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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第六章 常闇の巨龍 編(上)
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 リュシカのSランク昇格は大々的に世間を賑わせた。


 元より才能ある存在と言われていたリュシカであったが、真実の愛だけを望んで生きてきた彼女が個人で功績を残すような事は今までなかった。それ故に才能を惜しむ者が多かったのだ。


 中には面と向かって言わないが宝の持ち腐れだと鼻で笑うような者もいた。そのような者達はこの結果を見ても"あれだけの才能を持ちながら冒険者など"と嘲笑ったが要はただの嫉妬である。


 誹謗中傷を繰り返すだけのアンチは何をしてもアンチーー自身が気に入った結果になるまで同じ事を繰り返すだけの存在であれば気にした所で仕方が無いのである。


 Sランク昇格試験でのイレギュラーの影響が無いかの確認の為に検査入院ーー病院のベッドの上で自身に対する称賛の記事が書かれた記事を読みながらリュシカは溜息を吐いて、それを机の上に投げた。


 両親やエルフレッドには大層心配を掛けてしまった。聞けば、あの常闇の巨龍ウロボロスが仕掛けた策だったそうだが、まんまと嵌まった上に、現実世界に戻るなり即座に意識を失ってしまったことが原因で一時はギルドの責任問題にまで発展仕掛けた。


 無論、全くお咎めなしとはならない。相手が相手であり、狙いがエルフレッドの周りや自身であったことからも解るだろうがギルドばかりに責任があるとは言えない。とはいえ、試験の魔法石を操作され、試験を受けた者を危険に晒したというのも事実だ。


 寧ろ、全く責任を取らないという選択肢を取ることの方がギルド側にとっても都合が悪い。不手際の部分は不手際として認め、謝罪し、互いに譲歩しあった方が上手くいくというものだ。


 結果的にリュシカのそれは精神・肉体的な疲労と魔力の欠乏のみで大きな問題に発展することはなかったが、心労を掛けたことに変わりはない。


 共にいながら守れなかったとエルフレッドが両親に謝罪を入れたという話も聞いた。状況が状況だけに両親もそれを責めることはしなかったそうだが彼の悔やむような表情に胸を痛めたという。


(負担を減らす為に戦ったというのにそのような表情をさせてしまっていてはなぁ......)


 隣に居て相応しい理想の自分になるというのは熟難しい事だと思わざるを得ないリュシカであった。


 窓の外から差し込む太陽の光と青空を眺めながら、暫し思考を止めて黄昏れる。春の少連休も後二日程で終わる。その事に何かを思うわけではないがーーまあ、迷惑を掛けた人々に何かを返せたらと考えるリュシカである。


「......ん?」


 窓の外を眺めていたリュシカは目の端に黒い点が見えたような気がして目を細めた。そして、徐々に大きくなっていくそれが何なのかに気づいた後に少し驚いたような表情を浮かべた。


「アルドゼイレン?それに皆?」


 迫って来るのはアルドゼイレン含む友人達。そして、愛する婚約者エルフレッドの姿である。楽しそうにワイワイガヤガヤしながら、こちらに向かって来る様に何が何やらと混乱したリュシカだったが、どうも目的地はこちらのようなので彼女は窓を開けることにした。


「おお‼どうやらタイミングが良い事に目を覚ましているようだ‼」


 バサリバサリと羽ばたきながら、とても嬉しそうにしているアルドゼイレンに首を傾げながらもリュシカは窓越しに皆へと声を掛けた。


「どうしたんだ?皆して病室まで来るとは......」


 困惑した表情を浮かべるリュシカに最近にしては珍しく友人達の集いに参加しているアーニャが満面の笑みで言った。


「どうしたもこうしたもないミャ‼特Sランクのエルフレッドを除けば最年少でのSランク達成の快挙‼そして、現在の世界において四人目のSランク誕生を祝い来たのミャ♪」


「そゆことぉ♪しかも、今日退院だって言うからさぁ、いっその事皆で何処かに行こうかって話になってねぇ!後で迎えに来るって言うついでの御見舞みたいなぁ♪」


 楽しげな表情で告げる双子姫を見ながら溜息を漏らしたエルフレッドは「一応、止めたんだがな。検査入院とはいえ退院して直ぐに連れ出すのはどうかと......まあ、言い出したら聞かん奴らだからなぁ。すまん」と苦笑した。


「祝いたい気持ちは解るけど私も反対派。身重のアルドゼイレンまで連れ出すのはパパとして複雑」


「もうイムイムったら〜♪すっかり心配症になっちゃって〜♪アルドっちも全く問題無いって言ってたじゃん♪」


 身重と言われてアルドゼイレンのお腹の辺りを見ると心無しかぷっくりと膨れているような気がする。


「先ずは卵が出来て中が生成されていく......その元が魔力とマナなんて......巨龍って何でこんなに研究者を悩ませるんだろう?」


「しかも魔力は微量の血液とマナ原子で作られてる訳じゃん〜?それがどうなって形になっていくのかーーぶっちゃけ中身取り出して確認してみたいよねーー痛っ‼じょ、冗談だって‼冗談だから打たないで〜‼」


「体を動かすのは良いが、流石に中身を取り出されるのは我とて困るぞ‼」


 グワッハッハ‼と笑うアルドゼイレンの上で瞳をカッと見開いたイムジャンヌがメルトニアに襲い掛かっている。そんな様子を止めるなり、笑うなり、呆れるなりしている皆を見ながらリュシカはフッと笑いを零した。


「んニャ?リュシカ?どうしたミャ?」


「いや、少し悩み事があったんだが皆を見ていたらすっかりどうでも良くなってしまった。今は昼頃に退院するのが楽しみで仕方が無い」


 言ってしまえば完全に悩まなくなることは無いだろう。納得するかどうかは自分次第だ。周りの評価ではない。ーーが、少なくとも自分の周りを彩る友人達はこうして心から自身の功績を讃えて認めてくれているのである。


 その事実に比べれば自身の納得など二の次、三の次で良い。少なくとも今こうして楽しもうとする瞬間は捨て置くことが出来ると彼女は思った。


 柔らかな表情を浮かべるリュシカを見ながらアーニャは顎下に曲げた人差し指を置いて思考した後、コテンと首を傾けながら笑った。


「それなら良かったミャ♪退院までゆっくり休んで一杯遊ぼうミャ♪」


「ああ、そうしよう」


 微笑みあって話している二人の穏やかな雰囲気の中に元気で明るい声が飛び込んで来る。


「さ〜て♪ルールー♪今日の行く先は〜♪」


「妾が修行で行けなかったバーンシュルツ領ぅ♪」


 イエ~イ‼パフパフと盛り上がっている二人を「お前達は事ある毎に来訪したがるよな?」と白けた視線を向けるエルフレッド。


「また、エルフレッドを困らせるような真似をして......」と呆れた様子で溜息を漏らすリュシカに「実はそうであってそうじゃないミャ」とアーニャが耳元に顔を近付けた。


「今日のバーンシュルツ領訪問は妾の外交的な意味もあるのミャ。ただエルフレッドにはああ言った手前、中々言い出せないでいるけどミャア」


 そう言って苦笑するアーニャを見てリュシカは目を丸くした。


「アーニャ。それってーー」


「まだ、確実じゃないミャ。でも、確率は極めて高まったニャア。だから、謝罪訪問みたいなものミャア。本当に色々迷惑を掛けたからミャア」


 リュシカは「そうか。まだ確実ではないにしろ......良かった。本当に良かった」と目を細めて微笑んだ。


「何だかんだエルフレッドには頭が上がらなくなるように仕組まれているようで癪だけどミャ。今回は素直に反省するミャア」


 彼女はそう言うと「そういう事だから今回はあまり二人を責めないで欲しいのミャ。妾に気を遣ってるのミャア」と続けてウインクをしながら距離を戻した。


「まっ、そういう事だからミャ♪リュシカ、また後で迎えに来るミャア♪」

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