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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第六章 常闇の巨龍 編(上)
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18

 燃え盛る炎がレディキラーを焼き払った。倒れ込み、そして、不自然に消滅した姿を眺めてリュシカは魔法を解いた。


「これで終わりだな」


 思った以上に簡単に突破してしまったせいか不完全燃焼な感覚は否めないが時にトラウマに体が拒絶反応を示し、痛みなどを発することがあった中で五感上はレディキラーと同質の存在を倒したのだ。この経験は自身を強くしたに違いないと彼女は思った。無論、完全に克服出来たかと言われれば疑問符を浮かべる他ないが、少なくとも試験を受ける前よりは耐性がついたには違いない。


 何はともあれ、試験を終えたのだから早くこの場所から出たいというのがリュシカの今の気持ちである。痛みや苦しみなどの直接的な何かがある訳ではないのだが、この場所が彼女にとって嫌な場所であることに何ら変わりはなかった。


 少しでも早くと願うからか中々訪れぬ目覚めに少し焦燥感を覚えたリュシカだったが全身を走り抜けるような悪寒を感じて意識を改めた。




「あ、あ、お、おで。こ、ここ何処?」




 その声は最も聞きたくない声だった。斬り倒した筈なのに立ち上がった其奴はーーいや、見た目が少し変わっている。消滅したそれと比べて更に筋肉が膨張し、見た目が化け物じみた物になっている。そして、先程までの()()に感じていたものとは違う圧倒的な嫌悪感と手足が凍り付くような感覚は目の前の存在が何者なのかを如実に表していた。


 何故、どうしてーーと混乱し、 身動きが取れないリュシカを見てレディキラーはニタリと口角を上げた。


「お、おまえ、女。おで、おまえ、知ってる」


「覚えていると言う事か?私は忘れた日はない。そして、二度と会いたくなかった」


 震える身体で曲刀を構え直し、リュシカは炎を滾らせる。そうでもしないと心が折れてしまいそうだった。声を聞いただけであの日の恐怖が蘇り、強い拒絶反応を示しているのだ。


「お、おまえ、壊れない。おまえ、邪魔する。お、おまえ、邪魔」


 子供ながらに聖女の力を持って女性達を回復したことを言っているのだろう。そして、自身も回復魔法で癒して結果的に無傷であったことが、この凶悪犯にとっては苛立たしくあり、それでいて邪魔で仕方が無かったようだ。ただ、壊れていないというのは間違いだ。あの日、未来に訪れるであろう幸せな生活を夢見ていた無垢な少女は確かに壊れてしまった。


 その先に今という幸福があっただけの話だ。それを知らずにーーそう思うとリュシカは感じていた恐怖と堂々の怒りを覚えたのである。


「あの日の借りは返させて貰うぞ‼︎」


 滾る炎は黒となり、怒りの赤と混じりて強大な熱と化した。何が起きたかは解らないが閉じ込められ、会いたくもない存在と時間を共にしないといけないことは決まったのだ。ならば解決の糸口が見つかるまでは戦うしかない。リュシカは曲刀に炎を纏い、牽制するように突き出した。ニタニタと気味が悪い笑みを浮かべるレディキラーに心の底からの嫌悪と恐怖を感じながら立ち向かう決心をしたリュシカだった。













○●○●













 黒の闇に包まれた試験の部屋でウロボロスと相対するエルフレッド達。この蛇の言う見世物とは碌でもないものと決まっている。試験に使われる魔法石が黒に染まっているのを見て「魔法石に細工を......一体どうやって......⁉︎」と驚愕の表情を浮かべる受付嬢を見れば、その碌でもない行為が自身の愛する婚約者を対象にしたものだと理解出来るエルフレッドは怒りに染まった表情を見せた。


「貴様‼︎何が目的でこんなことを‼︎」


 暴走するかのように巻き上がる風に皆が目を細める中で薄気味悪い笑みを深めたウロボロスは「知れたことよ」と嘲るように笑いーー。


「我が目的の為......この人族の姫は邪魔な存在故に消えてもらわねばならん。ただそれだけのことーーさりとて、こうも強固な結界の中とあっては俺も手の出しようがない。故に少々手を加えさせてもらった」


 朗々と語るウロボロスに怒りの風を撒き散らすエルフレッドは低い声で問う。


「手を加えた?一体何をした‼︎」


 怒気を孕んだ声を聞けばきく程に愉快だと言わんばかりの表情を浮かべるウロボロスは闇の魔力を高めながら言う。


「この姫はどうやら偽物では満足出来ないようであったからなぁ。俺が()()()()()しただけの事。なんと言ったかなぁ。お前達はあの存在をーー」


 勿体振るように態とらしく考える素振りを見せた後に黒紫の笑みは思い出した風を装いながら告げた。


「そうだ!お前達はあれをレディキラーと呼んでいた‼︎人間の雌を壊す、醜きあの存在を‼︎この姫もあの者のことを求めていたのだろう‼︎」


 瞬間、エルフレッドはウロボロスへと斬りかかった。トラウマを乗り越える為に試験を受けると震えながらに部屋へと向かったリュシカをトラウマの原因と引き合わせた。その事実はエルフレッドが激昂するに十分なものであった。怒りに燃えるエルフレッドの魔力が大半の魔法を遮断出来る試験の部屋の結界に悲鳴を上げさせる。


「おお‼︎怖い怖い‼︎人族の英雄と聞いていたから聖人のようなイメージを持っていたが、これでは悪鬼羅刹の様だ‼︎」


 あくまでも嘲るような口調で続ける蛇の頭上を大剣が通り過ぎる。


「黙れ。そして、死ね」


 あまりにも強大な魔力故にギルド員の誰もが近づけぬ中で蛇とエルフレッドは攻防を繰り返す。いや、それは一方的に攻撃し続けるエルフレッドと挑発しながら避け続けるウロボロスという構図が延々と続くのだ。


「さて、そろそろ頃合いか?人族の姫はどんな様子かな?」


 あくまでも余裕の態度を崩さないウロボロスが闇の魔力を噴出させれば、彼等の頭上辺りに魔力で生成されたスクリーンのようなものが現れる。


「ーーリュシカ‼︎」


 映し出されたのは紛れもなくリュシカとあの時、エルフレッドが取り逃がした姿のレディキラーである。実力的にはリュシカの方が圧倒的に上な筈だが、あの姿を消しては瞬間的に移動する能力とコンディションの悪さでとても苦戦している様子が映し出された。


 奴の手がリュシカの腕を掴むと青白い顔色をした彼女の顔色は更に血の気を失い、吐き気を催す前の人のような状態になっている。ゾワリと震えが走り「私に触れるな‼︎汚らわしい‼︎」と白炎と共に追い払っているが、とても戦える状態には見えなかった。


「中々に粘るなぁ、大層酷い目に合わされたそうだから直ぐに壊れると思ったのだがーー」


 エルフレッドから視線を外し、その映像を眺めては愉快そうに口角を上げて嗤う蛇を風の刃が襲う。それを闇の魔力で弾きながら蛇は笑いーー。


「ああ、そうか‼︎その当時は奴も雌の使い方を知らなかったからなぁ‼︎ハハハ‼︎現実では無いとはいえ捕まえれば直ぐに壊せそうだなぁ‼︎」


 上からの振り下ろしを小柄な身体を使い上手くすり抜けた蛇は影を伝って移動する。先程まで蛇がいた所をエルフレッドの大剣が粉砕ーー大きなクレーターを作り上げた。影から顔を出し、チロチロと馬鹿にするように舌を出したウロボロスの場所を再度、大剣が粉砕する。穴ボコだらけになっていく試験部屋を嘲笑うように蛇は天井から顔を出しーー。





「今の奴は雌を()()()()事に執心しているからなぁ‼︎鬼ごっこもさぞ楽しかろう‼︎」

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