望める状況ではない。寧ろ、そのまま在学中に沢山の功績を上げてほしいと願うくらいであった。


 そう考えると今迄の最優秀者達やSクラスの生徒に比べれば割と異端な立ち位置に居るのかもしれない。学園内での活動は武闘大会くらいで残りは割と自由に過ごしている彼等である。


 席に着き、授業を受けて、昼はサロンで優雅に過ごし、放課後は集まったり、学外活動に勤しむーー彼等の日常はそういうスケジュールで構成されていた。


 別々の授業を受けていた面々とメッセージのやりとりで集まって何時も通り集まったエルフレッド達は周りが進路、進路と口酸っぱく言うこともあって、気付けば各々が描く未来について話していた。


「最近、周りは進路について大忙しって感じだけど......僕等は良くも悪くも何時も通りって感じだよね?」


 話の始まりはコーヒー片手に微笑んだアルベルトのそんな言葉だった。


「確かにねぇ。別に進路で焦る必要も無いし、大まかな未来は定まってるからねぇ。学園を卒業してからが本番みたいな?」


 最近、個人的にハマっているというドーナツを齧りながらルーミャが笑う。アイスのブラックコーヒーを啜って「あ〜幸せぇ」と呟いた。


「俺はウロボロスの件をどうにかしないと未来どころの話では無いがな。とはいえ、あの分霊のような蛇を斬ってから大人しくしているところを見るとダメージが全くなかった訳ではなさそうだ。未だに小国列島の何処に居るかは解らんが夏休みを上手く使って倒せれば幸いだな」


 現在、ウロボロスの被害を重く見た世界政府やギルドが精鋭部隊を使って探索しているという事もあり、エルフレッドだけの問題でも無くなっている。いざ討伐となれば必ず声が掛かるだろうが英雄で有りながら次期辺境伯、ひいては次期公爵の彼に対する配慮がなされ始めていた。


「何もエルフレッドが無理して倒さなくてもーーと言いたいが、対巨龍で戦力になるのはエルフレッドくらいだものな。全く、結婚する前からあまり心配させないで欲しいものだが......」


 やれやれ、としながらマキアートにトッピングで乗せたホイップクリームを掬って食べるリュシカに「寧ろ、結婚してからは平穏な日々になる予定だから、今だけ我慢してくれると有り難いな」とエルフレッドは苦笑した。


「言われてみればエルフレッドは私みたいに騎士になる訳でもなければ軍人になる訳でもない。有事の時以外は戦わない」


 パフェにケーキにアイスクリームの乗ったココアを楽しみながらイムジャンヌが言った。隣に座るアルベルトが「見てるだけで胸焼けしそう」とコーヒーを含んで胸の辺りを擦る。


「というかミャ。結局、エルニシア先輩の聖国騎士団はどうにかなりそうミャ?前の話だと結構ハードル高そうだったけどニャア?」


 ホットのココアをフーフー冷ましながら飲むアーニャに問われ、イムジャンヌはケーキを食べながら思考しーー。


「どうにかなると思う。あんまり強硬手段は取りたく無いけど、最悪、アルドゼイレンが資金面とかどうにかしてくれるみたいだからやりようは幾らでもーーあ、ケーキお代わり」


 まだ食べるの?と信じられない者を見るような視線を送るルーミャの前で「あ、いちごパフェもお代わり」とイムジャンヌが手を上げた。


「本当に良く食べるよね......そういえばノノワールさんは結局大丈夫だったの?なんか幸せ家族計画がどうのこうの言ってたけど?」


 コーヒーとサンドイッチを前にカロリー計算アプリを触りながらサプリメントボックスをガサガサしていたノノワールが「今の所、バッチリの助♪ま、彼奴等も自分等の目的が果たされるから、そりゃあ文句はないよね〜♪寧ろ、我が家は安泰って大喜び〜♪」と言った後にーー。


「それが破滅の一歩だって気づかずにね〜♪あ〜楽しい♪」


 晴れやかな笑顔を浮かべながら言うのだった。


「幸せ家族計画とは......?」と頬を引き攣らせるアルベルトに「ま、兄様と一緒に追い込んで僻地に隠居させたら孫の顔くらいは見せてあげるつもり〜♪望んだ後継ぎの顔が見れたら幸せじゃん〜♪どう思うかは知らないけど〜♪」と満面の笑顔で言うのだった。


「名前の割に悪魔が考えたような計画ミャ。これ、本当にエルフレッドと一緒に考えたミャ?」


 プレーンのスコーンを追加してココアと一緒に嗜みながら首を傾げるアーニャにエルフレッドは「いや、その復讐部分には携わってない......と思いたいが......何分、寝不足が酷すぎて記憶が曖昧でーー」と話を聞けば聞く程に自身が考えたとは思えない内容に頭を抱えるのだった。


「その酷すぎる寝不足を作った原因の叔父様は、晴れて我が王女殿下の嫁ぎ先になることが決定的か......全く王女殿下は叔父様の何が良かったのやら......」


 全く理解出来ないと肩を竦める彼女に「話を聞いてみたら、クレイランドに行った際にとても優しくして貰ってたみたいミャ。ジャノバ大公は常識的に考えて断ろうとしてたそうだけどニャア。リーチェの愛が勝ったようミャ」とアーニャが微笑んだ。


「やはり、愛に年齢は関係無かったな!」と何も知らない二人が笑い合う中で、様々な事情を知るエルフレッドがコーヒーに噎せて咳き込んだ。


「ま、色々と状況が良くなってきてる訳だからミャ。家の寝坊助な未来の旦那様もそろそろ起きてくれると良いんだけどミャア」


 肩肘をついて溜息ーー切なげな表情を浮かべたアーニャに皆は少し表情を暗くした。遂に目覚めか、と思われたノノワールの件での話し合いの日。


 確かにレーベンは目を開いた。しかし、それは一瞬の出来事だった。周りが声を掛ける間もなく再び目を閉じて眠ってしまった彼は、周りが声を掛けた頃には反応が無い何時もの状態へと戻ってしまった。


「ねぇ。アーニャ。あんまり気を落とさないでねぇ.....」


 と心配気に両肩に手を添えるルーミャに「ありがとミャ。妾も、もう起きないっていう心配はしてないのミャ。ただ、あまりにも長く眠ってしまったから起きた後の後遺症がニャア......」

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