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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第六章 常闇の巨龍 編(上)
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「ーーということがありまして連絡がついたエドガーさんを飲みに誘った訳です」


「ギャハハ‼︎マジかよ‼︎つうか、ジャノバのおっさんのその話は俺も本人から詳しく聞きたいわ‼︎」


 極々庶民的な第二層の酒場にて、麦酒を煽りながらエドガーが爆笑している。隣に座るエルフレッドも「どうせならSランクの集まりとかで暴露したいですよね?まさか、担任が後輩だとは思いもしないでしょうし」と麦酒片手に笑うのである。騒がしい店内に響く騒々しい笑い声ーー良くも悪くも活気に満ち溢れた場所である。


 そんな中でトレンチでの強烈な一発を放った音が響いた。昔の名残りでウエイトレスの臀部に手を伸ばしたおっさん冒険者が避けられた挙句、一発を喰らった音だった。


「最近はメチャクチャ厳しいのにああいうのもジェネレーションギャップなのかねぇ」


「まあ、あの世代の人達は更に上の世代の悪い所を見て育ってますからね......別にその世代でも許された訳では有りませんがーー」


 説教されて土下座をかましているおっさん冒険者に野次が飛んでいるのを見ながら溜息を漏らし、エドガーはお代わりと手を上げた。序でにと飲み干してお代わりを頼んだエルフレッドは彼女が痴漢に遭いかけて機嫌悪そうにしているウエイトレスだと気付いて「さっきの対処は見事でした」とチップを渡せば彼女は満面の笑みを浮かべてカウンターの方へと戻っていった。


「おいおい‼︎そんな期待させるようなことして良いのか?それとも、あんな別嬪さん貰ってて一人じゃ満足出来ないってか?いやぁ〜英雄さんは違いますね〜‼︎」


「あんまり馬鹿なこと言わないで下さいよ?折角、飲むんだったら楽しく飲みたいでしょう。それにアイゼンシュタットで俺とリュシカのことを知らない人間は居ませんよ」


 そう言うと良いタイミングで戻ってきたウエイトレスが「麦酒二つとサービスです♪これは婚約者様にどうぞ♪英雄様♪」とテーブルにどデカイ肉料理と小さな包みを置いて、大変ご機嫌な様子でカウンターへと戻っていった。


「ちょいちょい‼︎エルフレッド‼︎お前、ウエイトレスに幾ら渡したの?」


 と耳打ち加減で聞いてくるエドガーに「一番大きな紙幣を一枚」と言って包みを空間魔法の中に閉まった。


「マジかよ!そりゃあ、あんだけご機嫌になるわ......この肉料理と包みの分引いても、ちょっと良い服が二、三枚買えるくらいの額じゃん‼︎」


「まあ、普段食べている店に比べれば出費のしの字にも満たない場所ですからね。それに巨龍の報酬以外にも国からの依頼や融資の利息とかで儲けてますから......気分の良い時間を過ごすことに比べればこのくらいは」


 肉料理をパクリーーモグモグとしながらオヨヨと涙を流すフリをして「すっかりお金持ちになっちまって......」と漏らすエドガーに「......出費のしの字もいかないってところに突っ込んでくれませんかね?公爵令嬢ーーそれも三大公爵家筆頭の姫様を貰うというのはそれだけお金が掛かるってことです。それでも彼女は無欲な方ですし、彼女に使うお金は一銭足りとも惜しみませんし、惜しくもありませんが」とエルフレッドも肉料理を口に放った。


「大体、稼ぎで言うならエドガーさんだって大して変わらないでしょう?Sランクの依頼に加えてSWDの隊長ですから。危険度もあって相当な給料だって聞いてますよ?」


 麦酒を煽り「まっ、正直稼ぎだけならな?つっても、ウチは危険も危険だから後続が中々入って来ねえんだわ」とぼやいてお代わりを頼んだ。そして「エルフレッド。お代わりは?」と訊ねてくるので「勿論、お付き合いします」とエルフレッドもジョッキを空けた。


「まあ、仕方ないんだけどなぁ。指名手配犯ってのは実力的な面もあるが精神的にヤバイ奴等が多い。普通の人間じゃあやらねぇようなことを平気でやるから、その分、殉職率も高い。お前の同級生の女の子......えっと、ほら、剣聖の末裔?あの娘を誘った時も正直駄目元って感じだったんだよなぁ」


 エルフレッドはにこやかなウエイトレスからジョッキを二つとも受け取りエドガーに渡しながら「イムジャンヌですか?まあ、彼女は騎士志望でしたからね。それに騎士の仕事が決まらなければSWDも検討してたくらいには迷ってましたよ?」と麦酒に口をつける。


 甘辛の肉と良く合う為に麦酒が進む。


「マジかよ‼︎第二希望でも珍しいんだぜ‼︎ああ、余計に残念って奴だぁ.......こりゃあ肉も足りなくなりそうだ。エルフレッド、まだ食えるか?」


 と骨を皿にポイっと投げて手拭きで指を拭きながら告げるエドガーに「勿論。今日は締めは要らなそうですね?」と彼は笑った。追加の肉盛りを運んで来たウエイトレスに「何度も重いもん持ってきて貰って悪かったな?おいちゃんもチップ上げるからお店の仲の良い友達と美味しいもんでも食べてきな」とトレンチに紙幣を載せた。


 ウエイトレスはもう今日は最高の一日だと言わんばかりに喜んで、ふんだんにサービスした後にシフトの娘全員を集めて「終わったらステーキ食べに行こっ♪」と頬を緩めている。そんな様子を微笑ましげに見ながら「エドガーさん、ああいう素直な娘、好みでしたよね?」と笑うと「まあな!つってもSWD勤めって言った瞬間に激しく嫌がるのも、ああいうタイプ何だけどな!」と大笑いするのである。


「エドガーさんクラスでも駄目なんですか?」


 不思議な魅力を放つ三白眼の切れ長な瞳に束ねた長髪の眉目秀麗な顔立ちーー法衣ながら爵位を持ち、Sランク冒険者として多大なる実績を持つ。そして世界政府の治安執行部隊の中でも高給取りで有名なSWDで隊長を勤めて早五年ーー、危なげなく任務をこなし続け、任務達成率は百%に近い驚異的な数値を叩き出していた。


 確かに殉死率の高い職業ではあるがエドガー程の実力者が危険な目に合う事は、ほぼ無いだろう。故に結婚相手に困る事はないと考えていたのだがーー。


「まあ、十年前なら困らなかっただろうが......SWD史上最強と言われていたオズワルド爺が最後の任務で殉死しちまったからなぁ......あれからはもう隊長クラスでも閑古鳥が泣いてらぁ」


「”首取りのデュラハン”ですか......あれは相手が悪かったとしか......」


 かつて世間を恐怖のドン底に陥れた連続殺人鬼が居た。老若男女問わず殺害に殺害を重ね、被害者は五十名にも上った。当然、世界政府は早い段階からSWDを投入ーーしかし、デュラハンと対峙した三名が殉死、異名にある通り首を持ち去られて殺害。最終的に定年間近ながら任務達成率百%を誇るSWD最強の男オズワルドが投入される事となった。


 オズワルドは遂に犯人を追い詰めて捕まえるが黒のローブから出て来た犯人が僅か十二歳の少女であった事に動揺してしまった。普段の彼ならばそうはならなかったろうが自身の孫の女の子の歳が丁度その位であった。虐待を受けていたのか痣だらけの体で怯えた瞳を向ける彼女に一瞬だけ孫の姿を重ねてしまったのだ。特殊な器具を使い拘束する事には成功したものの、その一瞬の間に彼女の特殊能力である空間断絶の能力で首を落とされてしまった。


 結果、任務達成率は百%のままであったが殉死ーーSWD最強の男の死亡は世間を驚愕の渦に巻き込んだ。それを成した首取りのデュラハンが僅か十二歳の少女だったこともあって世間の反響は大きかった。あれから既に十年近い月日が経っているが未だに影響が残っているのか、とエルフレッドは眉尻を下げるのである。


「正直な話、実際はエルフレッドの言う通り相手が悪かったとしか言いようがねぇが世間はそうは思っちゃくれねぇ。SWDの名を出せば結婚寸前までいった婚約者ですら”史上最強と言われた人ですら殉職するくらい危険な職場なんでしょ?”って言う訳さ。もし、そこを乗り越えたとして親は絶対に許さねぇ。SWDに勤めるヤツに娘をやれるか‼︎ってのは結構聞く話だ。女性の隊員はまだ寿退社って手が残ってるから零では無いが男はなぁ......」

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