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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第六章 常闇の巨龍 編(上)
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26

 妙にハイテンションなアズラエルに眉を顰めたジャノバは封筒を開けると「さて、何処の何方でしょうかねぇ......」と写真を眺めてーー。


「......兄貴」


「うん?どした?」


 ニコニコとした表情のまま何か問題でもあったか?と言わんばかりに聞き返すアズラエルにジャノバは写真を見つめたままーー。


「俺の好みのタイプって言ったよな?」


「ああ、言ったな」


「俺の目がおかしくなければ十代前半にしか見えない少女が映ってるんだが?」


 それを聞いたアズラエルは「おう!ピチピチだろ?」と笑った後にーー。




「あんだけ綺麗な女性達を侍らせておいて結婚しないからさ、俺、思ったんだよね?うちの弟、実はロリコンじゃね?って」




 驚愕の表情でアズラエルを見た後、暫し考える様な素振りをしたジャノバは「なんだ。そう言う事か......」と呟き机の上に写真を置くと目元を隠しながら大笑いし始めた。


「はっはっは!兄貴、冗談キツイぜ!こういうのはロリっていうんじゃなくてペドって言うんだぜ!犯罪だぞ犯罪!いや、全く!俺が政務で疲れてるだろうからってこんな冗談持って来るなんてなぁ!マジでやってくれるぜ!」


 手を叩きながらハッハッハーーと笑い続ける彼にニコニコとした表情を浮かべたまま無言を貫くアズラエル。その妙な雰囲気に彼の笑い声は徐々に小さくなっていきーー真顔になる。


「......冗談だよな⁉︎こんな縁談ありえないよな⁉︎」


「いや、マジもマジ。相手も相当お前のこと調べてるみたいだぞ?自分が十八歳になるまでの女性関係には一切口は出さないって、謂わば浮気公認っていう破格の条件まで出してきてる訳だからな?女ったらしだと解ってて縁談組もうだなんて!くぅ〜!愛されてるぅ〜!」


 ジャノバの肩をバシバシと叩きながら、逆にハッハッハーーと笑い始めたアズラエルに「いやいやいやいやい!駄目だろ⁉︎というか、大人として真に受けたら駄目な奴だろ⁉︎」とテーブルを叩きつけるようにして立ち上がった彼は焦った声で訊ねた。


「というか、兄貴断ったんだよな⁉︎」


「......うん?何を?」


「この縁談だよ!このえ・ん・だ・ん!無理だろ!どう考えたって!常識ぶっ飛んでるぞ!大体この姫様が十八歳の頃って俺もう五十手前じゃねぇか⁉︎」


 口から唾飛ぶ勢いで捲し立てるジャノバを手で制したアズラエルは満面の笑みを浮かべながら親指を立てるとウインクをしてーー。


「そりゃあ、もうバッチリ‼︎」




「......だよなぁ。バッチリーー「顔合わせの約束しちゃいました〜‼︎いえーい‼︎パフパフ‼︎」




「なんでだよ⁉︎全然バッチリじゃねぇよ⁉︎公務のし過ぎで頭おかしくなっちまったんじゃねぇか‼︎」


 怒りを隠せないジャノバに対して「可笑しくねぇよ!お前こそちゃんと見てから言えよ!見覚えあるだろ?このお姫様!」と机に置かれた写真を彼の眼前に突き付けた。


「見覚えってーー‼︎そういう問題じゃ......ね......ぇ?」


 目を細め、繁々と写真を眺めたジャノバは焦ったような表情で写真を引ったくり顔を近づけた。見覚えがあるーーどころでは無かった。そして、アズラエルが断らなかった理由も理解した。その様子を呆れた表情で眺めていたアズラエルは「お前さぁ。ゲームのし過ぎで目が悪いんだから、ちゃんと魔力で強化するか、眼鏡つけるかしとけよ?」と溜息を漏らした後にーー。


「断れる訳ねぇじゃん?折角、家の妹ちゃんが婚約して国交正常化したっていうのに年齢だけを理由に断るなんて、んな馬鹿な話あるかっての!はぁ〜あ、家のユリウスの嫁候補最有力だったのに......マジで。なんで、こんなおっさんを選んじゃったのかねぇ......」


 やれやれと肩を竦めるアズラエルの前でジャノバは項垂れるようにテーブルに手を着いた。


「こ、断る方法は?」


「あ?あっちは大国のお姫様だぞ?お前は大公。断る方法なんてある訳ねえだろ?相手がやっぱり違ったってなれば話は別だけど」


 ガックシと肩を垂れて椅子に凭れ掛かるようにして座ったジャノバに対してアズラエルは「あ、そうそう」と付け足すように言うのである。


「嫌われようとかして失礼な真似すんなよ?そんなことされて家との国交に皸でも入ったら洒落になんねぇし!何たって相手はーー」




「レナトリーチェ=セインティア=アードヤード王女殿下。アードヤード王国、唯一のお姫様なんだからな?」













○●○●













 ノノワールを宥めて話し合いを進めたものの思いの外良い案は生まれなかった。時間だけが過ぎていき、明日に影響が出そうであった為、次の休みにしっかりと話し合いをする約束をして解散ーー終始浮かない表情であったノノワールを不憫に思いながらも現状どうしようもなく、打開策が見当たらない現状に頭を悩ませる他なかった。


 エルフレッドは一人にするのは忍びなく思えてノノワールと共にいようと考えていたが「妾達が理解しててるからってぇ、流石にお泊まりするのは難しいだろうからぁーー」と率先して一緒に居てくれるというルーミャに任せて部屋の片付けをする事にした。


 女性陣、皆がノノワールの付き添いで部屋を出て行く中でアルベルトが片付けを手伝ってくれたこともあり、夜の鍛錬の前に一息吐く時間が出来る。


「手伝ってくれて助かったぞ?」


 時間も遅くなった事だしディナーでも......となった時も率先して手伝ってくれたのはアルベルトだった。それに対して感謝の念を抱いたエルフレッドが礼を告げればーー。


「いやいや、いつも任せっきりになってしまってるからね。本来なら僕らが感謝しないとーー」


 そう言って微笑むアルベルトに「まあ、それでもな?」と笑って茶菓子を出した。


「準備が良いね?有難く頂くよ。それにしても、この前、リュシカさんに上げていた昇格祝いの小刀ってーー」


 暫し二人で談笑し、頃合いを見て解散ーーそろそろ訓練に行こうか、と考えていた時だった。


 ブーブー。


 バイブレーションにしていた携帯がメッセージ到着の知らせを告げた。


 ノノワールの件があったので付き添いに行った誰かだろうか?とメッセージアプリを開いたエルフレッドは差出人を見て少々驚いた表情を浮かべた。


(ジャノバさん?珍しいな。最近はクレイランドの公務で忙しい筈なのに......)


 とはいえ、以前よりSランクの集まりや個人的に相談に乗ってもらった恩人である為、連絡が来たこと自体は素直に嬉しい。そう思ったエルフレッドはメッセージを開いて眉を顰めた後に「暇だからってこんな手の込んだ冗談を送って来て......」とあからさまな溜息を漏らした。


『このままだとレナトリーチェ殿下と結婚させられちまう‼︎』


 というメッセージの後に証拠写真というタイトルの画像ーーお見合い写真風の王女殿下の写真が貼り付けられたメッセージまで届いたのを見てはエルフレッドも呆れざるを得なかった。彼は何と返信したら良いのか、と悩んだ挙句ーー。


『はいはい。わかりました。面白い冗談でしたよ?こんな写真まで作って......盗撮ですか?今度からはジャノバさんの事はペドバさんと呼びますね?』


 こんな時間にーーしかも、こっちはノノワールの件で頭を悩ましている時に能天気なギャグを送って来るなんて間が悪い......とエルフレッドは呆れ返った気持ちを全面に押し出したメッセージを返信した。


 ブーブー、ブーー。


 返信が早いな。と思って携帯を見ると着信である。当然、連絡して来た相手はジャノバだ。エルフレッドは眉を潜めながらも画面をスライドしてーー。


「もしもし、ジャノバさん。すいません、ちょっと今冗談に付き合う気力が無くてーー「違うんだ!エルフレッド!俺だって冗談だと思いたいんだ!だけど、これマジなんだ!マジで送ってきたヤツなんだ!」


 どうも思っていたのと様子が違うなと困惑するエルフレッドの耳にジャノバの悲痛な叫び声が響くのだった。




「今日、兄貴ーーアズラエル陛下が持ってきたんだ!破格の条件付きで縁談の話が着てるって!このままだとマジで結婚させられちまう!このままじゃあ、俺はマジでペド扱いだ!助けてくれよぉお!エルフレッドぉお〜!」

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