表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第六章 常闇の巨龍 編(上)
345/457

24

 本人が予測していた通りノノワールとアマリエ先生の面談が遅くなっている中で学園生用のサロンに集まった皆はエルフレッドからの現状を共有し始める。


 ルーミャに話した全国大会終了時の出来事と新たに本人から得た現在の状況ーー本人不在の中では話し合い自体難しい内容ではあったが怒りを覚える友人達の冷静さを取り戻す時間としては丁度良い場と言えた。


「ーー迂闊だった。まさかアマリエ先生がパパに突っ込んで来るとは思わなかった」


「まあ、考えてみればアマリエ先生の反応が普通だろうな。結果的に本人から今の状況の概要を聞き出せる時間に当てられたから俺は良かったと思っているがな」


 思ったより遅い時間での話し合いとなったのはイムジャンヌとアマリエの二者面談が長引いたからである。アルドゼイレンとの婚姻は知っているものの子供の有無にはついては初耳だったアマリエは進路調査表の内容を見て大いに驚き混乱した。


「そのだな。イムジャンヌ君。卒業時、一児のパパと言うのは......その妊婦という事ならば学園側も配慮が必要になるが?」


 ここで巨龍の生態を上手く説明出来る生徒であれば良かったのだが口下手なイムジャンヌがーー。


「違います。アルドゼイレンが私の子を産みます。パパになります」


 とバッサリ答えたものだから混乱は更に深まった。生真面目なアマリエが自身の常識から解放されイムジャンヌの状況を理解するまでに長い時間が必要になったのだ。


 その間にノノワールを廊下に呼んだエルフレッドが現状を確認し今に至る。


 微妙な表情を浮かべながら「妾達はアルドゼイレンから説明を受けていたから常識のように考えてたけどニャ。今後はちゃんと考えてから話した方が良いかもミャア」と呟いたアーニャの言葉こそが皆の総意である。


「その件はそれで良いけどぉ。問題はイムイムの件よ。自身達の意見が受け入れられないからって何なの?あんなの脅迫みたいなもんじゃん!」


 ピーンと逆立った耳で怒りを露わにしながらルーミャがカリカリとテーブルを爪で掻く。


「気持ちは解るけど抑えるのだ。テーブルに傷がつく」


 冷静に言いながらも険しい表情のリュシカ。行動には出さないが気持ちは彼女と一緒であった。


「ノートに板書した内容を要約すると......"協力しないなら事務所に圧力を掛けて辞めさせる"。"ノノに協力的な兄を家から追い出す"。要は人質取った上で脅迫しているみたいな感じだね」


 溜息を漏らしながら「これは中々ーー」と肩を竦めるアルベルトの言葉を聞きながら「ライジングサンなら家族でも即裁判ミャ」とアーニャは肘をついて紅茶に口をつけた。


「とはいえ実際の所、人質はあまり意味をなさないだろうけどミャ。ノノワールの兄上は機能不全っぽいけど体外受精なら問題なさそうだしニャア。ノノが拒絶した場合、兄上まで追い出したらアルキッド家は分家だよりになるだろうからミャ。そこは完全に口だけの嫌がらせの類ミャア」


 自身が性欲皆無であるイムジャンヌが「それだったらノノ兄の婚約者に理解があれば良いだけの話じゃないの?」と言えば「それはそうだけどミャ。出来損ないとまで言うくらいの親だから外に出すのも恥だとか思ってるんじゃないかミャア」と苦笑する。


「ーー要は完全に親の都合じゃん‼アッタマくる本当にぃ‼どうせアレでしょ?ノノが思った以上に才能に溢れてたから惜しくなったんでしょ?家の跡継ぎに相応しい才能だとか考えてんでしょ?バッカじゃないのぉ‼」


「流石にノノワールの両親の気持ちまでは解らんが......考えてそうではあるな」


 手で落ち着くようにジェスチャーしながらもエルフレッドはルーミャの言葉に同意を示した。自身の常識から外れた性別や機能不全を恥と捉え、高い才能や適正については誉れだと考えるような両親である。その可能性は十分にあった。


「とはいえ、アルキッド伯爵家はアードヤード内でも有数の伯爵家である上に外交官としては非常に優秀だ。それに貴族では大きな問題になりやすい跡継ぎの問題が絡んでいる。手段はあまり褒められたものでは無いが、あくまでも家の問題と言われると外部から手を出しにくいのは間違いないだろうな」


 個人の感情としての部分とは別のところに問題が生じているとリュシカは難しい表情のまま言う。やり方や精神面、友人としての感情については皆と同様に怒りを感じているのだが、個人感情のままに手を出せる案件かと言われれば非常に難しいと言わざるを得ない話だ。


 安直に家の力を使ってどうこうすれば、後に別の問題が発生するのは目に見えていた。


「それについては妾も大いに同意ミャ。ライジングサンの王女としてライジングサン内で行動を起こすならまだしも、他国から嫁いで来た王太子妃がアードヤードの名門伯爵家の家庭問題に口を出したと、いちゃもんつけられるとミャ。どうにか個人的な解決策を見付けないとニャア」


 無論、駄目な時は何でもやるがと扇子を取り出し、自身の掌を打ったアーニャの横でルーミャが「それならいっその事、妾が侍女として連れ帰ろうかなぁ」と真剣な表情で呟いた。


「それは......どうなんだ?いや、ノノワール次第な気もするが、卒業まで期間があり過ぎる上に直接的な解決にはならんだろう?事務所の問題もある」


「まあ、そうだけどぉ。最悪、それも考えて貰った方がノノの為になるかなぁって。最終手段的な感じでさぁ」


 空調を暑く感じたのか扇子で扇いでいたアーニャが「妾はそれをした場合のノノとルーミャの関係性が心配ミャ」と呟けば「......それはそれぇ。これはこれぇ」とルーミャは視線を逸しながら言うのであった。




「......みんな」




 か細く元気の無い声にサロンの扉の方へ顔を向けると、そこには見るからに肩を落とすノノワールの姿があった。


「ノノワールーー「エルちん。私だって解ってるよ?これでも一応伯爵令嬢やってたから?アマリエ先生がどんなに協力するって言ってくれたって家の問題として片付けられたら解決するのは常識的に考えて難しいってことくらいさ......家庭訪問して話し合うから早まった真似はするなって......でもさ、家庭訪問で理解してくれるくらいなら初めからそんなこと言わないと思わない?常識的に考えて......」


 力無く笑い空いている席に座った彼女は疲れ果てたようにテーブルに突っ伏した。丁度同じ問題に直面していた彼等も何て声を掛けたら良いのかと視線を彷徨わせ、顔を見合わせるのだった。


「......ノノ。妾達も一緒にちゃんと考えるからぁ、そんなに気を落とさないでぇ?」


 隣に座るルーミャが悲痛な表情を浮かべながらノノワールの頭を撫でる。それでもされるがまま、何の反応も見せないノノワールに皆は悩ましげな表情を浮かべる中で突然、彼女はムクリと顔を上げーー。




「もう、ぶち[ピー]かな?」




 皆はノノワールの方を振り向いた。どうやら据わった瞳で半笑いを浮かべる彼女の中で個人的な解決方法さんの侵略を続けた結果、常識さんがお亡くなりになったようだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ