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天を掴む手と地を探る手  作者: 結城 哲二
第六章 常闇の巨龍 編(上)
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 エルフレッドの話はアーニャの婚約式での一件に始まり、友人と疎遠になっていった後にアルドゼイレンとの戦いへと繋がった経緯を話した。自身が報われぬ状況の中でイムジャンヌと戦い、アルドゼイレンと戦った。そして、アルドゼイレンを斬った時、自身の中で何かが変わってしまったようなーーそんな感覚に陥ってしまったのだ。


 納得していなくても理由が有れば友を斬れる。それを成した事に思い悩み、果ては疲れてしまった。それを話したところで皆に理解を得られるわけがなく解決に導かれるとも思わない。しかし、自身が何らかの答えを出さなければ悩み続けてしまう他ないのである。


 そんな現状をありのまま話せばアマリエは非常に難しい表情を浮かべた。


「やはり、難しいですか?」


 そう問いかける彼の前で「難しいと言えば難しいし、そうでもないと言えばそうでもない」と彼女は唸り声をあげながら答えた。そうでもないと言えばそうでもない?そう言われ不思議に思ったエルフレッドが「どういうことでしょうか?」と訊ねればアマリエは言葉が纏まったとエルフレッドを見てーー。


「要は捉え方次第だと私は思う。確かに納得してなくても斬れると考えれば大きな問題のように感じるかも知れないが、友に乞われて仕方なく.....という理由があったと考えればそう難しいことでもない。自身に問題があったのではなく相手に問題があったと考えれば意外と普通のことだろう?悩むべきはエルフレッド君ではなくアルドゼイレン。自身の目的の為に戦わせようと考えたあちら側に問題があるという捉え方では駄目なのか?」


 言われて少し思考する。確かに自身は望んでない戦いをさせられた立場である。そして、アルドゼイレンの目的は達成された。命を落とそうが落とさなかろうが何方にせよ、目的が達成される事もあってか、かの巨龍には全く後悔がなく、結果、命も落とさなかった訳だから罪悪感も抱いていないという所かーー。


「そうだとすると何だか腹が立ってきました」


「だろうな。その一件に関しては私なら特に何とも思わないな。寧ろ、エルフレッド君の状況を知って尚、自身の目的を優先させた事を考えれば私が同じ立場でも腹を立てていたことだろう。それよりも私は聞いてて少し思ったのだが、最近のエルフレッド君は思考か極端になっているのではないか?マイナス思考というか、柔軟性を失っているように感じている」


 柔軟性を失っていると言われると元々柔軟性があった方なのか疑問に思うところであったが、確かに一つの考えから抜け出すことが難しくなっているのかも知れない。延々と考え込んではいるが同じ所を堂々巡りしていると言えばいいのか、少なくとも前に進んでいる感覚がないことは感じていた。


「アマリエ先生がそう言うならば、そうかも知れません」


「ふむ。まあ、私が一年生の時の君や二年の部活動の時の君と話したことを思い返すとな。やはり、アーニャ殿下との一件でかなりナーバスになっているのだろうな。友人関係とて素晴らしい子達ばかりだが、君にはもう少し上の年代でアドバイスをくれるような友人が一人や二人はいた方が良いだろう。メッセージのやりとりだけでもいい。そういう付き合いがあれば状況は自ずと改善していくように思うぞ?」


 最近のアドバイスで多い意見の一つである。学園だけの繋がりではなく、少し上の年齢の人々との交流を持った方が良いとーー。


 それは今の友人関係を良くする上でも有効な手立てとなりえる。そして、それがこういった相談をする際にもっと気兼ねなく会える存在であると尚良いと彼女は語る。


「なるほどですね。周りの大人の方々に相談した際もそういった事を言われました。真面目に一度検討してみます」


「ああ。そうすると良い。私は別に今そうやって相談を聞いてくれている大人の方々でも良いように思うが君の交友関係を考えると気兼ねなく会える存在ではないのだろう」


 苦笑を浮かべたアマリエに「主にSランクの方々ですね。偶にサンダース先輩とかが面倒を見てくれてはいますが、ぼちぼち国家資格の勉強で忙しくなるようでして」と告げれば「ふむ、確かに気兼ねなくとは言えないな」と肩を竦めた。


「とはいえ、君も冒険者をしていたから解ると思うが気兼ねなくといっても大人というのは時間に縛られているものだ。逆に時間があり過ぎる大人というのはあまりどうかと思うしな。無論、上手くお金を回している人々もいるだろうがーー。まあ、何が言いたいかと言えば時間で言えば同年代の友達程、時間を共有出来る存在は居ないという事だ。私が想定している気兼ねない大人というのも月に一、二回、顔を会わせる事が出来て、困った時にメッセージのやりとりが出来る程度の付き合いのことを考えている。その位ならば互いに負担にならんしな」


 そう言った後にアマリエは「無論、困った時に私に相談をして貰っても構わないが、あまり担任と面談ばかりしていると周りが心配するだろう?」と笑うので「確かに......今日の時点で既に一人心配で堪らない人がいるようですし......」と携帯端末を取り出せば婚約者からのメッセージが数件程届いていた。


「ハハハ!愛されているな!まあ、逆にそこには問題がないようで安心したぞ!多少、重くは感じるかも知れないが大切にしてあげなさい」


「ええ。寧ろ、最近はこのくらいの方が安心出来る気がしてます。何だかんだ一番気遣ってくれていますし。ハッキリ言って惚気てますよ。今」


「これはこれは恐れ入った!とはいえ君達は前から中々に重度の物があったがな。見ているこっちが雰囲気に当てられそうになるようなーー。まあ、良いさ。私からのアドバイスはそのくらいだな。他に質問は?」


 そう言って最終確認のように聞いてくるアマリエにエルフレッドは少し思考してーー。


「いえ。お陰で少し思考が晴れてきました。ありがとうございます。他の人のアドバイスもありますし、少し吟味してみたいと思います」


「それなら良かった。これからも何か困ったことがあったらいつでも相談してくれ。さて、そろそろ職員室に向かうとするかな。その後は部活動に顔を出さねばーー」


 きびきび、と片付けをしているアマリエに礼を言って教室を出る。携帯端末で上の空だった件を指摘されアドバイスを受けていたというメッセージを送り、教室を出れば偶々アマリエ先生と同じタイミングであった。


「そういえば、先程、他の人のアドバイスもあると言っていたがどんなアドバイスを貰っているんだ?」


 単純に職員室に向かうまでの時間潰しだろうとエルフレッドは「そうですね。先生と似ているアドバイスならば社交界に顔を出して別年代の友達を作るのも良いって話です。少し違うのは距離を置くために家出したらどうかとーー」と肩を竦めながら言えばアマリエは少し微妙な顔をしてーー。


「ちょっと待て、エルフレッド君。前者は良いが後者のアドバイスは誰からだ?教師としてはそのようなことを言う人物との交友は少し考えた方が良いと思うぞ?」


 エルフレッドは確かに教師という立場からすればジャノバのような大人は少しオススメ出来ないタイプだろうなぁと苦笑する。


「ああ、クレイランドの大公でSランクのジャノバさんですよ。確かに先生の立場からすればオススメ出来ないような人物かも知れませんね」


 ジャノバの名前を聞いた瞬間にアマリエは「......あの御仁は未だにそんなことを言っているのか......」と苦々しい表情を浮かべるのだ。


「アマリエ先生はジャノバさんをご存知なんですか?」


 と言えば「知ってるも何もあの方は私の先輩だ。二つ上のーー」と口に出したのを皮切りに出るわ出るわ、本人が絶対に語らないような学園生時代の黒歴史がボロボロとーー特に下級生に手を出しまくり、アマリエまで軟派しようと声をかけた結果撃退された話は秀逸そのものだ。今度本人に会った時は詳しく聞いてみようと思ったエルフレッドであった。

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