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エルフレッド達愛用の高級レストラン。その薔薇の間にて集まったのはエルフレッド、リュシカ、そして、ジャノバである。明日がレナトリーチェ王女殿下希望の一回目の顔合わせということで対策を話し合いたいと懇願するジャノバの為に一応、予定を合わせたエルフレッドだったが、どうやら物申したい事があるらしいリュシカが着いてきたいと言うのでジャノバ了承の元、着いてきたという様子だ。
腕を組み不満げな表情でジャノバを見詰めるリュシカ。何とも言えない表情で話を聞きながら状況を整理しているエルフレッド。そして、現状と自身の希望を話し今後の対処方法を模索するジャノバーー。
「叔父様。話は解りました。レナトリーチェ姫殿下の年齢を考えると、とても受け入れられる話ではないと言いたいのですね?ですが、あえて言わせて頂きましょうーー」
彼女はまるで世の心理を迷える子羊に教えるかの如く、堂々とした様子で言い放った。
「愛に年齢は関係ありません‼」
「......なあ、エルフレッド。もしかして家の姪っ子ちゃんは敵?」
「......みたいですね」
バーンッ‼という文字がとても似合う清々しい表情にジャノバは瞳を点にした。仲間が増えるという目論見は外れたようだった。
「大体ですね、叔父様。私が両親でしたら、こんなギャンブル好きでゲーム好きの女たらしの生活力皆無な男性に娘を嫁がせたいなんて思いませんよ?それを本人の希望だからと......ああ、麗しくも愛らしいお姫様は何故こんな悪い男に捕まってーー「あ、うん。リュシカちゃんが叔父さんのことをどう思ってるかは解ったから、とりあえず、一旦落ち着こう?もう叔父さんのライフ零だからね?」
点だった瞳が光を失っていき、全体的に存在が白くなってきている彼の横で額に汗を浮かべたエルフレッド。前菜に着けていたナイフとフォークを置いて口元をテーブルナプキンで拭う。
「そもそもですが、レナトリーチェ様はどうしてジャノバさんをと仰られているんですか?後は国王陛下、王妃殿下夫妻は何と?」
「お姫様は目が気に入ったらしい。御夫妻は......まあ、何とも。普通に考えて自分等とさして年齢が変わらないおっさんが娘の相手とか嫌だろ?"本人の強い希望なので、とりあえず顔合わせをーー"とは言ってるが、まあ、どうにかして断りたいだろうな」
「......それはそうですよ。元来、叔父様とか門前払いですから」
「えっと、リュシカちゃん?俺なんかしたかな?俺、親の仇とかじゃないよね?」
ウルウルと瞳を潤ませながら葉巻を噛んだ叔父にリュシカは「いえ。何も。強いて言うならエルフレッドを家出するように唆したりしたことですかね?ーー後、私、葉巻は嫌いですわ」と言ってプイッとそっぽを向いた。
「い、いや‼違う‼俺は相談に乗っただけでーーおい‼エルフレッド‼違うよな⁉あくまでも一般論として相談に乗っただけだよな⁉」
姪っ子に嫌われるのが余程嫌なのか、必死に弁解をしているジャノバに「そうですね。あくまでも一般論としてですね。相談の後もメッセージアプリとかで、とても具体的に三ヶ月位完全に連絡を断つと良いとアドバイスを受けましたし、学園に被らない時期が良いだろうというアドバイスは確かにと思いましたので、来年の頭辺りを予定しています。ありがとう御座います」と微笑んでエルフレッドはシャンパンに手を伸ばした。
「......叔父様?」
来年の頭といえば私結婚するんですけど?新婚ホヤホヤのハズですけど?と尋常じゃない冷気を発して睨みつけてくるリュシカに「は、はは!エルフレッドも冗談がキツいなぁ!そんな具体的な時期まで指定していないじゃないか?最近は友人関係も良い感じだって......嘘はいけないなぁ、嘘はーー」と顔面蒼白で笑いーー。
「というか‼今はその話じゃなくて俺の話だろ‼四十のおっさんが十二歳と婚約する‼字面的にも無しだろ‼二人共、マジでどうにかしてくれよ‼」
メインディッシュである牛フィレ肉のソテーに手を付けながら「確かに字面で見ると犯罪臭が凄いですね」とエルフレッドは呟いて再度シャンパンに手を伸ばした。
「それで人の新婚生活を打ち壊そうとしながら幼気なレナトリーチェ様の気持ちを弄んで楽しんでいる叔父様は、どうやって、その純粋な恋心を踏み躙るおつもりでーー「よく、そこまで悪い風に変換出来たね‼もう叔父さん、ショックを通り越して逆に感心しちゃった‼」
姪に詰められ顔面蒼白、涙目でカラカラと笑う叔父という構図を肴に暫しお酒を嗜んでいたエルフレッドは頃合いを見て口を開いた。
「助けて、と言われましても、正直なところネガティブキャンペーンのような方法しかないと言いますか......先ずはレナトリーチェ様に会って頂いて、どういう願望を以てしてジャノバさんが良いと言っているのかを知る必要がありますね。それに対して、連絡が可能なリュシカを中心に残念ながら希望に沿う方ではないと誘導していくように伝えて、気持ちを離れさせていくーーそういう方法かな?とは考えています」
勿論、本人の熱意や感情の度合いによっては協力出来ないかもしれませんが......と言葉を濁すエルフレッドにジャノバは「それでも構わない」と笑ってシャンパンを煽った。
「俺だって別に相手が本気で将来を見据えてと言うのであれば、ちゃんと向き合って話を吟味させてもらう。だがな、挨拶程度で一度もまともに話したことがないのに顔合わせだの何だのって話になると流石に違うと思うんだよ?勿論、会ってみて話を聞いてみること自体は吝かじゃねぇが相手に夢見てる年齢ってあるだろ?その時は協力して欲しいって話なわけだ」
確かに年齢柄そういう部分もあるかもしれない。とパンを囓ったエルフレッドは思う。否応無しに年上に憧れるというか、大人がカッコよく見える。そういう時期は確かにある。
まあ、それも自分が大人になった時には意外とそうでもないというか、大事なのはその人がどういう道を進んできたのかであり、年齢は所詮年齢なのだと気づかされる日が来たりするものだがーー。
「......どうでしょう?そういう部分は結構幼い時から、あんまり変わらないものですよ?年上に憧れるというよりは同世代と付き合うより良い思いが出来るから、と打算的な考えを持っている娘も結構多いですからーー若い女性だと思って甘く見ていると痛い目を見ますよ?」
リュシカの忠告めいた言葉に「だったらユリウスを選んだ方が良いだろう?長い間、良い思いが出来るし、総合的に見ても幸せだろう?」と笑えば「何も権力とか見た目の話じゃあ、ありませんよ。好きな娘にちょっかいを掛ける子供らしい好意より、優しくて甘い言葉を貰える大人の嘘の方が良いと思う娘も多いってことです」と苦笑した。
「そんなもんかねぇ......まあ、とりあえず、一回会ってみて情報収集した後だったら、二人が助けてくれるってことが解っただけで今日は大満足だわ。すまんな、急に集まってもらって」
「いえいえ。こちらとしても何らかの形で恩返し出来ればとは思っていましたのでーー力になれるかどうかは解りませんが、レナトリーチェ様の御気持ち次第では協力させて頂きます」
デザートを食べ終わり食後のコーヒーに手を着けていた彼が告げるとリュシカは「私もレナトリーチェ様次第では沢山協力出来ますしね」と笑いーー。
「ちゃんとレナトリーチェ様の気持ちが離れるように色々と教えて差し上げますから。カジノに行って報酬を全部使ったり、国賓のいるパーティーで国一番の女優とどっかに消えたり、姪の婚約者に変な事吹き込んだりーー「マイルドに‼マイルドにいこうリュシカちゃん‼そんなことばっかり吹き込まれたらクレイランドの皇族を疑われる‼というか俺が兄貴に消される‼」
ニコニコと笑いながら毒を吐き続けるリュシカを、ワタワタとしながら、どうにか宥めようとするジャノバーー。コーヒーを飲み終わり、そろそろ会計をと考えていたエルフレッドは二人の様子を眺めながら溜息を漏らすのだった。




