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エルフレッドは「うん?普段の俺ならば勧めない?......まあ、ノノワールが興味あるなら良いのか?」と瞼をシパシパさせーー。
「そうだな......話の続き?いや、話もう終わったつもりだがーーふぁ〜あ、ねむ......」
「あ、こら‼エルちん‼ーーいや、こら、じゃないけど‼そういう約束だけど‼ほら、ここまで話したんだし、もう少しだけ‼もう少しだけ頑張って‼懸念点とかあるでしょ‼」
限界がくるまでと言っていたことは覚えているが、こんな中途半端で寝ると言い出すとは思っていなかったノノワールはエルフレッドを揺さぶった。
「うん?懸念点?ムニュ......」
謎の擬音を呟きながら頭を捻るエルフレッドに「くっ‼まさか、ムキムキマッチョのエルちんにクマちゃん萌させられるなんてマジ屈辱‼ムカつくからリューちゃんに画像送ってやろ‼」と携帯端末でカシャ、カシャ、逆恨み画像を撮りまくった。
「懸念点は......まあ、先ずは分家の男が婿入り出来ずに納得するかだろうな。扱いが完全にバンクだからな」
「そうだね。でも、彼奴等も苦肉の策みたいに思ってるだろうから、自分の子供だけで後継ぎ確保出来るなら上手くやってくれるんじゃない?」
とりあえず、メッセージアプリを開き、萌フレッド(寝不足)と題名をつけてリュシカに送るノノワール。割と良い時間なのだが十秒くらいで既読がついて『十分くらいで迎えに行く』と返信が着た。
「......そもそも兄上を当主に出来るのかは多少心配だな」
「まあ、そこは条件ってことで。んで、継いでもらった瞬間に彼奴等は隠居させるっと♪復讐も出来ちゃうね♪」
『リューちゃん、返信早すぎじゃない?ww』
『偶々携帯端末を触っていただけだ』
「ノノワールの子と兄上の子が両方、同性の時点で計画が破綻する可能性がある。特に男児の場合、後継ぎの心配がーー」
「ああ、そこはお兄様の子供優先って決まってるから問題ナッシング♪それに私はどっちにしろ男の子産まれるまで子供産まないといけない予定になるから、女の子同士はありえないし?」
『とか言って、萌フレッドに萌え萌えしちゃったんでしょ♪かぁわぁいい〜♪』
『なんかムカつくな。大体、人の婚約者と会うなら先に連絡するべきであろう?ノノはパパの件もあるから安心出来ん』
「後は......全てが当人達の気持ち次第というところか?」
「まあ、確かにね。でも、パートナーについてはそういう相手を選べばいいし、子供達については政略結婚みたいな?まあ、貴族だからね。基本的にはそういう育て方して、極力感情を考慮するみたいな?ほら、お兄ちゃんと結婚する〜って言い出したら、家は結婚出来る‼みたいに激推しようかなって」
『嫉妬?リューちゃん嫉妬しちゃった?女の子にしか興味ないって言ってるじゃん‼ww』
『もういい。とりあえず準備は終わったから迎えに行くからな』
「......そうか。なら問題無いのか?ーーというか、ノノワール。さっきからピロン、ピロン鳴ってるがどうした?」
眠気が限界に達している表情で訊ねるエルフレッドにノノワールはニヤニヤと笑いながら「リューちゃんが迎えに来るって♪」と肩を小突いた。
彼は回らぬ頭で「リューちゃん?......ああ、リュシカか。そうか」と壁に寄りかかりながら船を漕ぎ始めた。
「エルちん、ありがとう。なんかちょっと未来が開けてきたかも♪幸せ家族計画ね♪面白いじゃん♪」
「うむ......ああ......後、世間の目がーー」
「世間の目なんてどうでもいいよ。倫理?道徳?知ったこっちゃないし。私の事を特別な人間、特別な性別みたいに扱うような社会が作ったものに私が従う必要ないでしょ。別に人に迷惑掛ける訳じゃないんだから好き勝手させろって話じゃん?ーーあ、エルちん‼リューちゃん来たよ♪」
寝間着に上を羽織っただけの格好のリュシカが、髪の毛だけは外に出れる程度に整えた状態で不機嫌そうに腕を組みながらノノワールを睨んでいる。
「ノノ。今度からはちゃんと連絡入れるのだぞ?後、エルフレッドがそんな風になるまで連れ回すな」
船を漕ぎながら夢と現実を行き来しているエルフレッドにチラリと視線をやった彼女は溜息を漏らす。
「ごめん〜‼どうしても不安だったんだもん〜‼次からはちゃんと連絡入れるから〜‼ねっ?」
顔の前で手を合わせて申し訳無さそうな表情を浮かべるノノワールに再度溜息を吐いてーー。
「次に無断で会ったら暫く会わせんからな?......ほら、エルフレッド。帰るぞ?」
「うん......?ああ......リュシカか......すまん」
欠伸と共に危なっかしい足取りで立ち上がったエルフレッドを抱き止め「おっと。全く、こんな無理をして......」と呆れたように言いながらも、ちゃっかり抱き締めてるリュシカ。
そんな様子にニヤニヤしていたノノワールはリュシカと視線が合うや否や表情を戻した。
「......なんだ?」
「いえいえ♪何でも御座いませ〜ん♪私は帰るので後は二人でごゆっくり〜♪」
ズビッと手を上げてベンチから飛び降り、スキップ気味に帰っていくノノワールに「......ごゆっくりも何も後は寝るだけだぞ?」とリュシカは苦笑した。
「ウニュ......んん......駄目だ......目が開かん......」
目元を擦りながら、伸びをしたり脱力したりしているエルフレッド。滅多に見られない隙だらけの彼の姿にリュシカは何だか、胸の辺りから強烈な愛らしさが湧き上がってくるのを感じていた。
「......ふふふ。中々愛らしい一面もあるではないか?」
そう呟いた彼女は一旦辺りを見渡した。真っ暗な廊下、仄かに入ってくる月明り以外の光は無く、当然人影の一つもない。一応、魔力での探知を展開ーーやはり、無反応。何も引っかかるものなどいない。
リュシカは少し考えるようにして首を傾げていたが、よし。と言わんばかり、それを辞めポロリと零すように呟いた。
「ーー連れて帰るか」
フラフラとしているエルフレッドの手を握り「こっちだぞ」と何も疑わずに付いてくる彼を自分の部屋へと誘導して行く。今は婚約者であり、それ以前は恋人である。一夜を共にしたこともあれば、体を寄せ合ったこともあるのだがーー何故だろうか?
とても悪いことをしているような背徳感を覚えて妙に気分が高揚していた。
リュシカは自身のそんな感情に多少の困惑感を抱きながらも、ウキウキとした感情を諌めることは出来なかった。結局、最後まで気付く事なく着いてきた彼を部屋に連れ込み扉を閉めた。
夜の静かな寮内にパタンとした扉の閉まる音だけが妙にハッキリと響き渡ったのだった。
後日、早朝に体内時計の狂いから若干の頭痛を感じながら目覚めたエルフレッドは、自身の胸元で眠る婚約者と明らかに自分の部屋ではない内装を見て何が起きたのか解らなくなった。
暫し、ボンヤリとした頭で考えていたが頭が痛くなるだけで余計に考えが纏まらない。
「......夢か」
そう結論づけたエルフレッドは布団を被ると良い夢だと自分に言い聞かせながら、もう一度眠ることにした。そんな彼の現実逃避は腕の中の婚約者が寝心地の悪さを感じてモゾモゾと動き、目を覚ますまで続いたのだった。




