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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第六章 常闇の巨龍 編(上)
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「まあ、アーニャ殿下の言う事も解るけど本気で成りたいものが決まっているものと違うなら書いてもいいとは思うけどね。例えば、僕が本気で花屋に成りたいって思っていているならば、きっとアマリエ先生は相談に乗ってくれるだろうし」


 ”魔法研究所副所長(法衣ながら子爵家当主を兼任予定)”と書きながらアルベルトが告げる。確かに自身が成りたいものと決められたものが違うと真剣に悩みながら書いたのならばアマリエは相談に乗ることを惜しまないだろう。


「まあ、そうだな。とはいえ、ここにいるメンバーに関しては余りそういうことはなさそうだな。いや、もし本当に悩んでいるのならば先生にも相談した方が良いだろうし、ここにいるメンバーは協力することを惜しまないから是非相談して欲しいものだが......」


 真剣な表情で”バーンシュルツ家当主(引き継ぎ次第、特Sランクでは無くなる予定)”と書きながらエルフレッドは友人達を見渡した。


「うーむ。あまりそういう話は聞かないなぁ。というか、私は更に将来の事を相談しても良いと思っているぞ?例えばバーンシュルツ領で当主兼任で教師をするという話も、もし本当に考えているならばアマリエ先生程相応しいアドバイスをくれる人は居ないだろうからな」


 ”バーンシュルツ家夫人(卒業時の爵位不明、先生の夫人となってからの活動歴を聞きたいです)”と書いたリュシカが進路調査をアドバイスの場として考えている事を皆に伝えれば「それは良い考えミャ♪妾も王太子妃ながら軍事関係にも携わっているから先生のアドバイスは有益ニャア」とアーニャは賛同を示し、備考欄を埋め始めた。


「となると唯一アマリエ先生に反対されるかもしれないのは私かな?エルニシア先輩は頑張っているけど未だ正規の騎士団じゃないから、やることは冒険者兼実技指導員みたいなものだし」


”聖国騎士団ヴァルキュリア(仮)に所属予定(結婚の関係で聖国入りは決定している。卒業時一児のパパ)”と書きながらイムジャンヌが言えば「流石に反対はしないと思うぞ?というより、反対のしようがないからな......アルドゼイレンがアードヤードに来れるなら話は別なのだが......」とエルフレッドは腕を組みながら唸り声を上げるのだった。


 暫し、皆が未来について話している中である意味で最も仕事が確定している筈の友人が、何故か進路調査票を前に動きを止めているのである。


「あれぇ?ノノ、どうしたのぉ?」


「......あ......ルールー......えっと......」


 舞台女優としての地位を確立し、将来は大女優になると言い続けてきたノノワールが此処に来て、非常に悩ましげな表情を浮かべているのだ。


「あ、ごめん!何だか決まってて然るべきみたいになってたね!別にノノワールさんが決まってないから問題ってことじゃないんだよ!普段はそんな感じだったからついね?言いづらい雰囲気になったよね?」


 眉尻を下げて申し訳なさそうにしているアルベルトに「ううん。アル。私の気持ちは変わってないんだけど......ちょっと家の問題がね......アマリエ先生に相談した後に皆に相談しようと思ってたんだ......」とノノワールは心底辛そうに言った。


 エルフレッドは”家の問題”と聞いてあからさまに表情を固くした。思い出されるのは闘技大会全国大会の日ーー、寂れた公園で精神的に追い詰められた結果、死んでしまおうかと悩んでいた彼女の壊れたような表情と何も映さぬ瞳が頭を過ぎったからである。


「ノノワール......もし辛いならば俺からある程度説明しておくぞ?」


 心底心配するような表情で告げるエルフレッドに「うん......基本的には自分で話すつもりだけど......結構状況が良くないからアマリエ先生との話が長引くかも......あれだったら全国大会の時にあった事だけでも話してもらって良いかな......皆に内緒にしてたみたいになっちゃったけどーー」と言って”女優業(但し家庭問題により面談を強く希望)”と書いた彼女はトボトボと教壇へと向かっていった。


「全国大会の日......そう言えば何か相談に乗っていたと言っていたな?そんなに深刻な問題だったのか?」


 彼女の尋常ならざる様子にリュシカが眉を顰めればエルフレッドは「まあ、極力人に聞かれない方が良い話ではあるな。別に皆に話すこと自体を躊躇った訳ではないが、あのまま終われば妙な心配を掛けずに済むとノノワールが言うものだから何も言わずにいたんだ。残念ながら、そう上手くいかなかったようだ」と溜息と共に告げるのである。


「そっかぁ。まあ、確かに絶縁している筈の家が関わってるってなったら簡単な問題な訳ないしねぇ......うん。ねぇ、皆、書き終わってたらプリント貰っていい?他の生徒には悪いけど、ちょっと妾達の面談を優先して終わらせてもらって別の教室とかサロンとか使えないか相談してくるからーーあ、エルフレッド。ちょっと廊下で先に話聞いていいかな?先生説得するのに必要だと思うから」


 事態を重く捉えたるルーミャがテキパキと行動を始める。プリントを集めて「落ち込んでいるノノワールの件で深刻な話があるそうです。内容を知っているエルフレッドに確認後、先生のお時間を取らせるかも知れませんがよろしいでしょうか?」と告げた後、何事かを本人に確認しているアマリエに廊下に出る許可をとった彼女はエルフレッドに手招きをして廊下の方へと出て行った。


「んで、エルフレッド。ノノの話ってどんな話なの?」


 廊下に出るなり真剣な表情で告げるルーミャに「実はーー」とエルフレッドはあの日の出来事と共に問題になっている部分を説明し始めた。


 兄の生殖機能に問題があると解るや否や家の為に子供を産むことを強要されたこと。


 そして、性別に全く理解がなく、子供を産むなら許容するなどといった言い方をされて大きく傷ついたこと。


「ーー以前、親に恨みを抱いているといった話を加味すればどれだけ彼女が辛い思いをしたか解ると思う。実際、俺が連絡に気付かなければ今頃ノノワールは居なかったかもしれない」


 苦悶の表情で告げるエルフレッドを前に信じられない話を聞いたと頭を抑えたルーミャは「待って。今、怒り抑えてるから、本当にキレそう」と身体を震わせた。


「こんなことを言うと女性陣を傷付けてしまうかもしれないがノノワールから見た時に皆が友人で有りながらも異性であるという部分が大きくて言いづらかったというのもあるみたいなんだ。本人に自覚があるように惚れやすいからな。手を差し伸べられれば依存してしまうと何処か遠慮があるみたいなんだ」


「そうだよねぇ......でも、それを加味しても皆に相談したいくらいに事態は悪化してしまったってことだよねぇ......本当、どういう神経してたら自分の子供にそんなこと言えるのよ......」


 ルーミャは暫し怒りで思考がごっちゃになっているようなーーそれを整理するような仕草を見せていたが「ありがとう。アマリエ先生ならきっと私達の話し合いの場が必要で有る事を理解してくれると思うから私の面談の時間を使って詳しく説明してくる。その間にエルフレッドは皆に説明して欲しいから頃合い見て廊下に皆を集めて説明してくれるかな?」と確認するように言った。


 無論、異論のないエルフレッドが二つ返事で答えればルーミャは「んじゃ、そうゆう感じでーー私は早速アマリエ先生の所に行ってくるから」と若干荒々しく教室の戸を開くと足早に教壇へと向かっていった。遅れるようにして教室に入ったエルフレッドは戸を閉めると皆の所に向かう。ルーミャが面談の為に用意された部屋へと移動する頃合いを見計らって彼は皆を集める。


 深刻な事態を想定され面談の順番が最後になったノノワールが机に突っ伏すのを心配そうな表情で眺めながら皆は廊下へと向かうのだった。

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