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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第六章 常闇の巨龍 編(上)
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 ジャノバとの話し合いを終えた二人は帰り道を歩きながら、今日の話やノノワールの話をした。ジャノバに関しては明日次第だが、ノノワールに関しては次の休日がある種のタイムリミットとあってメッセージアプリ上でも盛んに議論が行われている。


「結局の所は両親の条件を飲むのか飲まないのか。飲まないとして芸能活動を続ける方法があるのか、ないのかだな」


 何度となく繰り返し話を続けていくと結局、そこに戻る。本人が飲まないとしている時点で選択肢は絞られるようにも思えるが、では飲まないとした場合、どうやって兄を救い出し、芸能活動を続けるのか?となった際の真っ当な答えがない。


 要は跡継ぎと同等、もしくはそれ以上の条件を求められるだろうが、そんな物が存在するのか?という話である。


「俺としてはノノワールの心情を優先したいが......両親の中で後継ぎという部分があまりにも決定的過ぎる。話し合いの余地がまるでない」


「私もそう思うぞ。とはいえ、こんなに早急に答えを求めてくるとは......何方にしても学園を卒業してからの話しであろう?それにまあ、両親の考えどうこうは置いておいて元来はノノワールの兄上の次の代の話だからなぁ」


「......確かにな。しかし、ここまで頑なだと分家の者を婿養子に迎え入れてでもノノワールを手元に置いておきたいのかもしれん。そこまでする理由は解らんがな......」


 アルキッド伯爵家について調べるとそこら辺が見えてくるのだろうか、と場合によっては調べる必要があるなと考えるエルフレッドだった。


「まあ、前回はノノワールが感情的になり過ぎて話し合いにならなかった部分もあるからな。もう一度、確り話を聞いてみるか......」


 そう言って前回の様子を思い出し、苦笑いを浮かべた彼に「そうだな」と微笑んだ後にリュシカは思い出したと言わんばかりに口を開いた。


「時にエルフレッド」


「うん?どうした?」


 リュシカはニコニコと微笑んでいるのだが何故だろう?その笑顔を見ていると背筋がこうゾワゾワと泡立ってくるのだがーー。


「来年の春に家出するという話が妙に具体的だったことが気になったのだが、まさか本当に家出するわけではあるまいな?」


「......ハハハ。まさかな。ジャノバさんを困らせたかっただけに決まっているだろう?」


 エルフレッドは頬を引き攣らせた。あの当時は確かに悩みの絶頂にあり具体的な話まで出ていたのは間違いない。その時に比べれば連絡を断って姿を眩ませようとまでは考えていなかった。


 しかし、何方にしても全ての問題が解決したら一旦羽休めの旅くらいはしようかな?と考えていたのは事実だ。七大巨龍を倒した土地を巡ったりしながら、自身と向き合う時間を作ることも必要だろうとーー。


 問題はそんな考えを持ってはいたものの一度もリュシカに伝えたことはなく、自身がボロを出したような形で伝わってしまったという一点に尽きる。


「ハハハ。そうかそうか。なるほどな?まあでも、その表情を見る限りでは私達の間にも話し合いが必要だと思うのだ?そうだろう?エルフレッド?」


「......はい。リュシカ様の仰る通りで御座います」


 満面の笑みながら瞳は全く笑っていない。逃さないぞ?と言わんばかりに肩を掴まれてはエルフレッドとて冷や汗を垂らす他なかった。


 先ずはリュシカの溜飲を下げ、あくまでも旅であって家出はないという部分を強調しながら説得しないとなぁ、と先程までの迂闊な自分を呪いながら、何処だか解らない話し合いの場とやらにドナドナ~されていくエルフレッドであった。













○●○●













「突然の要請に遠路遥々足を運んで頂き誠に感謝致します。ジャノバ大公殿下。我が娘レナトリーチェが望み、結んだ縁ではございますが今後とも良き付き合いとなればと思っております故に良い顔合わせとなることを願っております」


「良き縁と望んでおりますのは私も同じで御座います。リュードベック国王陛下。我が妹であるアーテルディアが繋いできたアードヤードとの国交がより良い物になることこそ、クレイランドの皇族ひいては我が帝国の願いーー良き一日となるよう尽力致します」


 複雑であろう心境を噯にも出さずにあくまでも歓迎の意を示すリュードベックにジャノバは若干の申し訳無さを感じながら頭を下げた。眼前の国王夫妻とてユリウスとの縁談をと考えていただろうにこんな草臥れたおっさんが来れば内心ガッカリであろう。


 無論、今日に限って言えば考え得る限り最高の背格好で来ているが、そういう問題ではないのは言うまでもない。


「国王陛下並びに王妃殿下。挨拶もそこそこに失礼を承知で伺いますが、何故、王女殿下主体での縁談となったのでしょうか?アードヤード王国の考え、そして、クレイランド帝国の考えは共に同じであったと私は考えております。本人の意思も大事だと思いますが両国の関係を思えば、双方の考え以上の話はなかったように思いますが......」


 この問いかけには様々な意図があった。無論、単純に興味があるのは否めないが、アードヤード王国の総意なのか、王女殿下の独断なのかを判断出来ればやりようは幾らでもある。特に王女殿下の独断ならば国王夫妻は強い味方だ。少なくとも孤立無援という状況を回避出来る。


(大体、兄貴が断れば良かった話なのに面白がって快諾しやがってーー)


 互いにユリウスとレナトリーチェの縁談を望んでいるならば、当初の予定通りに進めれば良かったのだけ話である。そして、アードヤード側からの打診があった時点で難色を示せば良かったのだ。


 それを「初めはどうかと思ったけどユリウスキープ出来てジャノバの独身問題解決出来るって家にはメリットしかなくね?」という皇帝の言葉とは思えない軽さで同意したアズラエルには殺意しか沸かない。そして、言ってる事は確かに正しいので文句も言えなかった。


 他の皇族と言えば正妃殿下及び皇太子、皇女共に無関心。公子妃となったアーテルディアは「何それ‼ジャノバ兄さん変態じゃん‼マジウケるんだけど‼」と携帯端末にてアズラエルと馬鹿笑いする始末ーー仲間など居るはずもない。


 心情を考えれば最も複雑であろう国王夫妻ならばきっと仲間になってくれるハズだと、そんな期待が彼の中にあったのは言うまでもない。だからーー。




「初めはそう思ったのですが娘の話を聞いている内に大公殿下程相応しい方は居ないのではないかと思うようになりまして......詳しくは本人に聞いていただけると有り難いのですがーー」




 そう言って微笑を浮かべる王妃殿下の言葉にジャノバは耳を疑った。


「私が......相応しいの......でしょうか?」


 思わず聞き返してしまったジャノバに「ええ......というより、ユリウス皇太子殿下は苦手な分野かなと......血とかーー」と何やら気になる言葉を呟いた王妃の言葉を掻き消すようにリュードベックは咳払いをするのだった。


(血?血って言わなかったか?今?それとも別の"ち"か?地?知?ーー)


 混乱し頭を捻るジャノバを他所にリュードベックは「総合的に考えた結果、ジャノバ大公殿下の方が相応しいと判断させて頂きました。ですので大公殿下はご心配なさらずとも結構ですぞ?是非とも娘と会って頂きたい」と微笑を浮かべた。


 ジャノバは思った。絶対に何かある、二人は何かを隠しているとーー。


「......かしこまりました。国王陛下、王妃殿下がそう言われるのでしたら私も安心して顔合わせに望めます」


 ハッキリ言って頭の中には不安の二文字しか浮かばなかったが、どうこう言っても彼等が口を割る事は無いだろう。そして、味方にならないと解った以上は言葉を並べても仕方が無い。


 明らかに取り繕った笑みで「顔合わせの準備は既に出来ております。大公殿下、宜しくお願い致します」と案内の者を呼ぶリュードベック。頭を下げた後に促されて退室しながら何がどうなっているんだ?と首を傾げるジャノバであった。

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