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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第六章 常闇の巨龍 編(下)
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 それは休日の日の話だ。時系列で言えばジャノバの顔合わせの日の次の日に当たる。連日来る悩み相談ーーそして、ジャノバから様々な連絡手段での連絡が着たことで完全に睡眠不足だったエルフレッドはノノワールの問題解決の為に話し合いに参加したものの、禄に回らぬ頭では意見の出しようがなかった。


 実際のタイムリミットがどうなるかはさておき、一旦のリミットとして返事を出さなくてはならない急務の日ーー皆は確りと話し合いを進め、どうにかノノワールを救おうとした。


 だが、現実的に後継ぎ問題を解決しながらも両親、ノノワール共に納得する方法など見つかる訳もなく、あまりに酷いようならば多少強引ながらもルーミャがライジングサンに侍女として連れ帰る。という案が最有力となった所だった。


 案を沢山出せるであろうアーニャがレーベン回復に動きがあったことで参加が出来なかったことも関係しているだろう。ノノワールとしては万が一の逃げ道が見つかり多少安心した部分はあったが全てを解決するに至らず不安な色を隠せない。そのような微妙な気持ちを抱えたままの解散となった。


 今日は役立たずだったなと睡眠不足からマイナス思考に陥っていたエルフレッドは、こういう日は寝るに限るとベッドへ向かっていたところーー。




 ピロンッーー。




 メッセージアプリに連絡が着た。ジャノバさんなら無視しようと携帯端末を開いたエルフレッドはーー。


『睡眠不足な時にごめん。でも、もう少しだけ相談に乗ってくれない?』


 ノノワールの切実なメッセージを断る事が出来ずーー。


『寝落ち寸前の俺で良ければ』


 と返事を送って缶コーヒーのブラックを片手に部屋を飛び出したのだった。


 窓から見える外は雨は無くとも生憎の曇り空だった。月明かりも雲霞が掛かり薄く、暗いーー。カフェインが入ってなければ外でも寝れたな。と謎の感想を抱きながら、寮内に置かれたベンチへと向かう。


「呼び出してごめんね。ルールーの案は嬉しいんだけど、ライジングサン行きは事務所の兼ね合いがあるから......本当にそれしかないのかって思ったら眠れなくなっちゃって......」


 申し訳無さそうにしているノノワールに「まあ、そうだろうな。不安な色が見え隠れしているのは気付いていた。アルベルトもどうにか協力してくれようと頑張ってはくれていたが、ノノワールが親友だと思ってるのはエルフレッド君だからーーと申し訳無さそうなメッセージが届いたぞ?」と彼は自身の携帯端末の画面を見せる。


「ハハ。本当じゃん。最近、アルさ、めっちゃ頑張ってるもんね?元々友人は大切にするタイプだけど熱の入れ込み方が違うってかさ?」


「そうだな。俺の件とかで思う所があったらしいぞ?本当に真面目なヤツだ」


 カシュッと二本目の缶コーヒーを開けて煽る。次は糖分が多い缶コーヒーで眠気覚ましを狙う。少しシャキッとした感覚がしてエルフレッドはホッと息を吐いた。


 そんな彼の様子を眺めながら「まあ、エルちん見てたら、そういう気になるのは解る。今日とか普通に寝てても誰も文句言わないじゃん?」と苦笑する彼女に「限界来たら直ぐ帰るぞ?そのくらいはするだろ?頼まれれば」と彼は苦笑した。


 頭の回転の鈍さもあってボンヤリと時間が進んでいるような気がした。ベンチの隣に置いてある自動販売機の強い白の光だけが暗い廊下でクッキリと浮かび上がって見えていた。


「良い案って中々無いよね。どれかを選んだら、どれかを捨てないといけなくなる。でも、どれも私にとっては大切だしーー」


 代えられない性別と代え難い夢ーーライジングサンに行くことが、その二つを諦めないといけなくなる訳ではない。しかし、残された理解を示そうとしてくれる唯一の肉親である兄、そして、ありのままの自分を受け入れてくれた芸能事務所とはお別れだ。


 アルキッド家と完全に絶縁になることに何ら不満は無い。寧ろ、清々しい気持ちさえあるーーが、残される兄が心配でならないノノワールだ。


 何かを選び、何かを捨てるーー目の前に選択肢が迫っている今、他に選択肢が無いのかと考えるのは致し方ないことであろう。


「なあ、ノノワール」


「どしたの?エルちん?」


「子供を産むこと自体嫌か?」


「......え?」


 ノノワールは一瞬、エルフレッドが何を言っているかが解らなかったが、少し思考して考えを纏めてみる。


「......それって私に後継ぎ産めってこと?」


 訝しげな表情を浮かべ問いかける彼女に「うーむ。結果的にはそうなるかもしれんがーー」とエルフレッドは眠気で頭が痛いのを堪えるかのように頭を押えながらーー。


「俺は少し思ったのだが別に今なら男と寝なくても子供を作ることは可能だろう?子供を産むこと自体に嫌悪感が無いのなら一つの選択肢として考えるのもありだと思ってな?無論、そこに嫌悪があるなら、もう、この話は終わりだがーー」


 ノノワールは少し考えているようだった。女性が好きな女性ではあるが自身が完全に男性と言うわけでもない。一度も考えた事は無かったが、子供を持つ事自体が嫌かと言われればーー。


「それは......別に嫌じゃないかもしれないけどさ?彼奴等に取られるのは絶対に嫌だ。もし、自分で産むなら自分で育てるし、幸せにしたいじゃん?彼奴等の元に送ったら絶対に幸せにならない。それは嫌だ」


「それは......そうかもしれんな」


 睡眠不足はある意味酩酊状態に近しいという。だから、エルフレッドは冷静であるように見えても、その実は酔払いと変わらないーー普段の彼ならば考えもしないような考えが頭を過ぎっても仕方がない状態であった。


 故にーー。


「なんと言えば良いのか......産む約束はするが方法や条件はこちらが指定するというのはどうだろうか?」


「......方法や条件を指定?例えば?」


「例えば、分家の男は婿入りさせないとか。自身と自身のパートナーは共にアルキッド伯爵家入りすることを認めさせるとか、子育てには口出ししないとか......」


 ノノワールは悩んでいるようであった。そのような条件を飲むかは微妙だが交渉の余地が全く無いと言う訳ではない。別にアルキッド伯爵家を継ぎたいわけではないが絶縁された根無し草よりは認められていた方が動きやすいのは違いない。


「それに、ここからはパートナーになる人間の気持ち次第だが......兄上の子供を産んでもらうというのはどうだろうか?」


「おい、エルちん。今日、どしたの?いや、睡眠不足のせいかもしれないけど、ちょっとヤバくない?」


 少しーーいや、かなり心配そうな表情で告げるノノワールに「いや、こう幸せ家族計画をだな......」とエルフレッドは訳の解らない事を言い始めた。


「全てはこう上手くいったとしての話だが......兄上が家を継ぐと仮定すると、その子供が継ぐ事が理想的なのだろう?ならば、パートナー側に嫌悪が無いのならば、兄上の子供を産んで貰うと後継ぎの件が解決する」


「うん」


「そして、ノノワール側は両親に条件を突きつけながらも分家筋の子供を産むという条件をクリアしているから、そこの問題も解決する」


「はい」


「無論、全ては当人達の気持ち次第だが......今の時点でノノワールとパートナーは互いに連れ子を持ったシングルマザー同士の結婚と言う訳になるよな?」


「ええ」


「そして、従兄妹同士は結婚可能。ということは万が一その連れ子同士が結婚して子供が生れたとすると家系図や遺伝子的には繋がると言うわけだ」


「......そゆことね。要は連れ子同士が結婚して子供が出来たら家系図的には繋がるし、場合によってはその子は私とパートナーの遺伝子を持ってる。みたいな?女の子限定で尚且絶対では無いけど」


 目まで痛くなってきたのか瞑った瞼をグリグリしながら「そういうことだーーうん?俺、今猛烈にとんでもない事を言ってないか?」と頭を捻るエルフレッドに「そうだね。普段のエルちんなら絶対におすすめしない話だね。でも、私、その話にめちゃくちゃ興味出てきたからさ?続けてよ?」とノノワールは怪し気な表情で微笑んだ。

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